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第三十五話 記憶薬の材料と水源発掘

 女神の泉の水が寝たきりペーシェお爺ちゃんを再起させるだろうということが分かったが、その泉は遥か昔に枯れてしまい無くなっていた。

 だが、完全に望みが絶たれたわけではない。10万年前に枯れていた泉だが、その間に復活したのか、はたまた奥底にはずっとあったのかは不明なものの、カレンの見立てによると土壌にその泉の成分が含まれているとのこと。


 もしその水が欲しければ、その水が滲み出るくらいまで掘らなければならず、しかも何m掘るのかも不明。

 ジョージ達ならば不可能ではないだろうが、それでも見通しが立たず途方もない作業を強いられることは確かだ。

 


 しかし、そんな悩める子羊ちゃん達に、ジョージのふところに隠れていた(ジョージも知らなかった)ぷるちから、鶴の一声が。


「──ぷるる!!」


 そう、任せて(意訳)と。


 若干半信半疑だった一行だったが、その作戦を聞いてカレンやウィステリアも納得したところで決行する事になったのだった。




 * * * * *



 ジョージとぷるち、そしてカレンは絶好の泉スポット(泉ができても邪魔にならない場所)探しに行き、残りのみんなは記憶薬の材料集めを始めた。

 しかし──



「けっ!

 人間におしえることなんてねぇよ!」(4500歳 エルフ男性)


「ママが、知らない人と話しちゃダメだって……ごめんね」(6200歳 古代エルフ女性)


「……え? 薬草?

 …………そういえば婆さんが今朝はいい日差しだから洗濯物を干しとけって言ってたな。

 ……あれ、なんの話だっけ?」(8900歳 エルフ男性)


「えぇ?

 薬草なんてしらなーい」(1680歳 エルフ女性)



 などなど、有力な情報が得られなかった。

 知っている人も人間相手に警戒して教えてくれないし、そもそも記憶薬はペーシェしか作ってなかったので知らない人も多いのだ。


 同じ故郷で古代種エルフのエリンは、凄まじい引きこもりなので、覚えてなかったりそもそも知らない人も多くて、思い出させるだけで一苦労。

 基本的には他のみんなと大差なかった。



「エリンじゃよ、ワルターさん元気じゃったか?」


「……は?」


「え?」


「え?」


「誰だ、お前は……古代種のようだけど……。ああ、もしかして別の里から来たエルフか?

 ……しかし、いつ何処であったんだろうか?」


「……えっと、5142年前じゃな。ほら、その……キミの生誕1000日記念パーティの時に、挨拶したじゃろ?」


「お、おぼえてるかーい!!」


 こんな感じで、人見知りのエリンは基本的に普段大人と接さず、接したとしても子供相手。なので、より一層エリンは覚えられてないのだった。



 ちなみにアメリアの場合は……。


「この草、薬草に使えそうですね!

 これですか、それともこれですか?

 いえ、臭いからしてこれの方が不味そうなので、こっちかも!」


「……金髪のお嬢さん、だから私は知らないって……」


「え?

 ああ、夢中になって聞いてませんでした。すみません……(しょんぼり)」


 ハリキリすぎて空回り。実は初めての旅行(広義)で浮かれてしまっているのだ。


 そして、ウィステリアとオフィーリアは2人で、今の時点で分かる薬草を先に採取することにした。


「わたくしのデータバンクには無い独自の薬草は探せませんが、今手に入るものは先に集めてしまいましょう。

 群生地が少し離れてて行くのに時間がかかるものもありますし」


「はい、ウィステリアさま!

 このアオザカナ草という()()()()は、マングローブにしか生えないみたいだからすぐに向かった方が良さそうねぇ……。あとは、その道中でラフレシア・オブ・ヘルの異名を持つ、ブルーラフレシアも見つけないと」


 オフィーリアがメモを見ながら同意する。


 ちなみに、アオザカナ草はツルの先が小魚のような形になっていて、それに食いついた大きな魚を特殊な葉っぱで包み込んで消化するのだとか。

 そして、魚を吸収しまくったアオザカナ草はエゲツないほど濃縮されたD()H()A()(の上位版みたいなもの)が入っている。


 ブルーラフレシアは、その異名の通り地獄を感じるほどの凄まじい匂いを発し、下手に匂いを嗅いでしまったら最後。

 匂いに気絶して、あまりの匂いに無理やり起こされ、そしてまた気絶というまさに地獄のループが始まる恐ろしい花だ。ちなみに、走馬灯もループ再生される。

 ブルーラフレシアの匂いで息絶えた虫やモンスターが腐り、土に吸収され、そしてその栄養をブルーラフレシアが吸収するという寸法だ。

 そして、その走馬灯を見ることができることから、記憶を呼び起こすのに役に立つのだとか。


「では、向かいますわよ」


 ウィステリアが魔力を込めた指先で空中をなぞると魔法が発動。2人は宙に浮いて2つの植物が生える地へと向かったのだった。



 最後に、イリーナだ。

 なにげにイリーナが1番役に立っているかもしれない。

 古来よりエルフとは森の隣人である獣人。その獣人の一種であるイリーナは、無邪気で可愛らしい風貌も相まって、ご老人方から絶大な人気を得ていたのだ。


「おやおや、イリーナちゃん……もう草まんじゅうを食べ切ったのかい? 気に入ってくれて嬉しいねえ」


 おばあちゃんエルフ(7600歳)が穏やかな顔で言う。


「おかわりも用意したから、遠慮せずに食うんじゃぞイリーナちゃん!」


 おばあちゃんの夫であるおじいちゃんエルフ(7490歳)が、部屋の奥から現れてイリーナの前に草まんじゅうを追加する。

 完全に()()()だ。


 そこに、ご近所さんの古代種のエルフの幼女(5050歳)が遊びにきてイリーナを見つける。


「……あ、知らないお姉ちゃんがいるー!」


 草まんじゅうを手に取りながらイリーナの隣に座り、嬉しそうに顔を覗き込む。


「むふ〜。こんにちは!

 わたしはね、リリアンっていうの」


「こんにちは、リリアンちゃん。

 あたしはイリーナだよ」


 イリーナ(16歳)はその笑顔を微笑ましく思いながら、リリアン(5050歳)の頭を優しく撫でてあげる。

 すると、リリアン(5050歳)は嬉しくて足をジタバタさせながら『うきゃ〜』と言いながらはしゃいだ。


「おやおや。リリアンちゃんは、イリーナお姉ちゃんに撫でられて嬉しいんだねぇ」


「まったく、子供の笑顔は見てるだけで心が潤うわい!」


 そのイリーナ(16歳)とリリアン(5050歳)の様子に、おばあちゃん(7600歳)とおじいちゃん(7490歳)は顔を(ほころ)ばせる。

 念のために補足するが、古代種エルフの5050歳は5()()()()である。



 そして、そんな交流を交えつつイリーナはエルフ達に少しずつ気に入られて、2種類の材料のありかを教えてもらうことに成功した。

 1つはブルーラフレシアの匂いを抑えて効果を安定させるのに役立つ『新月の花』で、これは新月の日にエルフ達が家に使っている木に咲く真っ黒な花だとか。


 もう1つは『天才糖』で、カブのような植物の天菜から精製される砂糖だ。ガッッッツーン!! とくる、付き合いたての甘々カップルより甘い天才糖は、あまりの甘さに頭がシェイクされるみたいな感覚に襲われて、その後記憶力が凄まじくなるのだとか(用法用量を守って使用しましょう)。

 天菜はエルフの森の奥に自生しているとか。


 一応材料はそれでおしまいで、後は集めるだけ。場所さえわかれば、ジョージファミリーならもう勝ち確だ。

 そして、女神の泉の水でペーシェを再起さえさせることができれば、ダンの記憶を取り戻すまで秒読みである。




 * * * * *



 イリーナ達が頑張っている時、ぷるちとジョージとカレンはエルフの里の外れまで来ていた。

 元々泉があったのは現在では街道になっているため、近辺で泉と採集場のスペースを確保できる場所選びをしていた。



「……ムンちゃん、2人きり(ぷるちもいるけど)……だね♡」


 ぷるちがカレン(新入り)のかもしだすラブコメの雰囲気を察して少し離れる。


「ん?

 ……そうだなリッくん(ぷるちの気配が消えた……?!)」


 ジョージの気配察知能力をかいくぐる、ぷるちの気配遮断スキルはハンパじゃ無いのかもしれない。


「それでさぁ……」


「ああ。どうかしたのか?」


「ここなら……人もいないし、ちょうど良いし……さ?」


 カレンがメガネ越しに潤んだ目でジョージを見つめる。このドキドキな雰囲気に、仕掛けてきたカレンですら心臓が飛び出しそうだ。そして、ジョージが何かを察して──


「──ここだぁ!!」


 ジョージがおもむろに拳を地面に叩きつけて大きなクレーターを作り出した!!


「……え、えぇ〜っ!!?」


「ぷるちっぷっ!!?」


 ジョージの急な行動に、カレンもぷるちも心臓が飛び出してしまったのでは無いかと心配しちゃうほど驚いた。

 誰もこの展開で心臓が飛び出るのは望んでいないのである。


「ああ、すまない。泥が飛び散ってしまったな」


 しかし、運命というのは数奇なもので、こんな意味不明な行動も役に立ってしまうのだ。


「……泥?」


 困惑しながらも、カレンが泥という言葉を聞いて察する。


「そうだ、泥……もしかして、リッくん!?」


「……そう、ムンちゃん。そうだよぉ〜……!」


 泥を見つけた2人は両手を繋いで円を作り、何やら嬉しそうに楽しそうにクルクル回り出した。


「…………るぷ〜」


 それを見たぷるちは、やれやれと肩をすくませ(意訳)小さくためイメージをつく。


「る、ぷりゅっぷ……」


 そして『まあ良いか』と思って2人を見守るのだった。



 ● ● ●



 そして、なんで泥がいいのかというとそれはつまり、場所的にも気候的にもここ最近の天気的にも、ほぼ確実に地面から水分がにじみ出ているからと結論づけられるからである。

 つまり、()()()()()()()()()()のだ。



「じゃあ、水があるのも分かったことだし、ここからはぷるちの出番……だな?」


「ぷる……!」


 ぷるちは自信満々だ。それほどまでに今から行う作戦に確信があるのだろう。


「それにしてもさ、ボクは頭脳はあるけど、パワーがないっていうチャームポイントがあるからさ、元の作戦だと結局はムンちゃんに力仕事を任せることになってたカンジだし……ぷるちの作戦を聞いた時は革命かって思ったよ〜。

 まさか、ぷるちのスライムという特性を活かすなんて、よく思いついたねぇ。感心感心。まさに、ぷるちが居たからこその作戦だぁ」


 そして、カレンも絶賛するぷるちの作戦が、今ここに始まる……!


「ぷるぷるっち!」


大きく気合を入れたぷるちは勢いよく地面に体当たりしたかと思うと、次の瞬間、ジュルジュルジュルッと地面に吸い込まれていく。


「ぷるち、行けー!」


 ジョージの、


「頑張れ、ぷるちぃ〜!」


 カレンの、


「ぷるるるるー!!」


 そしてみんなの思いを背負ったぷるちは、地面をどんどん進んでいく。正確には、地面に含まれている水分を吸収して体を膨張させながら、長細く伸びていっているのだ。

 そのまま突き進むと、ぷるちは暫くして()()()に到達する。そして、なんと──


 ──ブッシャァアアー!!!!




「来た来た来たー!!」


「大成功だぁ〜!」



 地中奥深くにある水源を、ぷるちはスライムの水を吸い取るという特性を活かして、地上まで汲み上げてしまったのだった。


 

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