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第四十二話 金髪の女戦士

母、マーシャの髪と瞳の色を修正しました。

 ようやくダンの記憶を取り戻したジョージたち。

 そして、ハレムンティア王国や、それを滅ぼしたフェドロの話をダンの口から聞き、ジョージはハレムンティア王家の血筋であることと、ジョージは『太陽のフェロモン』という特別なフェロモンを扱っているという事実を知ったのだった。



 ダンを探し出し、母であるマーシャに会わせる事はジョージの冒険者になった理由のひとつだった。記憶がなくてそれは先送りになっていたが、これでようやく実家に帰る事ができる。




 * * * * *



 ──と、いうことでジョージとダン、そして転移魔法が使えるウィステリアは、マーシャの待つジョージの実家に帰って来た。……のだが……。



「ど、どういう事なのだ、ジョージ……これは」



「分からねえ。だが、()()があったんだろうな」


 ふたりが目の前の光景に戦慄する。


 なぜならば、マーシャのいるはずの実家は……。


「瓦礫の山になっていますわね。壊されたようにも見えます」


 そう、何者かによって見るも無惨に破壊されていたのだ。瓦礫の中にマーシャの姿がないのは救いか。

 しかし、そうなるとマーシャの行方が心配だ。


「せっかく会えると思ったのに……」


 ダンは記憶を全て取り戻した結果、記憶を失って家族と離れ離れになっていた時の、約15年間分の喪失感に苛まれていた。なので、より一層マーシャと会えることが楽しみだったのだ。

 なのに会えないどころか、こんな結果になってしまい、もう気が気でなかった。


「親父……」


 どう声をかけて良いか分からず、ただ父親の寂しそうな背中を見守ることしかできない。そして、しばらく沈黙が流れ、手がかりを探そうと思ったその時。



 ──グォオオオオオオオオオオ!!!


「なんだ?!」


 耳を(つんざ)くような雄叫びが周囲を包み込む。


「空を見てくださいませ!」


 ひと足先に音の出所を発見したウィステリアが、ジョージとダンに声をかける。


「あれは!」


 ジョージがそのモンスターを見て驚く。そして、続いて顔を上げたダンが、正体に気が付いて冷や汗を垂らした。


 ヤギのツノ、鷲のカギツメ、コウモリの翼、竜の尻尾、鬼のような顔。そして筋骨隆々で真っ黒な3mもある人型の巨体。


「こんな所に……()()()()()()()()()!?」


 悪魔系モンスターであるレッサーデーモンですら、中級冒険者がパーティで戦って倒す強さだ。

 しかし、グレーターデーモンはそのレッサーデーモンのさらに上位種。


 上級冒険者のさらに上、S()()と呼ばれる冒険者で、しかも近接戦闘と対応力に優れていてようやく五分に戦える強さである。

 ・得意技は『ダークネスファイア』──邪悪な黒い炎で、敵を焼き尽くすぞ!


 そのグレーターデーモンが、空中で()()()と戦っていた。しかも、雄叫びを上げるほどの本気を出して。


「相手は誰だ……人?」


 ジョージが目を凝らすと、それはどうやら人に見える。しかし、空中を縦横無尽に飛び回り、グレーターデーモンに負けるどころか、むしろ常に優勢の戦いである。


「本当に人か?

 風魔法も使っていないのに、空中を飛ぶ人なんて型破りすぎる……」


 ダンは15年間修行をしていなかったが、それでも強い戦士だった。それに、現代の知識もある。だが、風魔法以外で飛ぶ人なんて聞いたこともなかった。

 当然、鳥系の獣人が翼を使って飛ぶのは理解できる。しかし、グレーターデーモンと戦うその人には翼など付いていない。


 ダンが圧倒されていると、その戦いはさらに苛烈(かれつ)を極める。



 ──ズダダダダダダダダダダッッッ!!!


 その人がグレーターデーモンの胴体に目のも止まらぬ速さで、連続パンチを叩き込む。


「アダダッダダッダダダァァアッ!?」


 グレーターデーモンは拳を受けてのけぞるが、相手はその隙を見逃さなかった。両手を重ね合わせると、ハンマーのように思い切り振り下ろす。


「ぐっふぉお!?」


 空を切ってすごい勢いで墜落してしまうが、相手の戦士はそれを超えるスピードで飛んで先回り。下からグレーターデーモンを蹴り上げた。



「な、なんという強さだ……」


 ダンはその光景に戦慄する。


「……金髪の、女性か?」


 ジョージが目を凝らしてその戦士の姿を見る。だが、誰なのかまでは分からない。ただ、その戦士が金髪の女性、そしてオーラのようなものをまとって、素手で戦っている事だけは理解できた。



「……もしかして」


 ウィステリアは正体を察し、戦士の戦いを完全に傍観することに決めたようだ。



 ● ● ●


 グレーターデーモンは上空に吹き飛ばされながらも、翼を広げてなんとか体勢を立て直す。そして、金髪の女戦士に吼える。


「おのれ人間、許さんぞぉおお!!」


 瞬間移動さながらの高速飛行で戦士に詰め寄り、容赦のない連続攻撃をしかける。


 爪を立てて突き、足で蹴り、尻尾で薙ぎ払い、邪悪な炎で焼きはらう。その攻撃ひとつひとつが上級冒険者を一撃で倒すほど重く、しかもそれが目にも止まらぬ早さで連続で飛んでくるのだ。

 いくらS級冒険者でもこの猛攻を受ければタダでは済まないだろう。


 ……そう、S級冒険者なら。


「な、なにぃっ!?

 なぜ、我の攻撃が……!!?」


 その金髪の女戦士は、グレーターデーモンの攻撃を全て的確に捌いていた。


「だ、だが、守ってばかりじゃ、勝てんぞ人間んん!!」


「……フッ」


 戦士が不敵に笑った、その刹那。


 ──ザンッッ!!


「カハッ──!!」


 グレーターデーモンの尻尾が、戦士の()()で斬り伏せられていた。


「はぁっ!!」


 戦士が気合いを入れ直すとオーラがさらに膨れ上がり、身体能力が大幅に上昇する。


「ま、まだ強くなるだと!?

 貴様、補助魔法を使わずにステータスをコントロールできるのか!」


 気が付いた時にはもう遅かった。いや、この金髪の女戦士と戦いになった時点で……むしろ、この戦士の()()()()してしまった時点で運命は決まっていたのだ。



「覚悟しな!」


 ──ドゴォォオオオンッ!!!!



 ただのパンチだった。だが、そのパンチがグレーターデーモンの腹に撃ち込まれた瞬間、まるで雷が鳴ったような凄まじい轟音が鳴り響いた。


 グレーターデーモンは一瞬意識を失ったがなんとか取り戻し、満身創痍(まんしんそうい)の体にムチ打って反撃の構えをとる。


「喰らえ、ダークネスファイア!!」


 邪悪な黒い炎を手から放って攻撃した。だが──


()()()!!」


 戦士はその炎を簡単に握り潰して消してしまい、そのまま再び拳を叩き込んだ。



 ──バギィイイイッ!!


「ぐぼっふぇあ!?」


 グレーターデーモンが隙を晒したのを、この戦士が見逃すはずがなかった。




 ──ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!



 凄まじい連続攻撃だ。光が明滅し、摩擦で炎が散り、音速を優に超えて衝撃波が吹き荒れていく。



「せいっ!!」


 そして、軽いかけ声と共に放たれたエゲツない回し蹴りによってグレーターデーモンはぶっ飛ぶ。


 当のグレーターデーモンは翼を広げて止まろうとするが、音速すら置いていくレベルのスピードと勢いに、為す術なく吹き飛んでいくしかない。もはや、大人の本気を目の当たりにした子供のような理不尽さだった。



「すぅ…………!」



 金髪の女戦士はグレーターデーモンを見据えながら、緩慢な動きで両方の手のひらを向かい合わせにしてエネルギーを溜めていく。


 ──キィィィイインっ!


 エネルギーが収束すると、眩い光が一帯を照らす。そして……。


「滅びよ、グレーターデーモン!!!」


 ──ゴウッ!!


 爆風が地上の草木を消し、岩を抉り飛ばし、その光弾がグレーターデーモンめがけて飛んでいく。


「なっ!?

 ぐふぉおおおあああああ…………!?」



 ──チュドーンッ!!!!



 まさに大爆発。一瞬にしてグレーターデーモンは散りひとつすら残さずに滅びたのだった。




「…………雑魚が」




 ● ● ●



「な、なんという強さだ……」



 ダンはその光景に恐れ(おのの)いた。人の身でありながらあそこまでの強さまで上りつめた者がいるとは、夢にも思わなかったのだ。

 ダンロッソでシンに技術を教えてはいたが、シンもここまで強くはなかった。世界を知らなかったことを、ダンは痛いほど突きつけられたのだ。

 しかし、何より今は、その相手がこちらに敵意を向けていないことに一番心が救われていた。


 ちなみにダンは、ジョージやウィステリアの強さも知らないので、きっとその強さを知れば驚くこと間違いなし!

 世界的な強さの常識こそさほど変わりないが、何せ2人とも、ダンからすれば常識破りのチートみたいなものなのだから。



「……ウィジー、あれって」


 ジョージも戦士の戦いを見て何を察する。


「ええ。ジョージのお考えで間違いありませんわ」


「やっぱりか」


 ジョージがホッとした顔をしたのとほぼ同じタイミングで、金髪の女戦士がこちらの存在に気が付いた。


「く、来るっ!!?」


 ダンが冷や汗を垂らしながら身構える。……が──


「もしや……?」


 確信こそ持てないが、その姿に心当たりがあった。そして、ホッとしたのも束の間。



 ──ドッッッガ────ンッッッ!!


 戦士は一瞬で距離を詰めて、隕石が落ちるみたいに地上に着地する。ただ、着地とは言っても凄まじい勢いの前に大爆発を起こし、地上に巨大クレーターができてしまう。

 なんなら、先ほどのグレーターデーモンを滅ぼした光弾より威力があるかも知れない。



「うっ、うわぁああああああああああああ!!?」


 大人の色気があるダンディミドルも無様に声を裏返して叫び、土砂にまみれ、ゴロゴロ転がってしまう。


 そんな事はつゆ知らず、その女戦士は一番近くにいたウィステリアを見て嬉しそうに笑う。


「あら、ウィステリア。来てたの?」


 さっきの戦いの気迫が嘘のようにフレンドリーだ。


「ええ、先ほど着いたばかりですわ、()()()()


 そう、その戦士の正体は、他でもない。ジョージの母である"()()()()()()()()()()()"、その人だった。


 ツンとした髪質でブロンドのロング、キリッとした目つきにオレンジ色の瞳、スラっとしていながらも、布の服では隠しきれない鍛え抜かれた肉体。そして、威風堂々とした佇まい。

 強者を探して彷徨い、ダンに喧嘩を売ってボコボコにした挙句角砂糖を強奪していたあの戦闘狂のマーシャが、そのまま成長したような姿であった。



「お、お袋?! ウィジーも?」


 しかし、ジョージは違うところで驚いていた。


「どうかしましたの、ジョージ?」


「だって、ふたりとも面識あるのか?」


 ジョージは冒険者になって以来、ここに帰ってきていない。つまり、ウィステリアをマーシャに会わせたこともなかったのだ。

 なので、まさかウィステリアとマーシャが知り合いだとは思っても見なかったのである。


 そんな様子に、口を開いたのはマーシャだ。


「ジョージ、まずはおかえり。

 ウィステリアは1年ほどの付き合いだよ。ジョージがおにぎりで作ったダイヤモンドをウィステリアに贈ったそうじゃないか。その時に律儀にも挨拶をしてくれてね、その後もジョージの近況を逐一報告してくれたのさ。

 そのおかげで過剰に心配せずに済んだってところかな」


 そこまで言うと、少し寂しそうな顔で。


「まあ……寂しいのは変わりないから、気を紛らわせるために遊んだりしたけどね」


 その言葉を聞いてジョージは眉間に皺を寄せる。


「な、何をして遊んだんだ?」


 固唾を飲んで次の言葉を待つ。ジョージは、嫌な予感がしていた。できれば、違っていて欲しい。

 子供として、母を大切に思うのは当たり前だ。

 気が付いたら家にいない……なんて事にはなって欲しくない。母のことは信じてはいるが、マーシャはジョージが冒険者になる前、酷く落ち込んでいたのだ。

 だからこそ、自暴自棄になって……なんてことも考えられる。


 それに、もしかして……と思うだけの材料もあった。


 そして、そのジョージのその嫌な予感は的中する。


「フェドロ軍に喧嘩を売って戦いまくってたのさ」


「お、お袋ぉおお!!」


「そ、そんなに怒らないでジョージ!」


「怒るさ!

 なんて危険なことをしてるんだよ、もし目を付けられて大怪我でもしたらどうするんだ!!」


「でもでも、だって……。

 ストレスが溜まると、戦いたくなるんだもん……」


 マーシャはジョージにタジタジになり、シュンとして落ち込んでしまう。


「だからって、わざわざフェドロ軍を狙わなくてもいいだろ!

 それに、さっきのグレーターデーモンだ」


「う、うん……」


 マーシャが目を逸らしながら頷く。


「はぁ〜……やっぱりか!

 この辺に悪魔系モンスターが出るようなスポットは無え!

 あれもフェドロ軍の操るモンスターだったわけだな?

 つまり、お袋はまんまとフェドロに見つかって目を付けられたわけだ」


 フェドロはモンスターを操る技術を持っているので、それを使ってマーシャに刺客を送ってきていたのだ。


「うん……そう。

 それはそれとして、ジョージ……お袋じゃなくて『ママ』って呼んでって言ったじゃないか」


「今はその話はしてない!」


「はい、ごめんなさいぃ!」


 戦闘狂のマーシャも、可愛い息子には勝てなかったようだ。


「仲がいいですわね」


 ウィステリアはふたりの様子を見て、少し離れたところでクスクス笑いながら見守っていた。


 ● ● ●



「──ジョージ、反省しているようだしその辺りで許してやってくれ」


 少し経って、ヒートアップしたお説教の声でダンが目を覚ましたようだ。


「親父……。分かったよ」


 ふたりの声を聞いたマーシャが目を見開く。そして、その声の主がゆっくり近づいてくると、目に大粒の涙を溜めてヨロヨロと歩み寄っていく。


「え、そんな……本当に、アンタなのかい……?」


 そんなマーシャを受け止めて抱きしめ、ダンは優しくも力強い声でこう言った。



「……()()()()



 

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