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第三十六話 目指せマイナス5歳肌

 地中奥深くにある水源をスライムの水を吸い取るという特性を活かして、ぷるちはみごと地上まで汲み上げた。


 ──ブッシャァアアー!!!!


 はるか昔枯れた女神の泉。かつてそれに触れたボロボロの斧が新品同様に綺麗になったというその水は、カレンの情報によると生物を若返らせることも可能だとか。

 時間を巻き戻すというより、全盛期の状態に修復する感覚なので、死者蘇生まではできないがこれさえあれば不老長寿も夢ではない。……かもしれない?


 〜目指せマイナス5歳肌〜


「来た来た来たー!! ……って、あれ?」


 噴き出るその水飛沫に歓喜するジョージ。

 しかし、その飛沫に触れたジョージは、とあることに気がついた。


「おい、リッくん……これって……」


「みたいだね、ムンちゃん……!」


「るぷぷ!」


 どうやら他のふたりも察したようだ。


「独特な香りに……少し熱いくらいの温度……滑らかな肌触り……。そして、舐めてみるとわかる、この硬度と味!」


 そう、これは──



「「「──温泉だ〜(ぷるるっぷ〜)!!!」」」



 


 * * * * *



 その頃、記憶薬の材料集めをしていた一行は、一段落してエリンの家に帰ってきていた。



「では、確認しますわよ……『アオザカナ草』『ブルーラフレシア』『新月の花』そして……『天才糖』ね。

 たしか、これで全部だったかしら?」


「そうだったはず。

 色んにゃ人に聞いて、ペーシェおじいちゃんにも聞いたから多分間違いにゃい」


「なんとか集まって良かったね〜」


 材料はイリーナの情報収集と、ウィステリアとオフィーリアの採集組の頑張りで、なんとか4つ集められていた。

 後は女神の泉の水でペーシェを復活させることができれば、ダンの記憶を取り戻すために必要な記憶薬を手に入れられるはずだ。


 そして、ダンと本当の意味での再会を果たせたなら、きっとジョージの母もなんの憂いもない笑顔を引き出せるだろう。

 ジョージが冒険者になったひとつの理由が、後少しで達成できるところまできていた。



「……3人とも、すごいですね。

 私は途中から役に立てないと諦めて、怪我したエルフの方を治療してましたよ」


「うちは、みんなに忘れられて傷心でな……もう、諦めてエルフの子ども達と遊んでおったのじゃ」


 まぶしい3人の功績を目の当たりにしながら、静かに結束力を増すアメリアとエリンなのだった。



 ● ● ●



「──お〜い!」


 そうこうしている内に、妙にさっぱりした顔のジョージ達が帰ってきた。


「おかえりなさいませ、ジョージ……はっ!」


 迎え入れるや早々、ウィステリアはジョージのその変化に気が付く。


「お、さすがウィジーだな。分かったか」


「ええ、分かりますとも。貴方の顔に変化があれば、たとえ眉毛1本分だとしてもわたくしは気がつきますもの」


「じゃあ、当ててもらおうかな。何があったのかを」


 ジョージが楽しげにそう言うと、ウィステリアもクスッと笑って答えた。


「鉱物のような仄かな香り、治癒系の魔力の残滓(ざんし)、今朝までと比べて明らかに若返った肌年齢……。

 そう、女神の水で顔を洗いましたわね!

 分かるのはこれだけではありませんわ。その水はただの水ではなく温泉。治癒系ではありますが、詳しく言うなら状態異常回復系。高い魔力を感じますし、まさに伝説の通りといったところでしょう。

 ……当たってますわよね?」


 自信満々でジョージを見る。


「当たりだ!

 しかし、魔力の残滓でどういう効果かまで分かるとは、さすがウィジーだな」


 そして、ウィステリアの見立てはもちろん大正解だった。

 ジョージはとある作業中に顔が泥に塗れてしまい、他に水もないので女神の水……もとい、女神の温泉水で顔を洗ったのだ。すると軽く洗っただけなのに、あら不思議。

 瞬く間に『マイナス5歳肌』になってしまったのでした。今のジョージの肌年齢は中学1年生レベルで、キメのあるモチモチ肌なのだ。


「魔法のことなら、わたくしにお任せあれ。

 かつて魔法塔にいた頃、先生に『ファルドーネさんは魔法界のオーパーツね』って言わしめた程ですし」


 ウィステリアの魔法の才能は底知れず、それを目の当たりにした先生は驚愕して戦慄。

 今の時代の魔法使いでは普通考えられないような、まさに未来を先取りしたような、そんな魔法の使い方をするのだ。


 他の魔法使いからしたらチートみたいなもの。

 世界を探せば匹敵する魔法使いが1人はいるかも知れないが、それでも一生をかけてようやく究極に辿り着いたような魔法使いだろう。

 しかし、ウィステリアはまだ18歳で、毎日チートの更新デー。100年生きるとすれば、まだ80年以上毎日アップデートされるのだから恐ろしいことこの上ない。

 まだ3万回くらい進化を残しているのだから。


「……それで、ウィステリアさん達は材料も集め終わったカンジ?」


 カレンがテーブルの上に置かれている材料を見ながら尋ねる。


「はい、ウィステリア様とイリーナ様とオフィーリア様のおかげで集め終わりました」


「あとはペーシェおじいちゃんを元に戻すだけじゃの」


 何もできてない組の2人が率先して話す。これくらいは役に立ちたいのだ。


「こっちも、ぷるちのお陰で随分楽にことが進んだよ〜。さすがに、その後の作業はみんなで協力したけどさ」


「その後の作業ってにゃんにゃの?」


 本来なら水が地上に出てきてさえすれば問題はないのだが、カレンたちはそれに追加で何かをしたらしい。


「ちょっと快適に、それと行きやすくしたってわけだ。まあ見てくれりゃ分かるさ……」


 イリーナはジョージの言葉に首を傾げるも、ジョージはその後も『見てからのお楽しみ』と言うだけで教えてくれず。

 仕方ないので、材料集め組の一行はジョージ達と共に水が湧き出たという場所へ向かったのだった。




 * * * * *



「これは……!」


 一行がたどり着くや、目の前にある()()を見て驚愕。


「ジョージ、この数時間でこれを()()()のか!?」


 エリンが『それ』を見上げながらジョージに確認する。それほど信じられないのだ。魔法ならともかく、ジョージは手作業だ。


「リッくんが言うとおりに作業してたら、なんかできちまった」


「ジョージ様、これは『なんかできちまった』でできるものではありませんよ……!」


「ま、水場の作業はぷるちにも手伝ってもらったし、なによりリッくんの的確な指示があったからこそだ」


「それでもだよ。ジョージくん、多才にゃんだね……」


「そうか?

 あそこの端とか、少し素人仕事って感じがするが……」


「ジョージ、認めなさい。

 これは初めての作業にしては上出来ですわ。いえ、作業時間を考えれば、それ以上……。

 もちろん指示を出したというカレンも、水場の作業をしたというぷるちもです。

 手作業ということを考え……それどころか、わたくし以外の魔法使いだったとしても、これをこの人数と時間で完成させるのは不可能に近いの。

 ……妻として、誇らしいですわ」



「さすがジョージさまだね。ウィステリアさまがお認めになるのも頷けるよ〜」


 ウィステリアに加え、オフィーリアも褒めちぎる。それほど凄いものだったのだ。


 そして、その()()の正体とは──


「じゃあ、さっそく中に入ってみてくれ俺たちの作った()()宿()に!」



 そう、ジョージとカレンとぷるちが作ったのは、何を隠そう……巨大な温泉宿だった!

 しかも、浴場には100人は余裕で入れるし、建物で休憩するだけならそれ以上の規模である。

 それをたったの数時間で建ててしまったのだから、みんなが驚嘆するのもふしぎではなかったのだ。


「広いにゃ〜!」


「わぁ〜! 中がきれいだし、明かりまでついとるぞ! 凄いのじゃ……」


 中に入り広いフロントにやって来ると、イリーナとエリンが楽しそうに走り回る。ちなみに、アメリアは無言で奥まで走っていってしまった。


「明かりは持ってきた魔石と、その辺の鉱石とかをいじってボクがつけたの。凄いっしょ〜」


 魔石を核にした蛍光灯みたいなやつが、建物内全域を明るく照らしていたのだ。ちなみに、この世界に蛍光灯は()()ことを考えると、どれだけカレンがやべーのかが分かるだろう。


 タオルや石鹸、その他もろもろ必要なものも最低限だが既に置いてある。


「……やっぱりカレンさんがIQ3000って言ってたのは本当だったんだ……!」


 オフィーリアが謎の確信を得ていると、奥の方まで一直線に走っていったアメリアが帰ってきた。


「──みなさん、すごいですよ!

 大浴場なんですが、ドラゴンを模した巨大な彫像が温泉水を吐き出してるんです!

 それだけじゃありません。ちゃんと湯船もありますし、体を洗うところも、露天風呂もあるんですよ!」


 それだけ言って満足したアメリアは、再び奥の方へ走り去る。


「ドラゴンは俺の趣味だ。なかなか上手くできたから、良かったらじっくり見てくれよ」


 ジョージがちょっとはにかみながら言うと、それを聞いたイリーナとエリンもワクワクした様子でアメリアを追っていった。


「……あの、ジョージ」


 ウィステリアが少しモジモジしながらジョージに耳打ちする。


「なんだ、ウィジー」


「大浴場も良いのですが、その……わたくしは余り人に肌を見せたくありませんの。

 結婚前の淑女ですし、見せたとしても生涯ジョージだけのつもりですから……」


「つまり、個室があるのかを聞きたいんだな?」


「ありますかしら?」


 ウィステリアが期待はありつつも、少し不安げにジョージを見つめる。


「もちろんだ」


 ジョージは優しく肯定した。すると、ウィステリアの曇っていた顔がパッと明るくなり、嬉しそうにジョージの手を取る。


「良かった……!

 ありがとうございますわ。ジョージのお肌を見て、わたくしもぜひ入りたくなりましたの。

 ……せっかくですし将来の夫である貴方に、より美しい姿を見せたいものね」


 ウィステリアはその宝石のような金色の瞳を優しく細め、恥ずかしそうに頬を染めて微笑むと、スカートの裾を摘んで一礼して個室の浴場へ優雅に向かっていった。


「今でも美しいんだが……それを言うのは野暮ってやつだな。

 ま、後で更に美しくなったところを褒めまくってやるか……!」


「ジョージさま、わたしは大浴場の方に行くね。ドラゴンも見たいし、みんなとお話ししたいから」


「ああ」


「いってきますねぇ〜」


 オフィーリアもワクワクした表情で向かっていく。



「……ムンちゃん、大好評だね」


 様子を見ていたカレンが嬉しそうに呟く。


「だな。頑張った甲斐があったな」


「この様子なら、エルフのみんなにも喜んでもらえるっしょ。……ね?」


「るぷ!」


 ぷるちにとっても自信作。力強く肯定した。


「じゃあ、俺たちもさっさと温泉に入るか。ペーシェ爺さんと、エルフのみんなにも入ってもらわないといけないからな」



 そうして1番風呂を楽しんだジョージ達は、生まれ変わったような『もちぷる赤ちゃん肌』になってエルフの里へと帰っていくのだった。



 

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