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第三十七話 解放されしエルフと記憶薬の復活

 女神の泉を掘り当てたジョージ達は温泉宿を建てて、一番風呂を楽しみ、心も体もツヤツヤになった。


 そして、ひとしきりお肌をプルプルにして効果を実感した後、本来の目的通りペーシェの元へと向かうのだった。


「……それにしても、みんな赤ちゃんみたいなモチ肌じゃの」


 エリンが嬉しそうにイリーナの頬を触りながら言う。


「そういうエリン先輩の方が、1番変化してるんじゃにゃいの?」


 イリーナは頬を触りたい放題にされているのは気にしていないみたいだ。


「温泉成分と魔法の効果で、体を全盛期の状態に近づけることができるもの。肌は赤ちゃん、体力や体年齢は10代後半から20代になっているのですわ」


 そう答えるウィステリアは始終ゴキゲンで、声も心なしか弾んでいる。


 ちなみに、お風呂上がりにジョージに褒められまくって嬉しくなったのだ。


「確かに、そんな感じだな。温泉に浸かるまでは20代後半のクールビューティー(見た目)だったのに、今は俺たちと変わらないくらいの年齢に見える。ま、大人っぽさは健在だが」


「そ、そうかの?

 それなら嬉しいのじゃ」


「エリンさんと言うより、今は()()()()()()だもんねぇ」


 オフィーリアが穏やかに笑う。


「オフィーリアさん、エリンちゃんと呼んでもいいぞ?」


「それなら、わたしのことも()()()でいいよ」


 一緒に温泉に入って仲良くなったのか、心の距離も近くなったようだ。

 そうこうしているうちに、目的地であるペーシェの家に着いた。


「みなさん着きましたよ。入りましょうか」


 アメリアがペーシェの家のドアを開ける。


「これで……親父と本当の意味で再会できるんだな……!」


 期待を胸にしたジョージを先頭に、一行はペーシェの家に入っていった。




 * * * * *



 ジョージ達はペーシェに事情を話し、ジョージの手伝いのもと温泉に入ってもらうことに成功した。……のだが、いくら入っても見た目の変化は訪れなかった。

 いつまでも温泉に浸らせてのぼせてもいけないので、温泉からあがって様子見をすることにした。


 そして、皆が不安になりかけたその時──



「ヒヒヒヒヒヒヒ一ヒヒヒ〜〜〜ヒャッハー!!」


 ペーシェ爺さんは小気味の良いリズム(当社調べ)に乗りながら、そのカスカスの声を最大限活かしたハスキーなシャウトをエルフの里に轟かせたのだ。


「ど、どうしたんだ!?

 魔法の効果が強くて暴走したのか……!?」


「そういう悪い雰囲気は今まで感じませんでしたけど……!」


 ジョージとアメリアはもちろん、他のみんなもペーシェの様子に困惑していたが、エリンはむしろ嬉しそうな顔でそれを見ていた。


「昔のペーシェお爺ちゃんに()()()!!」


「え?

 この方、元々こうでしたの……?」


「そうじゃよ。

 まあ、少し元より元気な気はするが、基本的にはこう」



「おぅ〜〜〜わっ!!

 イッツ、ビューティフルデイ!!

 セイ、踊り出せ!!」


 ──ずんちゃずんちゃ♪♫


 ペーシェはオリジナルの歌と共に踊り出した。

 そして、なぜかカレンも踊り出し、ぷるちも踊り、騒ぎを聞きつけた古参の古代種エルフも踊り出した。

 ちなみに、通常種エルフと古代種エルフの子供達は戸惑っている。


「人間100年、エルフ万年、ワシら10万年!

 ダンシングパーリィナイッ!

 全盛期を更新していけ、ワシらは今が最高潮!!」


 そろそろ10万歳になるとは思えないキレッキレのダンスでフロア(エルフの里の広場)を盛り上げるペーシェ。

 もちろん、見た目は人間で言うところの100歳くらいの、ヨボヨボお爺ちゃんである。


「なるほど、歌詞の通りペーシェ爺さんは今が全盛期ととらえているから、若返ったりせずに今の姿でこんなに元気になったんだな……」


 ジョージが感心する。


「そ、そういうものにゃの?」


 困った顔になるイリーナだったが、そこにウィステリアが補足する。


「温泉の効能はもちろんですが、殆どは特殊な魔法ですもの。

 効果発動時に使用者の意思が反映されてもおかしくありませんわ。

 わたくし達は今の姿のままで活き活きとしたとした姿になりましたが、エリンはジョージと同じ歳(見た目年齢差)の姿になり、ペーシェは今のままで元気になることを望んだのですわ」


「にゃるほど……」


「……ああ、そうですのね。では、ああしてこうすれば……でも、まだこの仮説には裏付けが欲しいですわ……」


 ウィステリアは急に何かを思いついて、空中に術式を書きながら思案し始める。


「ウィステリアさま、どうしたの?」


 オフィーリアが声をかけると、ウィステリアは目線はそのままにしながら答える。


「まだ確証はないのだけれど、若さを維持する魔法と、条件付きの若返り、それと……それに伴って魔力を半永久的に使い続けることができるという魔法が発明できそうですわ」


「つまり、魔力切れせずに無限に魔法が……?」


 オフィーリアが愕然とする。

 条件付きだったとしても、これらの魔法が実現すれば今まで机上の空論だったような魔力消費量が桁違いの魔法や、禁術と呼ばれるような人では制御できないような魔法すらも使用可能になってしまう。

 そもそも、若返りと若さの維持の2つですら、不老不死を可能とさせるような禁術に近い魔法だ。


「……ええ。これで今までできなかったような魔法も使えるようになりますわね。

 ああ、どんな魔法を発明しようかしら?

 楽しみですわ……」


 ウィステリアは天才だった。そして、温泉のリラックス効果でより良い案が浮かびやすくなっていたのだ。

 つまり、今のウィステリアは口を開けば歴史が変わる魔法革命。

 ウィステリアがウィステリアを倒し、少し未来のウィステリアが過去の魔法を超えるという、ウィステリアの頭の中では『ウィステリア戦国時代』が巻き起こっているのだった。


 天下を取るのは、ウィステリアか……それともウィステリアなのか!?

 ……それとも、ダークホースのウィステリアなのか──



 ● ● ●



 ペーシェがダンスって、ウィステリアが自分に勝利をおさめ(禁術完成)た頃、他のエルフが話を聞きつけてたくさん集まっていていた。

 古代種エルフがペーシェの変わりようを広めて、ジョージ温泉に入りたくなってしまったのだ。


 そして、温泉宿はあっという間に満員御礼の大盛況。バスタオルや石鹸、アメニティーなども急遽用意して、なんとかエルフ達を招くことができた。

 今回は入れなかった人は次回までお預けだ。その悔しさをバネに、生きていくしかない。しかし、安心して欲しい。

 そう……温泉は()()()()のだ!


 イッツソウビュリフォゥワールド! 最高に感謝!



 そして、一番乗りのエルフが湯船に到着する。


「うぅ〜……緊張する!」


 そして、恐る恐る足をチャポンっ。すると……。


「え……マジか。うわ、人生……損した!

 マジか〜! こんな残酷なことある?!」


 温泉に浸かりながらも、残酷な現実を突きつけられて頭を項垂れてしまう。


「ど、どうしたんですか?」


 後ろにいたエルフが怖くなって先輩エルフに尋ねるが、先輩エルフはただ『入ってみりゃ分かる』の一点張り。仕方がないので後輩エルフが思い切ってチャポンっ。


「……なる、ほどぉ〜……」


 大きなため息を吐いてしまう。


「……だろ?」


「はい……」


 後続の他のエルフ達も、ほとんど全員が同じような反応をしてしまう。



 突きつけられる現実。無意識下に押し込めていた()()。なぜそんな反応をするのか?


 ────そう……その日人類(エルフ)は思い出した。関節痛(ヤツら)に支配されていた恐怖を……鳥籠に囚われて(痛いのに我慢して)いた屈辱を…………!


 だが、もう飼い慣らされた家畜じゃない。

 エルフ達は反旗を翻した。()()()を今こそ駆逐する時だ。立ち上がれ兵士たちよ!

 心臓を捧げろ(ワクワクするの意)。


「──うぅうおおおおおお!!!!」


 温泉を出たエルフ達は飛び出した。

 森を縦横無尽に駆け巡る。ある者はその自由になった足で走り、ある者は出力が上昇した魔法で飛ぶ。


「体が……体が羽のように軽い!! こんなのもう、反則じゃんっ」


 過労による倦怠感の解消。


「自由だ!

 俺たちは、ビッキビキの関節痛と四十肩(的なもの)に打ち勝ったんだ!」


 腰痛や関節痛、四十肩による肩の可動域の改善。


「ああ、止まらない!

 こんなに足が、キビキビ動くなんて夢のようだ!」


 軟骨の減少による膝の痛みの回復、血行促進。


「今まで見ていた世界はなんだったんだ!

 こんなに澄んだ空を見たのはいつ以来だろう……!?」


 かすみ目や視力低下からの解放。



 ──エルフ達は本来の状態を取り戻したのだ。


 今までは半ば縛りプレイしていたのだ。しかし、すごく重たい胴着を脱ぎ捨てた戦士のように、エルフ達は一気に調子を取り戻してさらに強くなったのだ。

 数千、数万年ぶりに!


 こうなって仕舞えばもう誰にも止められない。

 今までの辛さに泣いてる場合じゃない。パーティの主役になろう!!



「ぃいいいい〜やっほ〜うっ!!」




 * * * * *



 パーティは三日三晩続いた。

 ジョージ達は今までの対応から一変。エルフ達に英雄として迎え入れられ、感謝の印として()()()()を貰ったのだった。


 そして、4日目の早朝。

 ニワトリのコケコッコーとほぼ同時……いや、少し早く。エルフの里にエリンの嬉しそうな声が響き渡った。


「──できた〜!!!!」


 ──コケコッコー!!!!


 普段なら朝を告げるコケコッコーも、この日ばかりは祝福のファンファーレのコケコッコーだった。


 そう、()()()()()()()()



「──で、できたのか!!?」


 エリンの家で寝ていたジョージが勢いよく飛び出す。


「ジョージ、おはよう!

 できたぞ、記憶薬が!! 作り方も覚えたのじゃ!」


 エリン宅の木の下まで来たエリンが、大きな声でジョージに答える。


「おめでとう……ありがとう!!」


 ジョージは感極まる。

 そこにいつの間にか起きていたウィステリアが、ジョージの肩に手を優しく添えて。


「ジョージ、泣くのはまだ早いのではなくて?」


「そ、そうだな……!

 ちゃんと、親父に本当の意味で再会し、お袋と親父と俺の3人で一家団欒した時まで……とっておかないとな」


 ジョージは目尻ににじむ雫を拭い、力強い……でも、清々しい笑顔でそう答えた。


「じゃあ、ジョージ!

 行こう……()()()()()に!!」



 

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