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第二十七話 ファルドーネ追放物語


「──ここから追放の話ですわ」


 子供の頃の話を終えて、とうとうウィステリアが本題部分に入る。



 ● ● ●



 ファルドーネ家に帰還した時、ウィステリアは戦慄し、悲しみに暮れ、涙を流した。

 ウィステリアに唯一、手放しに無償の愛を注いでくれた母、シャルロッテは4年前に亡くなっていたのだ。当時、不治の病と言われていた魔晶病だった。


 ※魔晶病とは、体内を流れる魔力が結晶化してしまう病気で、一度かかれば激痛を伴って命を奪われる病気である。魔法で治療しようにも、魔力結晶が魔力を吸って膨張し、病を加速させるので治療不可能と言われていたが、ウィステリアが治療法を考案、実現に至る。(光と闇で反発する性質を活かして結晶化反応を無効化させる)


 魔法に打ち込むウィステリアを邪魔したくないというシャルロッテの望みで、この事実は伏せられていたのだった。


 悲しみに暮れるウィステリアに更なる追い討ちをかける。

 父、パオロが領地運営を失敗していたのだ。元はシャルロッテのサポートで何とかなっていたが、妻が居なくなってからは暴走し、ウィステリアが帰ってきた頃には民が疲弊、ファルドーネ家は()()()()の汚名を背負うまでになっていたのだ。


 そして、それを打開するべくパオロはウィステリアの知らないところで勝手にハーキング家との縁談を決める。

 ウィステリアはもちろん抗議した。


『なぜ、わたくしに断りもなく、それどころか話も通さずに勝手に決めましたの?! 領地のことなら、わたくしが改善──』


『子供が知った口を聞くな! もう決まったことだ』


 領地運営の改善策も提案しようとしたが話を聞く前に却下されてしまう。


 ハーキング家のルーサーは悪い人間ではなかったのは幸いだが、イケメンではあるもののウィステリアの好みでもなかった。

 ルーサー自身も親の都合で振り回されながらも、自身の役目を果たそうとしたが、ウィステリアは自分では手に負えないと負い目すら感じていた。ルーサーは口にこそ出さずに心にしまっていたが。


 両者ともに尊敬はできたとしても望まぬ婚約だった。



 その後も改善どころか悪化の一途を辿る父の暴走に、とうとうウィステリアは怒りを爆発させてしまう。


 ──ファルドーネ邸消滅事件である。



『実の娘の話も聞けぬ暗君など、わたくしが引導を渡して差し上げますわ!

 さあ、地獄へお行きなさい!!』


 最初の攻撃は、地属性魔法と炎属性魔法を利用して作られた誘導型爆撃魔法……つまり、ミサイル爆撃であった。

 それでファルドーネ邸は半壊した。しかし、それで収まるような怒りではない。ウィステリアはすぐさま魔法を発動し、追撃をはかる。


『地獄がどんなところかご存知かしら? 優しく教えて差し上げる!

  ──ヘルズフレア!!』


 地獄の炎を呼び出してファルドーネ邸は全焼してしまう。(ファルドーネ家に仕えていたメイドや執事は事前に避難済み)


 ファルドーネ邸が燃え尽きたのを見たウィステリアだが、それで満足できなかったのか、当時使える最強の魔法まで発動してしまった。


『地獄がタイプじゃない可能性を考えてませんでしたわね。……では、この魔法で天国まで直接送って差し上げますわ!!』


 数十mにも及ぶ球体型の巨大魔法陣によって呼び出された魔法。それは……。


()()()()()()()


 光すらを吸い尽くす究極魔法のひとつ、ブラックホールだった。

 

 闇は安寧をもたらす側面があり、ブラックホールはその究極であるため、その吸い込まれた先にあるものは究極の安寧の地である()()だと言われているのだ。


『…………』


 周囲数kmが消滅して巨大なクレーターだけになった、ファルドーネ邸跡地をウィステリアは静かに見つめた。そして、しばらくして涙を一雫だけ流し、ファルドーネ家再興を考える。



 ──しかし、パオロは生きていた。


 最初の爆撃の時に大きく吹き飛ばされて重傷は負ったものの、ヘルズフレアとブラックホールは受けずに済んでいたのだ。

 ファルドーネ家再興も、パオロが生きているなら話は別。


 パオロには怒りの猛抗議も理解されず、ただのワガママだと一蹴。ウィステリアは追放されてしまったのだった。


 もちろん、ハーキング家からも婚約解消され、行き場を失ったウィステリアは身一つで旅に出ることになった。親殺し未遂の汚名だけを背負わされて。



 領地を出るまではその汚名から人々から忌み嫌われ、宿に泊まることすらできず、近付いてくるのは野盗くらいだった。

 持ち前の魔法を活かして毎夜寝るための砦を創造し、自動防衛システムを発動することで被害は皆無だったが、当てもなく彷徨い続けるしかなかった。



 ● ● ●


「なかなか波瀾万丈ですね……。イメージとしては女神というよりは破壊神。ただ、これはこれで人気が出そうです。戦略を練り直した方が良さそうです」


 アメリアは頭を抱えて難しそうな顔でメモを取る。


「でも、それが無ければジョージに会えませんでしたわ」


「そこで、ドレス姿で1人で古代遺跡に入るウィジーを見かけて、ついて行ったのが出会いだな」


 ジョージが懐かしむように話す。


「わたくしはあの遺跡を棲家にしようとしてたのに、ジョージったら危険だから引き返せと、無理やり連れ出そうとしてきましたの」


 ウィステリアはジョージに目配せをしつつ、照れながら言った。


「それで、どうなったんですか?」


「口喧嘩になって、無意識のうちに魔力とフェロモンがぶつかって大爆発。生き埋めになっちまったのさ」


 そんなことを言いながらも、ジョージは楽しそうだ。


「そこに住むつもりでしたから、私は怒ってしまって……でも、破壊して出るわけにもいかず、しばらく狭い空間で2人きりでしたの……」


「そこでウィジーの腹がなったから、おにぎりを渡そうと思ったんだが、俺がくしゃみしちまってな」


 ジョージが自重気味に笑う。


「落としちゃったんですか?」


 アメリアが尋ねるが、ジョージは横に首を振る。


「じゃあ、潰しちゃった……とかですか?」


「そうだ。俺の握力がありすぎてな……米が極限まで凝縮されちまって()()()()()()()()()になっちまった」


「ダイヤに……ダイヤに?!? ジョージ様の握力、握るってレヴェルじゃないですよ!」


 困惑するアメリアをよそに、ジョージとウィステリアの惚気話は続く。


「だから、ウィジーは装飾品とかつけてるし、宝石が好きなんだろうなって思ってさ……そのおにぎりダイヤモンドをプレゼントしたんだ」


「ええ、そうでしたわね。今でも覚えていますわ、あの日のこと。お腹は満たされませんでしたが、胸は満たされました。その後もわたくしを気遣って上着を貸してくれたり、慎重に瓦礫をどけてくれたり、疲れたわたくしを抱き上げて町まで連れて行ってくれたりと、あの日はわたくしにとって宝物です」


 指にはめるおにぎりダイヤの指輪を撫でる。


「ま、あの時は大変だったが、今ではいい思い出だな」


「はい。……その後田舎で楽しく野菜を育てたり、ご近所さんと仲良くして、今ではここでおしゃべりできてますものね」


「……さすが正妻と言うだけあって、ウィステリア様とジョージ様は信頼しあってますね」


 アメリアが優しい微笑みを浮かべる。ただ、『少しうらやましいです』と言う言葉は、言わずに飲み込んだ。ジョージが落としてくれるその日までは、信頼して待つと決めたから。



「じゃあ、買い出しに行こうか」


 ジョージが立ち上がると、ウィステリアも立ち上がる。


「ええ。なにせ、エルフの森へ行くのに長旅になりますから、入念に準備しませんと」


「記憶を取り戻すという薬、親父に効くと良いな」


「きっと効きますわ」


「……ああ!」



 そうして、旅の準備をするためにふたりは仲良く買い出しに行くのだった。



 次の目的はジョージの父、ダンの記憶を取り戻して真相を知ること。

 エリンから記憶喪失や物忘れ(エルフは長寿のため需要がある)に効く、記憶薬があると聞いたジョージたちは、エルフの森に行くことに。

 ウィステリアは転移魔法が使えるが、それは詳しい場所を知ってる場合のみ。なので、どうしてもエリンの案内のもと、直接向かうしかなく、こうして旅に出ることになったのだった。




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