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第四十話 おかえり

 ジョージたちがダンロッソに着くと、紫だちたる髪のシュッとハンサムたるフェロモン使いのシンが待っていた。


「……思ったより早かったね、ジョージ・ハレムンティアと、ジョージファミリーのみなさん。

 僕の見立てだと、あと2週間ぐらいかかるかと思ったが……」


 馬車から降りるメンツの中にカレンを見かけて察する。


「なるほど、あのカレン・リッケンバークを味方につけたか。IQが3万の天才がいるなら納得だ。……30万だっけ?

 あれ、3000だっけ……まあ、すごいのは確かだ」


 1人でぶつぶつ言っているシンに、馬車から降りたジョージが話しかける。


「シン、久しぶりだな。……親父の様子はどうだ?」


 ジョージはシンの独り言をスルーすることにしたようだ。


「変わらず。

 それより、記憶薬は手に入れたのか?」


 するとジョージは懐から青色の液体の入ったビンを取り出して。


「もちろん。エルフの里に伝わる記憶薬。これでエルフは必要な記憶を思い出したり保持するそうだ。……何が必要かどうかは、魔法薬だから良い感じにチョイスするってさ」


「なるほど。……忘れていても無意識下で記憶の取捨選択をしているのかもな」


 シンは納得したようだ。


「じゃあ、さっそく親父のところに──」


 そこに話を聞いていたウィステリアが話に割り込む。


「……待ってくださいませ」


「どうした?」


 ジョージが首を傾げる。


「シンでしたわね?

 ジョージのお父様はともかく、貴方までフェロモンを使えるのはどういう事ですの?

 あと、お義父様との関係も聞かせてくださいな」


 落ち着いた口調だが、反論の隙もない威圧感が出ている。


「……それは後じゃダメかい?」


 シンは確認をとるが、ウィステリアは表情を一切変えずに。


「お義父様の記憶が戻ったら、きっと忙しくなるでしょう。それはシンも分かってますわよね?

 なら、今のうちにはっきりとさせてくださいませ。

 こんなことを言うのは失礼かもしれませんが、現状……シンはフェドロのスパイだと言う可能性もありますもの」


「──僕が、フェドロのスパイだって?」


 そのイケメンスマイルは影を差し、シンは眉間にシワを寄せたイケメンにジョブチェンした。


「ええ。

 フェロモンが使えるのは、今把握できているのはジョージの血族とフェドロのみ。そして、廃れたフェロモン剣術の使い手であのですもの。

 お義父様の記憶がないことを良いことに、取り入ってる可能性があると考えてもおかしくないわ。

 記憶が戻ったら、必要な情報を聞き出すのかしら? 

 それとも、記憶が戻らないように工作するのかしら?

 ……その後、お義父様やわたくし達を始末するのかしら?」


 そこまで言うと、シンは納得したのか表情が少し穏やかになり、ゆっくりと口を開いた。


「確かに、な。

 下手に情報を伝えて混乱や要らぬ危険に晒さないようにと、ジョージ・ハレムンティアに対するライバル心から隠していたけど……そろそろジョージとその仲間も強くなったし、記憶薬も完成した今……話すべきなのかもしれない。

 とは言え、僕が話せるのは少しだけ。あとはダンさんから聞いてくれた方がわかりやすいと思う。

 ()()()()()()()()()それで良いかな?」


 ウィステリアの言動から、シンはジョージともう結婚した間柄だと思ったらしい。

 そして、当のウィステリアは夫人呼びをされて内心嬉しいのか、少し笑みが溢れてしまっている。


「……ええ。そうですわね」


「フェロモンパワーは俺の方が上なのに、実際の戦闘ではこの俺が手も足も出なかった実力は確かに俺も疑問だった。

 シンをスパイだとは思わないが、親父との関係はウィジーの言う通りハッキリさせときたいな。でないと、いざという時に信用できるか、背中を預けられるか、どこまで頼れるか判断できない」


「分かった。そうだね……まず何から話そうか」


 シンは少し考えてから、慎重に口を開く。


「僕の父はハレムンティア王国、フェロモン騎士団だった。だからフェロモンが使えるんだよ」


「……つまり、シンの親も、俺の親と同郷だったわけか」


「そうだ。

 ……ハレムンティア王国が滅びた後、僕の両親はこの地に移住した。しかし数年後、この地を守るために再びフェドロと戦い、父が凶刃によって倒れ、ダンさんは記憶を失った。

 病弱だった母も、そのことを知ってまもなく……」


 そこで顔に影がさすが、すぐに気を取り直して言葉を続ける。


「……記憶を失ったダンさんの家族がどこにいるかわからないから、ダンロッソで保護したそうだ。

 そして、ダンさんは記憶を失ってもフェロモン剣術のノウハウは体で覚えていたからね、僕は次の時代のフェロモン戦士としてダンさんに戦い方を学んだわけさ。

 だから、僕にとっては大切な師匠であり……第二の父親みたいな存在だ」


「そうでしたか。

 ……フェドロのスパイどころか親の仇、そしてダン(お義父様)と師弟関係なら志を同じ仲間とみなして良さそうですわね」


「ま、言葉だけならなんとでも言えるし、僕のことはまだ警戒してもらって構わない。

 フェドロは洗脳も使えるし、いつ僕が不意を突かれるか分からないからね。別行動している以上、用心するに越したことはない。

 ただ、ダンさんと我が父の誇りにかけて、ジョージ・ハレムンティアとその仲間達に卑怯なことはしないと約束しよう」


 みんなが納得したところで、シンを交えたジョージ一行はダンのいる家に向かった。




 ● ● ●




「──こ、これは……」


 ジョージがダンの家に来るや否や、その周囲の光景に思わずたじろいでしまう。なぜなら──



「「「「「ジョージ(様・くん・ちゃん)!!」」」」」


 そう、ジョージのハーレム(&ハーレムに入る()()しれないジョージを慕う人たち)総勢7000人が、リズンバークから遠路はるばるダンロッソまで来ていたのだ。まだ増えているような気もする。


 目的は基本的に記憶が戻る瞬間を見守るのと、ダンへのご挨拶だ。

 あと、ジョージに憧れていたり、ジョージと普通に仲良くなった人たちが、応援するために来ていたりもする。


「こ、これは壮観ですね……」


 アメリアがボソッと呟く。


「はわ〜……ジョージ様って、やっぱりすごい」


 オフィーリアもこれには目を見開いて驚いてしまう。しかし、1番驚いているのはエリンだった。


「こここおここここ……この、人らのNo.0001が……うちなのか?!

 あわわわ……こわ〜」


 元々コミュニケーション苦手民だったエリンは、久しぶりに自分の置かれているコミュニティの大きさにビビってしまったようだ。


「エリン先輩、あたしらは堂々としてにゃいと……。大丈夫、エリン先輩は素敵だから」


 自分も足が震えているのに、健気にエリンを応援するイリーナ。


「そ、そうじゃの……!」


「ぷるっぷ、ちっぷ」


 意外にも、ハーレムの中で1番堂々たる姿を見せたのはぷるちだった。


 そして、ぷるちの姿を一瞥(いちべつ)したウィステリアは、少し考えて優雅に指を鳴らして、震えるエリン達に魔法をかける。


「ほら、これで問題ありませんわよね?」


「……あ、足の震えが止まったのじゃ」


「にゃんか、怖いのがにゃくにゃったよ?」


 そう、魔法で精神を安定させたのだ。


「じゃ、そろそろ親父の家に入ろうぜ」


 入り口で待っていたジョージが優しく声をかける。


「あ、うん。行くのじゃ」


 そうして面子が揃ったのを確認すると、シンが一度頷いて真剣な面持ちで口を開いた。


「ジョージ・ハレムンティア、事情はダンさんに伝えてある。後は記憶薬を渡してくれれば良い」


「分かった」


 短く返事をして、ジョージは扉を開ける。ちなみに、中に入ったのはジョージ宅に住んでいる面子とシンだけだ。流石に7500人は中に入らない。


「──来たな、ジョージ……」


 憂いのある垂れ目がセクシー。ウェーブのかかった黒髪はかきあげられ、声は低くて落ち着き、くたびれた雰囲気すらも大人の色気に昇華させてしまう程のダンディミドル。

 ただの白いワイシャツとチノパンもブランドものかと錯覚させる、ブランデーやビンテージワインのような気品。

 ──ダン・ハレムンティアだ。


 ダンはテーブルに着いて、ジョージを待ち侘びていた。記憶は確かに失った。しかし、だからこそ家族の存在を忘れてしまった罪悪感と、無力感、そして思い出したくても思い出せないという渇望が人一倍強かったのだ。


「ああ。……これが記憶薬だ」


「……これが。これで……そうか、これで私は……」


 ジョージから手渡されたビンを見つめて感慨深そうに呟く。

 自分が忘れたことによって、知らないうちに少なくない人を、大切な人を傷つけただろう。自覚できないのもそうだが、知っても戸惑うばかりで本当の意味で悲しむことができない。そんな虚しい日々をこれでようやく終わらせることができるのだ。



「……さすがに、緊張するな。これで、ハレムンティア王国とフェドロ王国の因縁を詳しく知れる。……父様の最期も……」


 記憶薬を見つめるダンの様子にシンが固唾を飲んで見守る。


「そうだな。これできっと、事態が好転するはずだ」


 ジョージの言葉に、シンや、ウィステリア達も黙って頷いた。



「では、飲むぞ」


 ダンはジョージ達に一言伝えると、蓋を開けて一気に飲み干した。


「……うっ、うぉお……!?」


 すると、ダンの全身が淡く光りだす。光は次第に強くなり、ダンの記憶を呼び戻す……はずだった。


「おかしいですわ!

 魔法が効果を発揮する前に、魔力が霧散してますわ……!」


 ウィステリアが焦った様子で叫ぶ。

 ウィステリアがそう言うや否や、一度強くなった光が徐々に薄れ始めた。


「このままじゃ、失敗します!」


「失敗したら、どうにゃるの……!?」


 アメリアの言葉に、イリーナが恐る恐る聞く。すると、代わりにシンが冷や汗を垂らしながら答えた。


「運が良ければ何も起きずに終わる。

 でも、運が悪ければ……今ある記憶すら失うかもしれない。……永遠に」


 残酷な一言だった。しかし、ダンのことを第二の親とまで慕うシンは、ジョージに負けないくらい悔しいはずだ。

 今までの思い出を目の前で消されるかもしれないのだから。


「じゃ、じゃあ……何か策は無いのかの?」


 絞り出すような声でエリンが呟いた。しかし、残念ながら嫌な沈黙が流れ、その様子にジョージが虚空を見つめて絶望する。


「…………そんな」


 そんなジョージを見たウィステリアは、覚悟を決めて手をかざし魔法陣を展開する。


「……記憶薬なら、また作れますわ。

 原因が分からない以上、新しい魔法をすぐに発明するのも難しいですし、今は諦めて次回また試せば良いのよ。ね、ジョージ……?

 だから今は……この発動失敗している魔法を、消滅させます!」


「あ、ああ。そうだな……」


 ジョージが力無く無理に笑うと、ウィステリアは胸が締め付けられたが、こればかりは仕方ない。永遠に記憶を失うより、ずっとマシだ。

 そして、深呼吸をして失敗した記憶薬の効果を消滅させようとした、その時──


「フェロモンだぁ!」


 気怠げながらも、必死な声が部屋に響く。……カレンだ!


「リッくん……?」


 ジョージが淡い期待を持って、だが不安でいっぱいの顔でカレンを見る。


「ムンちゃん、フェロモンだよ〜。

 フェドロによって洗脳された人らはさ、記憶を持ってなかったじゃん?

 それで、ムンちゃんのフェロモンで、たしか……バリッドって人も記憶を取り戻した系のこと言ってたっしょ……?」


 カレンはダンロッソに来るまでに、ジョージ達の今までの活躍を聞いていたのだ。


「そ、そうか……つまり、フェドロのフェロモン、()()()()()が、記憶薬の発動を阻害してるってことか!」


 ジョージの目に活力が戻る。


「さすがリッくんさん!

 あ……でも、そのままフェロモンをダン様にぶつけても良いのかな?

 魔法としての効果も体に付与してるから、刺激しちゃうとどーん! ってならない?」


 オフィーリアが疑問を投げかける。


「きっとどーん! ってなるねえ」


 カレンはしれっと言うが、すぐにウィステリアの方を見る。


「わたくしにジョージのフェロモンと、記憶薬の魔法効果の制御と調和、そしてそれを利用した新たな魔法の開発及び発動をしろと言うことですわね?」


 ウィステリアがジト目でカレンを見返す。


「そう。できるかな?」


 そんなカレンの質問に、ウィステリアは余裕の笑みを浮かべて。


「そこまでお膳立てされて、できないわけがないでしょう……?

 わたくしを、誰だと思ってるの?

 ──世界一の魔法使い、ウィステリア・ファルドーネですわ!

 さあジョージ、フェロモン付与(エンチャント)をしてくださいませ」


 発動しかかっていた消滅魔法を一瞬で書き換えて、全く新しい魔法陣を完成させた。


「……よし!

 じゃあ、いくぜウィジー!

 ──フェロモンエンチャント!!」


 笑顔を取り戻したジョージは、フェロモン魔法の効果をウィステリアに託す。


 ダンは苦しみ、あと10秒ほどで()()()()()になってしまうところまできていた。……が、ウィステリアの魔法発明が一歩早かった!!


「すこーしばかり、大袈裟な魔法になってしまいましたが、大は小を兼ねると言いますわよね?

 ……いきますわよ!

 ──()()()()()()()()()()!!」


 その瞬間、ウィステリアは宇宙の全ての記憶にアクセスした。そして、無限に存在する記憶の海からダンの記憶を抽出する。


「──ぬ、ぬわ〜〜〜!!?!?」


 ダンはこれで無事、産まれてから記憶を失うまでの30年弱の記憶を、全て取り戻すことに成功したのだった!!



「──おかえり、親父……!!」


 

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