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第二十八話 フェロモンスター

諸事情で時間に遅れましたが投稿しました

 過去を語り終えたウィステリアは、再びジョージと共に買い出しへ向かうため家を出た。

 その間、だいたい20分ほどではあったが、その間観衆は1人も減っていなかったそれどころか、さらに膨れ上がり、なんと市場の方まで続く大行列になっていたのだった。


「──流石に、ここまでいると壮観だな」


 ジョージが扉を開けて外の様子を見ながら呟く。


「ですが、わたくしたちを思って、慕ってくれているからこそ……なのですわよね? では、期待に応えて差し上げましょう。……ね、ジョージ?」


 ウィステリアがイタズラっぽく笑いながら手をそっと差し出す。


「……」


 するとジョージはフッと笑って意図を汲み、ウィステリアの手を取って歩き出す。


「エスコートさせてもらうぞ、()()()()()()


 胸を張って堂々と、ジョージはウィステリアをエスコートしながら割れた群衆の道を歩き出した。

 ウィステリアも貴族令嬢らしく凛とした雰囲気で歩んでいく。



「「「………………」」」


 その堂々としたその姿に、騒がしかった観衆はしゃべることも忘れて2人に釘付けになってしまう。


 ただの住宅街のいち道路でしかないこの道だったが、この時ばかりはレッドカーペットが敷かれた王座への道に見えたと、ここにいた観衆全員は後に語る。

 そして、ジョージとウィステリアの堂々とした姿は、さながら()()()のごとき圧倒的存在感とカリスマ、そして煌びやかさを放っていたと言う。




 * * * * *




 買出しを済ませ、荷造りをし、エルフの森へ行くまでのルートを決めて、最後に行く前の休日を迎えていたジョージたち。


 しかし、ただの休日というわけでもなかった。

 以前倒したフェドロ軍の残党がたまに出没していたのだ。本隊が倒されたので操る者も消え、もはやゾンビのように徘徊しているだけでさほど脅威でもないが、やはり戦う力のない人たちにとっては恐怖そのもの。


 ジョージたちはその残党を倒して解放していたのだった。


 そして今日は、その仕上げとしてジョージは1人でリズンバークの周辺からダンロッソ平野までパトロールをしていた。


「……もう出没情報もここ数日出てないし残党は終わりだろうか。じゃあ、次は……」


 ジョージは残党はもういないと判断し、もう一つの依頼をすることにする。


 怪しいモンスターが出現し、何人もの冒険者がやられたらしい。やられた冒険者は幸い命を落とすことは無かったが、無気力になり、まるで廃人のように変わってしまったそうだ。


「確か、あそこだったよな……」


 その出現場所は、以前ジョージが植林活動をした森で、リズンバークとさほど離れていないので、放置すれば町を出た住民が襲われかねない。フェドロ軍の仕業かもしれないと、ジョージはエルフの里に行く前の仕上げとして引き受けたのだ。



「被害を増やしたくないし、せっかく植えた木を台無しにされたくないからな、さっさと片付けようか」


 ジョージは急いで迷いの森へ向かう。

 一見して静かな森であり、特に暴れているようなモンスターはいなかった。が──


「──グギャアアアア!!」


 森を歩いていると突然、モンスターのすさまじい雄叫びが響き渡る。


「……縄張りに入ったってわけか!」


 瞬時に警戒体制に入り、いつモンスターが襲ってきてもいいように身構えた。そして、しばらくして現れたのは……。


「グギャオギャオ!!」


「ゴブリンか!」


 醜悪な顔をした小鬼型モンスターだ。棍棒やナイフなどの武器を使って群で戦い、人間を敵だと思ってはばからず、見るや否や殺意むき出しで襲ってくるという、なんとも恐ろしい存在である。


 大きさは1mほどで、大きめの牙と個体によって不揃いのツノ、緑色の肌をしていて毛皮を纏っていることが多い。このゴブリンは1体1体自体はさほど強くなく、駆け出し冒険者でも倒せる。しかし、群れとなると恐ろしいのは事実なので、パーティでの戦闘が推奨されている。



 今回ジョージの前に現れたゴブリンは1体。しかし──


「で、デカすぎんだろ!!」


 そのゴブリンが近づくたびに実感するその巨躯。2m、2m50cm、3m……いや、そのゴブリンは5mもの大きさだった。

 頭身が高くなったり、人間と似た体格の上位種であるホブゴブリンではない。縮尺はそのままにして大きくなった、巨大ゴブリンなのだ。


「ギャオウンギョウン!」


 しかし、違いもある。

 緑の肌ではなく、汚くドス黒い肌に変わり、毛皮もまとっているのではなく、まるで一体化したようになり、持っている武器もただの棍棒ではなく手製の巨大石器斧だ。


「元がゴブリンだし、強化されているとはいえ流石にバリッド以上はないだろう。しかし……」


 下手に暴れたら、せっかく植えた木の苗が、少し育ってきて新しい葉っぱが生えてきたこの木々が潰れてしまう。

 ジョージだけならともかく、このゴブリンが踏んづけたり攻撃してもダメだ。


「少し神経を使うな。──魅力解放!」


 ジョージは上着を脱ぎ捨てて、大自然すらトリコにする溢れんばかりのフェロモンを、周囲にムワッと解放した。


「ギャッ、ギャシュ!?」


 巨大ゴブリンが異変に気がつくが、もうジョージのことしか考えられない。


「よし、これでコントロールしやすくなったな!」


 ジョージは警戒フェロモンをブーストさせてナックル状にし、拳に武器として装着する。


「ギャシイイイ!!」


 ゴブリンは石斧を振り回して突進してきた。


「よし、まっすぐ向かってきてるな」


 ジョージは冷静にステップで誘導しながらゴブリンが木の苗に被害を出さないようにする。そして、巨大ゴブリンの足に拳を叩き込む。


「はぁっ!」


「ギャイ?!」


 ゴブリンはよろめいて倒れそうになる。しかし、軽いジャブでは倒すには至らなかったようだ。

 その様子を確認したジョージはすかさず連続パンチをおみまいした。


「くらいやがれ!」


 苗木を踏まないようにして足元が悪い中とは言え、鋭いパンチの雨が降り注げばいくら強化されたゴブリンといえど、ただでは済まない。

 これなら邪悪なフェロモン、()()()()()も浄化できるはず。……だった──


「──な、なに……!?」


 ジョージは目を疑った。

 ゴブリンは浄化されなかった。そもそもとして効いていないように見える。一応攻撃に仰け反ったりはしたが、よくよく見るとダメージ自体は入っていない。根本的にジョージのこの戦い方では勝てないのだ。


「何が起こって──」


「──ギャッヒャアア!!」


「ぐぉおっ!?」


 ゴブリンの攻撃でジョージが吹き飛ばされて、何本かの木々が犠牲になってしまった。


「ち、ちくしょう!」


 ジョージは石斧の攻撃をもろに受けてしまったがために、大変なことになっていた。


「チュンチュン」「ヒヒーン」「ブヒブヒ」「チューチュー」


 そう、衣服がズタボロになり、その類まれなるセクシーを晒してしまっていたのである。むしろ、半端に破けた服を身につけているので、もはや犯罪級のセクシー。セクシー警報発令中だ。


 そのせいでフェロモンバイオハザードが起き、森の動物たちがフェロモンにのみ欲するゾンビのようになってしまったのだ。


「これでは……。余計に戦いにくくなってしまった」


 ジョージは珍しく焦っていた。

 今までの戦い方ではダメで、しかも戦いにくい場所、戦いにくい状況、いくら頑丈でゴブリンの石斧で倒される心配はないとはいえ、このまま攻撃を受けていけば確実に衣服は無くなる。それに、この辺りの木々も犠牲になり、動物たちも可哀想な事になってしまうだろう。


 町に帰るにしても、このゴブリンを惹きつけたままでは、途中で通りすがりの人に多大な迷惑をかけてしまうためほぼ不可能。

 仮に帰ったとしても、こんなフェロモンダダ漏れの状態では、道中の動物も人も見境なく引きつれる()()()()()()()()()()の童話ができてしまうに違いない。


 そうなってしまったらもう、ジョージ・ハレムンティアから『ジョージ・ハーメルンティア』に改名しないといけないだろう。きっと親父にもお袋にも失望され、ジョージファミリーの皆さんには呆れたような困ったような顔をされるに違いない。


「どうにかならないものか……」


 フェロモンの神がいるのかは分からないが、ジョージはフェロモンの神にこの状況をどうにかする助けを願った。


「ギャルギャル!!」


 容赦なく一直線に迫り来るゴブリン。5mという、信号機くらいの高さもある巨大なゴブリン。その迫力あるゴブリンがジョージを倒そうと走ってくる。


「絶体絶命、だな……」


 ジョージが全てを受け入れようと目を瞑ったその時──


「──フェロモンソード!!」


「ギャリリリスワァアっ……!!?」


 耳心地のいいイケボが聞こえたかと思うと、紫色の閃光が巨大ゴブリンを瞬く間に切り刻み()()()しまった。倒されたゴブリンは毒ガスみたいなエゲツない雰囲気の霧になって消えていく。


「な、なんだ……?」


 流石にジョージのポテンシャルには及ばないが、それでも本気の70%に迫る鋭いフェロモンパワー。しかも浄化ではなく討伐のためのフェロモン。神速の剣さばき。そもそも、ジョージ以外の……そして敵以外のフェロモンの使い手。只者ではない。


 ジョージが状況に驚いていると、その霧が少しずつ晴れていき、討伐した者の正体が明らかになる。


「お前は……()()!」


 そう、フェロモンソードの使い手は、紫髪のハンサムボーイことシンだった。今日は軽装鎧にマントという冒険者っぽい衣装だ。


 シンはジョージの父であるダンとも知り合いであり、しかも先のフェドロ軍侵攻時もダンロッソを守っているのだから、これくらいの強さがあってもおかしくはないのだろう。


「助かったぞ、シン。しかし、あのモンスターはなんだ?」


 ジョージが森の動物に囲まれながら立ち上がる。


()()()()()()()()。フェロモンスターは、邪悪でネッチョリおぞましいフェロモンで作られた、全身フェロフェロの、フェロモンモンスターだ」


 シンはフェロモンソード(フェロモンのビームサーベルみたいなやつ)の刃の部分を霧散させ、グリップ部分を懐にしまいながら言う。


「フェロモンスター……か」


「フェドロはどうやら、次の作戦に進んだようだね。ジョージ・ハレムンティア、これからはフェロモンスターを倒せる技を身につけろ」


「分かった。さっきのお前の攻撃を見て、俺も新技のヒントを得たからな、すぐに開発するつもりだ」


「やはり天才、か……。それにさっきの……」


 シンは何か思うところがあったのか、そう言ってもの思いに耽る。


「どうした?」


 ジョージが動物に頬を舐められながら首を傾げていると──


「フェロモンソード!!」


 シンは鋭い目つきをジョージに向け、突然フェロモンソードで攻撃を仕掛けてきたのだった。


「シン、何をするんだ。……う、うわああっ──!!?」



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