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第三十四話 なんじゃぁこりゃあ……!?

 ジョージたちがペーシェと会ってる間、ウィステリアとオフィーリアは里の入り口に来ていた。


「ウィステリア様、何してるんですか?」


 入り口に居た馬を真剣に調べているウィステリアを見て、オフィーリアは困惑しながら尋ねる。

 すると、ウィステリアは少し躊躇いながら口を開いた。


「ジョージを愛する者として、ジョージが信じている者を信じる方がいいのかもしれません。

 でも、妻になるというなら、夫の至らないとこを補うのがつとめですわ」


「……つまり?」


「カレンと名乗るあの方、言動からジョージは本人だと断定していました。しかし、顔を認識していたわけではありませんし、なにしろ性別も判っていませんでしたわよね?

 つまり、カレンをカレンと正確に判断できる者がわたくし達の中に誰ひとりもいないのよ」


「たしかに〜!」


 オフィーリアは納得したようで、表情がパッと明るくなる。


「だから、このカレンが乗って来たであろう馬を調べてますの」


「カレンさんの所有物だと分からないですけど、レンタルだと借りた人の情報がありますからねぇ」


 そう、主要な都市で馬を借りると、誰が、いつ、どのように借りたのかが馬具にはめられている魔石に記録されているのだ。


「でも、それって特殊な魔法道具じゃないと調べられないんじゃ……」


 借りた人が離れたときに個人情報が筒抜けになるのを防ぐため、情報にアクセスできないようにロックがかかっているのだが……。


「関係ありませんわ。わたくしくらいになると、こんなものあってないようなものです」


 魔石に手をかざすと、魔石から半透明の魔力でできたホログラムパネルが飛び出し、ウィステリアは慣れた様子でどんどん情報を表示していく。


「す、すご〜……」


 どんどんウィンドウが出てきて、それを手早くさばいてる姿にオフィーリアは少し引き気味だ。


「なるほど、この馬はリズンバークで借りたもので間違いありませんわ。それに、借りたのも『カレン・リッケンバーク』で間違いない……。でも、まだこれでは、()()ですわね」


 しかし、ウィステリアはその程度で収まるほど、お利口さんではなかった。


「ちょっ、え!? ウィステリア様!?

 ……それってそんなことまでできるんですか?」


 ウィステリアは指に魔力を込めて、ウィンドウに何か文字を書き込むと、さらに隠された(セキュリティ的に)情報にアクセスしつつ、ネットワーク(のようなもの)にも繋いで、今度は全く別の情報まで引き出してしまう。


 そう、カレンの通っていたであろう学校と、カレンの容姿、履歴、そしてその時期に至るまで()()()()()してしまったのだ。



「……な、何が起こってるのかもうちんぷんかんぷんですぅ〜」


 オフィーリアは目を回してしまう。


「……よし、これくらい情報が集まれば結構ですわね」


 ウィステリアは出て来た情報を精査していき、必要なものをピックアップして読んでいった。


「えぇっと……そうね、単刀直入にいうとカレンは本人で間違いないわ」


「そうなんですか?」


 少し正気に戻ったオフィーリアが首を傾げる。


「ええ。

 世界的にもトップクラスの大学を半年で飛び級してこの秋に卒業しているわ。その前も学校を転々と変えつつ卒業を繰り返してたみたいですわ」


「IQが3000といってましたけど、本当だったんだ……! すごい!」


「……3000かどうかはともかく、賢いのは本当のようね。

 それで、わたくしたちが出発して数時間後にリズンバークに来て、一度家に来て、留守なのを確認した後、自分も馬を借りて追いかけた……みたいですわ」


 パネルを操作しつつ、ウィステリアは言葉を続ける。


「年齢はジョージと同じく18歳。名前と容姿と出身も一致。

 ジョージがリズンバークにいるというのは、サンバとダンロッソ平原での戦いが噂になり、そこから知ったようですの」


「そんなこともわかるんだぁ〜!

 ……あっ。もしかして、ウィステリア様もIQ3000なの?!」


 桜色の目をキラキラさせながらウィステリアに尋ねる。が、当の本人は苦笑いを浮かべる。


「違いますわ……。

 そこまで人間離れした数値じゃないわよ……そんなIQを持ってるなら、もはや()の域ですもの」


 ウィステリアは冷静にさせようとそう表現したのだが、オフィーリアはウィステリアの予想外の結論に至ってしまう。


「ぇえええっ!!?

 あばばばばばば……!」


 声を震わせて目をかっ開き、ゆっくりウィステリアの目を見る。


「…………」


 ウィステリアは何かを察するが、それが間違って欲しいと切に願った。しかし、現実はそう甘くないのだ。そう、これが現実なのだ。



()()()()()()()()!!!?」


「……あちゃ〜」


 さすがのウィステリアも頭を抱えてしまう。

 そう、オフィーリアは天然なのだ。そして、少し抜けているのだった。



「神……ということは、もしかしてリッくん()こそ、この世に降り立ったリーズン様!?」


「違いますわ、このおバカさん……」


「ち、違うってどういうことですか? でも、でもだってっ……」


 オフィーリアは農業と紅茶以外はポンコツだった。


「だから、それは言葉のあやで──」


 ウィステリアはオフィーリアを納得させるのに苦戦した。そして、その説得はジョージ達が帰ってくるまで続いたという。




 * * * * *



 ジョージ達はウィステリアとオフィーリアと合流し、カレンから今後の作戦を伝えられる。



「──薬草と木の実、この里にあるでかい木の根っこを集めりゃいいんだな?」


「そうそう。

 木はともかく、他のは詳しい場所はエルフのみんなが知ってるから、担当が各自で聞いてってね〜」


 ジョージの言葉に頷きつつ、カレンはみんなに目を向ける。


「それで、そのペーシェでないと調合方法は分からないとのことでしたが、それはどうしますの?

 お歳でもう動くのもままならないのよね?」


「それはねぇ、エルフに伝わる神聖な泉の水を使うよん」


「神聖にゃ泉?」


 イリーナが聞き返すと、ウィステリアがなるほどといったふうに頷く。


「聞いたことがありますわ。

 神聖な泉と言えばきっと、精霊……エルフからしたら女神でしたわね。……その女神の泉よね?」


「そうそう」


「かの昔、狩りに出かけたエルフが野営のため木を集めていたら、あやまって手斧を泉に落としてしまいましたの。

 すると、泉から女性が現れて『貴方が落としたのは金の手斧ですか、それとも銀の手斧ですか?』と聞いたところ……正直なエルフは『私が落としたのは汚れた手斧です』と」


 そこまでウィステリアが言ったところで、エリンが付け加える。


「その正直なエルフの心に満足した女神様は、金の手斧と、銀の手斧、そしてエルフの手斧も渡したのじゃったな。でも、それがどうしたのかの? この話に今必要な情報が……?」



 首を傾げるエリンだが、その疑問にウィステリアが自信ありげに答える。


「落としたのは汚れた手斧。でも、返ってきたのはエルフの手斧ですの。普通なら気にしないところですが……」


 カレンに目線を向ける。


「そうなんよ。

 それに、絵本とか文献に書かれている挿絵では、かならず綺麗な手斧になってるワケ」


 そこまで言うと、アメリアが気付いてハッとする。


「元に戻ったと言うことですね?

 つまり、この流れからすると……水に落ちたから汚れが落ちたのではなく、()()()()()()と!」


「……でも、それはその女神の力じゃねえのか?」


 ジョージがカレンに尋ねる。

 確かに、この話だけ聞くとまるで女神が修復したように思えた。


「それはボクも思ったよムンちゃん。

 だから昨日の夜、文献を色々調べたりエルフに聞いたり、里に保管されてた泉の水を調べたし」


「あれ、泉の水があるにゃらとってくる必要にゃいの?」


「ううん、ボクの手におさまるくらいの小さな小瓶だったし、それじゃ少なすぎて、ペーシェお爺ちゃんを100歳分しか若返らせられなかったんだ」


 寝たきりみたいな状態になったのは1500年前なので、100年じゃ全然足りない。

 余談だが、10万年生きる古代種エルフにとっての1500年なので、だいたい1年半寝たきりの感覚。


 さらに余談だが、エリンは3万3千歳だが体的には26〜27歳くらいなので、普通の古代種より長く生きるだろう。


「俺たちが寝てる間にそこまでしてくれてたんだな、リッくん」


 ジョージが感心するが、カレンはなんでもないみたいにクスクスと笑う。


「そんなに時間はかかってないよぉ。1時間くらいかな、それに寝てる間じゃなくて、お風呂待ち中に終わらせたしさ」


 昨晩はエリンのお家に泊まったのだが、お風呂は広めだがひとつしかないので順番に入ったのだ。カレンはその待ち時間を利用していた。


「さ、さすがリッくん様! さすが女神様……じゃないんだった。でもでも、すごいのは変わらない……ね!」


 オフィーリアが嬉しそうに叫びかけたが、寸前のところで冷静になって思いとどまる。


「………………。そうですわね」



「それで、その泉の場所はどこにゃの?」


 その言葉にカレンがポケットから地図を取り出して見せる。


「ここ……のはず」


 しかし、カレンにしては珍しく自信なさげだ。

 そしてさらに、その場所を見たエリンが訝しげな表情をする。


「そこには何もなかったと思うんじゃが……。そもそもそこは道になってるし、昨日来る時に通ったじゃろ?」


 そう、カレンが指し示す場所はただの街道。

 ジョージ達どころか他のエルフも普通に毎日のように使うのだ。ここに泉があるなら気が付かないわけがないのだ。


「カレン様、神聖な泉だというのに分からないんですか?

 普通ならこう言う場所は大切にすると思いますけど……」


 アメリアの言う通り、リーズン教会ならゆかりのある場所には祭壇を置いたり、観光名所になってもおかしくない。


「うぅ〜ん……ごめんね〜。でも、見つからないからさ、泉。多分枯れたんだと思う。

 さっきの昔話もだいたい、出た時期はペーシェお爺ちゃんが生まれる前みたいで、手がかりがないんだぁ……」


 カレンが項垂れながらも、言葉を続ける。


「でもでも、枯れたとはいえ近場からまた湧いてきてるかもだし、地上まできてなくても掘ればいける。

 どこまで掘ればいいか分からないけど……土を見た感じ、ありそうなの。完全に無くなったわけじゃない……何m掘るかが問題なだけで…………」



 最悪の場合、何十mどころか何百m掘ってようやく出るかもしれない。途方もなく終わりが分からない作業をしなくちゃいけない。しかし唯一の救いは、泉の水が存在すると言う点においてはカレンが確信していることだった。


「……じゃあ、みんなの気合いとか魔法でやるしかねえのか。まあ、そうするしか無いなら……俺はそうするだけだ!」


 ジョージが覚悟を決める。と、その時──


「じょ、ジョージ様! 体が膨らんで……!?」


「な、なんだァ!?」


 ジョージが着ている黒ロングコートの腹のあたりが膨らみ、忙しなくうごめきはじめたのだ。


「ジョージ!?」


「ジョージくん!」


「ジョージ様!」


 みんながどうすればいいか分からず戸惑うが、1番戸惑っているのはもちろんジョージ。


「……なんじゃぁこりゃあ……!?」


 うろたえながらお腹を撫でると……ネットリとした液体が手につく。心なしか、その液体が赤っぽく見えてしまうのは冷静じゃないからだろうか?

 しかし、ジョージ達を戦慄(せんりつ)させるのには十分であった。


「ひぃっ……!!」


 オフィーリアが小さく悲鳴をあげながら目を逸らし、それをウィステリアが庇うように自分の後ろに隠す。


「……オフィーリアちゃん、貴女は目を瞑ってなさい!

 ジョージ、それは呪い? それとも毒?

 心当たりがあるなら教えてくださいまし! 無いならわたくしが調べます。

 それと、アメリア! 神聖魔法の準備を!」


 ウィステリアが指示を飛ばしながら、目と手に魔法で小さな防護結界を張り、慎重にジョージに近寄る。


「……は……はい! すぐに詠唱します!」


「心当たりは無い、ウィジーすまないが調べてくれ!」


「……ふぅ。私の知らない呪いじゃ無いことを祈りますわ」


 ジョージのお腹についているものが血であるならば、今もうごめいている以上、早々に決着をつけなければならない。

 しかし、さすがのウィステリアも知らない呪いであれば、治療するのに時間がかかってしまう。毒は大丈夫。


「……いきますわよ?」


「……ああ」


 そして、ウィステリアは慎重にジョージのコートのボタンを外すと──



「──ぷりゅるるるる〜っぷ!!!」


 ()()()だった。


「は?」


 ジョージも思わず眉間にシワを寄せてしまうが、このうごめきの犯人はぷるちだ。スライムのぷるちだ。


「……ジョージ?」


 ウィステリアもこれには呆れ顔。


「い、いや……俺もぷるちがコートの中にいるなんて……ウィジー、そんな顔しないでくれっ」


 ジョージはさっきよりも断っっ然うろたえてしまう。なんなら今日1番のうろたえ。


「ぷるるっぷ」


 そんな事情も意に介さず、ぷるちはゴキゲンだ。なぜかって?

 ……それは、ジョージのふところに入っていたオレンジが美味しかったからだ!


 お腹に付いていた液体も、オレンジ果汁とぷるちのスライム粘液(薄緑色)が混ざって赤っぽく見えたのだった。


「……まあ、ジョージ様に何事もなくて良かったですね……」


 アメリアも苦笑いしながらぷるちを見る。


「ひ、人騒がせな!

 ぷるちさん、分かって……あれ、どうしたのじゃ?」


 エリンがぷるちの様子が少し違うと途中で気が付く。


「るぷっ!」


「ぷるち先輩、にゃに?」


 ぷるちのただならぬ自信と圧倒的な雰囲気にイリーナが耳を傾ける。

 それに続いて他のみんなも黙ると、ぷるちは一言こう言った。


「ぷるる!!」


 そう、『任せて(人間語翻訳)』と。



 

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