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第四十一話 ハレムンティア王国とフェドロ

 ダンの記憶喪失はフェドロンのせいで記憶薬の効果がうまく作用せず、一時は()()()()()()()も危ぶまれたが、カレンの機転とジョージのフェロモン、そしてそれを昇華した『アカシックレコーダー』というウィステリアの()()魔法によってなんとか危機を脱出。記憶を取り戻すことに成功したのだった。



 * * * * *




「──ぬ、ぬわ〜〜〜!!?!?」



 ダンは絶叫した。

 頭の中に20年以上の記憶が次々に流れ込んできて、頭がおかしくなりそうだ。クレイジーなダンディミドルも悪くないが、憂いのあるミステリアスなイケオジだったダンは、それを受け入れられなかった。

 しかし、究極を超えた究極である禁術を、さらに超えた……いや、超えすぎて世界の理を超越してしまった『超越魔法』の前では、百戦錬磨のダンも赤子(よちよちベイビー)同然。


 抵抗することもできずただ記憶の海に溺れるしかできないのだった。開き直ってハイになったダンは、頭の中で踊り出す。パーリィナイト!

 脳内が私のステージだ。怒涛のダンスで観客(ダン自身)が満足して『こんな自分も悪く無いかもな』と思っていたのも束の間。


 幸か不幸か、ダンはアカシックレコーダーの追加効果で正気に戻ってしまった。そして、某パズルゲームみたいに記憶が整理されて、わだかまりが2連鎖、3連鎖と無くなって行ったのだった。


「そうか! なるほど! フェロモン! 私がダンだ! 民が国だ! フェロモン奥義! ハレムンティア!」


 連鎖的にダンは記憶を全快させた。そして、ダンの過去が回想される──




 * * * * *



 約50年近く前。かつてハレムンティア王国があった頃、ダン・()()は産まれた。


 男爵家の騎士一家であったソル家は、ハレムンティア王家の象徴でもある『フェロモン騎士団』の中枢を担っている栄誉ある一族だった。


 ソル家が編み出した『フェロモン剣術』は、それまで身体能力強化と相手を魅了することしかできなかったフェロモンに、物理ダメージを可能にするという革命をもたらした。

 小国でありながらハレムンティア王国が落とされず長らえてきたのは、このフェロモン剣術とフェロモン騎士団、そしてソル家の活躍のおかげと言っても過言ではない。



 そして、フェドロからの攻撃が始まる前。正確に言えば、まだフェドロが子供でありハレムンティアへの敵意を向ける前、ハレムンティア王国は全盛期を迎えていた。


 そんな中、ソル家に類まれなるフェロモンの才能を持った男児が産まれたのだ。それこそがダンであり、若くして騎士団長に上り詰め、ハレムンティア王女と結婚し、ジョージの父となり、激動の時代を生き抜き、しかし記憶を奪われてしまったビターな味わいの人生を歩んだ()()ディミドルの始まりだった。



 小さい頃、ダンは調子に乗っていた。才能にあぐらをかき、鍛錬もせずにサボっては角砂糖を貪る日々を8歳まで過ごしていた。

 しかし、1人の少女との出会いが全てを変えた。


 それこそ、のちのジョージの母になるマーシャ・ハレムンティア王女だった。


 いつものように角砂糖をバリボリ食べて街を練り歩いていたダン少年(8歳)は、生意気にも砂糖屋さんの前で3つも一気に食べると言う()()()()()を見せた。


 普通なら砂糖屋さんに微笑ましく見守られながら帰るところだが、今回はそうはならなかったのだ。

 その時ちょうど(おしのびで)強者を求めて彷徨(さまよ)っていたマーシャ(6歳)に喧嘩を売られたのだ。



 ──完全敗北!!


 フェロモンの才能も負け、鍛錬もしていなかったので技術面でも負け、しかもありったけの角砂糖をカツアゲされて涙目で逃げ帰るという散々な目にあったのだ。ちなみに、ダンが初めて泣いた日でもある。


 そこからダンは心を入れ替えて鍛錬を積み、角砂糖も1日につき2つまでという節制を心がけ、そのおかげでメキメキと強くなって13歳で騎士に、18歳の時に騎士団長にまで上り詰めることができた。


 そして、騎士団長になったからとハメを外し、角砂糖を3つも一気に食べた時……また、出会ってしまった。


 また、ちょうど(おしのびで)強者を求めて彷徨っていたマーシャ(16歳)と。


 ──完全敗北!!


 マーシャはバトる気満々だったが、かく言うダンはマーシャに目を奪われてその隙に1撃KOされてしまったのだった。


 まっすぐ綺麗に伸びた金髪のロングヘア、切れ長の目で鋭くも綺麗なオレンジ色の目、均衡がとれたスッキリとした顔立ち、長い四肢に健康的な筋肉がついた身体。しかも隙を晒したとはいえ、その一瞬で動きにくいドレス姿でありながらダンを1撃で仕留める程の瞬発力とフェロモン爆発力。

 


 ダンは一目惚れだったのだ。ただ、マーシャにとっては雑魚モブだったが。



 ● ● ●



 そんな雑魚モブくんにも転機が来る。

 良いことも悪いことも同時に起きたその年、数々の試練を乗り越えてダンは強くなった。そして、マーシャの心を射止めた。



 ──しかし、フェドロ軍によってハレムンティア王国が壊滅した。


 ネッチョリ汚いまとわりつくような邪悪なフェロモン、()()()()()と、狡猾な作戦によって、フェロモン騎士団は各個撃破され、しかも倒された団員達は洗脳されてフェドロ軍に加わってしまい、また味方が倒される。

 そんな最悪のループによって、ハレムンティア王国は対策を練る前に瞬く間に制圧されてしまったのだった。


 フェドロがハレムンティアを攻めた理由は誰も知らなかったが、皆がこの国は終わりだと察していた。


 ハレムンティア王夫妻にマーシャを託され、ダンは副団長のバリッドとシンの父、ほか数人の仲間を引き連れて国外へ逃げた。

 王が去り際に『太陽が昇り苗に雫が垂らされる時、樹が世界に恵みをもたらすだろう』と語っていたが、意味を聞く時間はなかった。


 多くの人が助けてくれたが、それでもどんどん数を増やしていくフェドロ軍の前では多勢に無勢。

 ダンも死闘を繰り広げて、勝ち進むしかなかった。


 ダンは成長した。追手を倒し、安全な地を見つけるまでの数年で遥かに強くなったのだ。マーシャが認めるほどに。


 そして、ダンとマーシャはようやく安心できる土地を見つけだし、息子を生み、身分を隠して慎ましやかな生活をする事でしばらく平和な日々を過ごした。

 バリッド達もそれぞれの地で普通の日々を過ごしていた。


 ──しかし、それも長くは続かなかった。


 フェドロ軍が勢力を増し、ダン達がいる村の近くまで来ていたのだ。


 それを知ったダンは、マーシャと当時3歳だったジョージには内緒で戦うことを決意する。もちろん、帰ってくるつもりであった。


 バリッド、シンの父と数人の騎士達を呼び寄せたダンは、村から離れた地で大暴れすることでフェドロ軍の目を引きつけ、家族達に被害が出ないようにしつつ勇敢に戦った。


 ダン達は無数の戦いによって強くなっていたため、一騎当千、無双の勢いで敵を蹴散らしていった。

 だが、その活躍を知ったフェドロは自ら出陣。フェロモンスターと、凶暴すぎてフェドロすら手を焼く()()()()()()()()によって形成逆転、ダン達は敗北してしまう。



 その結果、多量のフェドロンに溺れてダンは記憶喪失、バリッドは洗脳、シンの父親は抗うも生命力を燃やし尽くして倒れてしまった。他の者たちも行方不明。

 なんとかフェドロ達を退け、ジョージ達のいる名もなき村や、現在ダンロッソになっている村が守られたことだけが救いだった。



 危険から遠ざけようとフェドロの事を知らせずに村を去ってしまっため、マーシャもジョージもダンがどこに向かったか分からず、15年もの歳月離れ離れになっていたのだ。



 * * * * *


 そして、ようやくダンは記憶を取り戻した。



「──おかえり、親父……!!」


 ジョージのその声でダンがハッと我に帰る。そして、1()5()()()()にようやくこの言葉を言えた。



「ただいま、ジョージ」


 父親の言葉を聞いたジョージは、とても穏やかな顔で微笑む。


「おせーよ、おふくろが待ってんぞ」


 そんなことは言いつつ、ジョージの声は優しかった。


「そうだな、随分待たせてしまったな」


「ただ、まあ……戻ってきてくれて良かった」


 ぶっきらぼうにボソッとジョージが言うと、ダンの緊張がようやくほぐれて涙腺が緩む。


「ありがとう……」


「ちょっ、泣くんじゃねえよ。……いや、こんな時ぐらい泣いていいか」


 小さくため息混じりに優しく笑いながら、ダンが落ち着くのを待つのだった。




 ● ● ●




 落ち着いたダンはジョージ達に今までのことを話した。

 ダンは、家が人であふれかえり、2階へ続く階段にも、玄関を通して外にも人がいることに疑問を持ちながらも一通り話した。

 話で展開が変わるたびにギャラリーが『おぉ!』とか『そんな……』とか言われて戸惑いつつも、最後まで話すことができた。きっとたくさんの戦闘経験を積んだ百戦錬磨のダンディミドルじゃなかったら耐えられなかっただろう。



「──と、言うことだ。

 私たちは弱くなかった。フェロモンスターぐらいなら難なく倒せたが、フェドロタイタンは別格だった。私でようやく互角。バリッドと力を合わせてなんとか押し込めそうだったが、フェドロ自体も参戦した途端、一気に力関係が逆転して蹂躙(じゅうりん)されてしまったんだ。

 それほどまでに強いのに、フェドロはまだ本気を出していなかった。

 ……ジョージ、お前のフェロモンは強い。天才だし、すでに私よりきっと強いだろう。しかし、フェドロタイタンと、フェドロには気を付けろ。きっと15年でさらに強くなっているはずだ」


 ダンはジョージを認めつつも、かつて戦ったフェドロの脅威に心配せずにはいられなかった。


「分かった」


 ジョージは素直にその気持ちを受け取った。


 自身もつい最近まで最強だと信じて疑わなかったが、フェロモンスターという浄化の効かない敵、シンの洗練されたフェロモン剣術、そしてダンの語る新たな敵とそれを操るフェドロの話を考えれば、気を引き締めなければならないと嫌でも自覚する。


「あの、お義父様。わたくしはウィステリア・ファルドーネ。ジョージの婚約者ですわ。

 それで、先ほどの話で気になることがあったのですが、少しよろしくて?」


 話を聞いていたウィステリアがダンに声をかける。


「……えっと、ああ」


 急に婚約者という単語が出てきて驚きと、ジョージもそんな年ごろかという喜びがありつつも、ひとまずダンは話を進めようと努める。


「ハレムンティア王の『太陽が昇り苗に雫が垂らされる時、樹が世界に恵みをもたらすだろう』という言葉ですが、何か手掛かりはありませんの?」


「樹については分からない。

 ……しかし、太陽については心当たりがある」


 そう言いながらダンは視線を動かし、再びゆっくりと口を開いた。


「ジョージ、お前のフェロモンだ」


「お、俺のフェロモン……?」


「ジョージの?」


「そうだ。

 通常のフェロモン使いが太陽のフェロモン使いの近くにいると、そのフェロモンが強くなるという。

 シンから聞いたが、お前と手合わせした時にいつもの倍近くの出力が出ていたそうだ。

 それに、地属性や氷属性、風属性など物理的に効果をもたらす魔法に、フェロモンエンチャントをして攻撃しなければ、通常……フェロモンで物理的にダメージを与えられないんだ。フェロモン剣術もそれの応用だ。

 しかし、ジョージは生まれながらにして質量のともなう特別なフェロモンを使っていた」


「俺のフェロモンは……特別?」


「普通なら生まれてフェロモンが放出されても『可愛いね』で済まされるが、ジョージの場合は家を半壊させていただろう?

 希望のフェロモンでもあるが、一歩間違えばフェドロやそれ以上の脅威になりかねない危険な代物だ」



「だから、親父は小さい頃に『お前のチカラは世界にとって毒にも薬にもなる。心根が優しいジョージだから世界は喜んでいるが、心が腐ればネッチョリ汚いドブのようなフェロモンになる。精進しなさい』と言ったんだな?」


 ジョージの言葉にダンが静かに頷く。


「……お義父様、ジョージが太陽のフェロモンだというのは理解しましたわ。

 今は情報の整理をしたいのですが、また疑問や気になったことが出てきたら聞いても宜しくて?」


「もちろんだ。えっと、ジョージの婚約者なら私の義理の娘でもあるからな。遠慮なく聞いてほしい」


「ありがとうございますわ」


 ウィステリアはスカートの裾をつまんで丁寧にお辞儀をして一歩下がる。


 その様子を見て少し間をおき、ダンはようやくずっと気になっていたことを口にした。


「……我が息子も婚約者を持つ年頃か。

 それに、フェロモン使いは人を惹きつけるが、ジョージもずいぶん慕われているようだ。

 ……この方々は、どのような関係だ。もしかして、もう家臣や民を持ったとか?

 民こそ国であると言うし、土地を手に入れる前に人を集めたのか?

 しかし、すごい数だ……」


 ダンはなんでもないように、話しているが、内心驚き戸惑っていた。チラッと窓の外を見てみたら、外にも数えきれえないほどのギャラリーがいるのだ。

 100人、いや300人?

 家の中ではよく見えないが、もっといるかもしれない。


 ダンはある程度覚悟をして、ジョージの次の言葉を固唾を飲んで待つ。しかし、ジョージはその予想のはるか上を超えていた。



「俺を慕ってくれて親父の記憶復活を祝おうとしてくれた人が4000人。ギャラリーが3000人。

 俺のハーレムが6000人。合計13000人超。全員面識がある」



「13000人……?

 しかもハーレム6000?!

 せ、戦闘力か何かの話か?」


 キャパオーバーでダンは上手く言葉を理解できなかった。受け入れるには、ぶっ飛びすぎて信じられなかったのだ。しかし、ジョージは容赦なく追撃する。


「この家の周りには本当にそれだけの人数がいる。

 あと、ハーレムはハーレムだ。俺に惚れた人たち(モンスター含む)が、それだけいるってことだ。聞き間違いではないぞ」



「へ?

 あ、ああ……ん?

 そう、え、聞き間違いでは……ない?

 つまり、ええっと、その……はっ?!」


 すると、ダンの表情青白く変化し、さらには眉間にシワを寄せ、口は開いたままになり、血圧も下がって、最終的に泡を吹いて気絶してしまう。


「ぶくぶくぶく──」


 ジョージの型破りっぷりには、さすがのナイスミドルのダンディも形無しなのであった。


「親父?

 ……お、親父ィィイっ────!!?」


 


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