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第二十六話 女神ウィステリア様?!

 場所はリズンバーク、秋の某日、朝10時ごろ……住民たちは異変に気が付いた。

 なぜかみなソワソワしていて落ち着かない。何かが始まったのかそれともすでに始まっているのかは不明だが、しかし確実に町は昨日までと違っているのが分かる。


「──どうしたのかな?」


 とある女性が窓の外を眺めて呟く。

 最近ハーレム入りした人だ。


『いそがなきゃ』


 女性がそんな事を言いながら、家の前の通りを走り去っていく。


「何かあるのかな。……確かめてみよう」


 女性は少し悩んだが立ち上がり、少しぬるくなっていたホットミルクを飲み干すと、外套(がいとう)を羽織って外に出た。

 すると、先ほどの女性だけでなく、他にもたくさんの人が同じ方向に向かっているようだった。


「……あの、これはどういう?」


 近くにいた男性に声をかけて尋ねてみる。


「……さあ、みんな同じ方向に行ってるから何なのか気になって」


 それだけ言うと、男性はまた歩き出した。


 男性も自分と同じ境遇だったようだ。

 他にも同じような人は少なくなく、首を傾げながら向かう者、恐る恐ると言った雰囲気で様子を伺う者、数人で推測する者までいた。


「──何かのバーゲンかしらねえ?」


 おしゃべり好きのマダムが、女性に近付いて話す。


「……そうなんですかね? どこかのお店がオープンしたとか?」


 女性が首を傾げると、お爺さんが近づいてきて言う。


「ここまで多種多様な人らがいるんじゃから、何か娯楽系かもな。ゲームか? ……ワシ、バックギャモンなら強いぞ?」


 お爺さんは得意げに言うが、マダムと女性はキョトン顔。


「バック……なに?」


「バックギャモンじゃ。ボードゲーム!」


「……ねえ、お嬢さん……その、バックギャモンって知ってる?」


「いえ……名前は聞いたことあるような、無いような……?」


 苦笑いを浮かべながら答える。


「……ったく、バックギャモンを知らんとは、人生の5%くらい損をしとるぞ!」


「娯楽としては、ちょうど良い塩梅ですね。また調べてみようかな?」


 女性が少しだけ興味を持つ。


「まあ、それより今はこれじゃわい」


 お爺さんが指を向ける。

 いつの間にか人だかりが大きくなっていた。


「もしバーゲンなら、急いだほうがよさそうね。ただ、昨日もバーゲンだったから、お財布の中身が心配なのよねえ。……まあ、必要なものなら買うくらいでいいかしら」


「そうですね。じゃあ、行きましょうか」


 そんなこんなで、みんなが向かう先へ急ぐのだった。




 ● ● ●



「……すごい人だかりだ」


 女性が目的地近くに来て驚く。

 すでに数百人以上がそこに集まってきていた。


「でもここって……」


 マダムが周囲を見渡しながら確かめる。


「住宅街、じゃの」


 お爺さんの言う通り、ここは何の変哲もない住宅街。

 強いて言うなら、この辺りにジョージファミリーが住んでいることくらいか。


「ジョージさんなら何か知ってるのかな?」


 女性が呟く。しかし、ちょうどジョージ宅がある方向に列が続いているため、進もうにも進めなかった。


「どうしよう……」


 女性が困り果てていた時、前の方で歓声が上がる。


 ──わあああ!


「なにかしら?」


 マダムが首を傾げてその方向を見るが、なぜ歓声が上がったのかよく見えない。しかし、その疑問はすぐに解消される。


()()()()()()()だ〜!!」


 観衆の1人が嬉しそうに声をあげる。


「ウィステリア様?」


 ウィステリア様といえばジョージさんの正妻(将来的に)であり、フェドロ王国方面にある田舎で住んでいるという話をハーレムの先輩が語っていた。

 ハーレムNo.が50くらいまでの人は直接その目で見て、しかも会話もできたようだが、なにせこの女性はまだ入ったばかり。話だけの存在だった。


「あ、バーゲンじゃないのね」


 マダムが手に持っていたお財布を鞄にしまう。

 そして、ガッカリするかと思いきや、明るく楽しげな表情に変わる。


「ウィステリア様は、とてもお美しいって噂なの。一度会ってみたいと思ってたから嬉しいわ〜。しかも、お財布の中身を心配する必要も無くなったし、今日はツイてるかも」


「ゲームじゃないが、ウィステリア様をこの目で見られる日が来ようとはな。……どうやら、女神のように美しいそうじゃないか。さすがジョージくんじゃの」


 お爺さんも楽しげに語る。


「あれ、人だかりが……」


 話をしている間に、なぜか観衆が徐々に割れ一本の道ができていく。

 すると、見えてくるその中心。そう、そこは……


「ジョージさんの家だ!」


 女性が叫んだのと、ほぼ同時に後ろの方から声が上がる。


「ウィステリア様がジョージ様の家に引っ越してきた噂はやっぱり本当だったんだな!」


 その言葉を裏付けるように、ジョージ宅の扉が開いて中から赤い髪の女性が姿を現した。


 ──ウィステリアだ。


「「「うおおおおおおお」」」



 大歓声が上がる。


「ウィステリア様〜!」


「なんとお美しい……!」


「眩しっ」


「ジョージ様もいるぞ〜!」


「くぅ〜! ラブラブビッグバンが巻き起こってるぜ!」


「末長く爆発してくれ〜!」


 人々は思い思いに発言する。

 しかし、その全てがポジティブな言葉であり、ジョージたちがいかに民衆に好かれているのかがわかる。

 それもこれも、ジョージはサンバ以降リズンバークの祭事を任されて町を盛り上げたり、困っている人を助けたり、フェロモンでトリコにしたり、街の治安を守ったりと大活躍だからだ。……多少熱狂的すぎるふしはあるが。


「すごい熱量……さすがウィステリア様だ。

 遠目から見てもオーラが半端じゃないし」


 しかし、この状況に1番驚いているのはウィステリアだった。



 ● ● ●



 ウィステリアは扉を開けて家の群衆を見るや否や、驚いて扉を閉め直す。


「じょじょじょじょじょ……ジョージ!? あの方々は何なんですの!」


 あまりの事態に戸惑いを隠せないウィステリアは、家の中で支度をしていたジョージに慌てて駆け寄る。


「ん? ああ、ウィジーがこの街に引っ越してきたから、その見物だろう。

 なんかこの前ウィジーがリズンバークに来た時に、ウィジーを見たハーレムのみんなとか町の人が、美しさとかその佇まいを褒めててな。

 それに加えて、田舎の方にやってきたモンスター千体近くを1人で倒した武勇伝付きだ。

 サンバでの熱狂とか俺の活躍とも相まって、英雄とか女神とかアイドルとか偉人とかみたいに、名前だけならウィステリアをこの町で知らないヤツはいないほどだ。

 教会近くの噴水広場に石像が建てられようとしてるくらいなんだからな。……ふふっ、建設途中だが、見にいくか?」


 ジョージが楽しそうに語る。


「…………はっ」


 呆気に取られていたウィステリアが我に帰る。


「石像?!

 わたくし、この町では何もしてませんのに! リーズン教の方やアメリアは止めませんでしたの?」


 そこにリビングで日向ぼっこをしていたアメリアが答える。


「ジョージ様とウィステリア様の人気にあやかって、リーズン教を盛り上げようという話にまとまりまして、皆様とても乗り気でしたよ。そもそも発案は私ですし」


「アメリアが?!」


「はい。特に活躍しなくてもなぜか人気を集めていたのを見て、このまま放置して悪い方向に尾鰭がつく前に、リーズン教で綺麗な方向でイメージを確立させたかったんです。

 ジョージ様は今や町の英雄、その正妻であるウィステリア様に悪い噂が立てば波乱が起きますからね」


「……そうでしたの。とりあえずは、納得しましたわ」


 渋々と言った雰囲気だが、ウィステリアは溜飲を下げる。


「……念の為に聞いておきますが、ウィステリア様は悪いこと……していませんよね?」


 しかし、そのアメリアの質問にウィステリアはギクリとした。

 もちろん、後悔はしていないが、悪いか良いかで言われたら確実に悪いことをしていたからだ。


「ああ、ウィジーは実家で暴れていたな。あの話、しておくか?」


「そういえば、始めた会った時にそんな話をしていましたね。聞いても良いですか?」


 ウィステリアに視線が集中する。


「………………」


 しばらく黙っていたが、そんな視線に耐えきれずにとうとうウィステリアは観念して口を開いた。


「……はい。悪い事……ではありますが、でも悪意があってのことではありませんのよ?」


 そうして、ウィステリアはちょっとした半生と大暴れ話を語り始めた。




 * * * * *



 約18年前、ファルドーネ家にとても元気な女の子が生まれた。その子はとても元気で、元気な上に生まれながらに魔法を使えたので、生まれて早々母元を離れて飛んで行こうとしたという。


 そんな女の子は成長するにつれて魔法の才能と共にお転婆を加速させ、新しい魔法を使いたいばかりに庭で魔法をぶっ放し、クレーターを作っては母親であるシャルロッテに怒られたという。

 とは言え、その程度で止められるようなお利口さんではなかったため、お目付け役としてファルドーネ家随一の魔法使いが派遣される。一度は平穏が訪れたものの、8歳の時にそれも下し、ファルドーネ家にまたハチャメチャが押し寄せてきた。


『わたくしこそ、パーティーの主役ですわっ⭐︎』


 そのウィステリアの大活躍によって途方に暮れたパオロは、世界一の魔法学校"魔法塔"にウィステリアを入学させ、再び平穏を取り戻す。


 魔法塔は多種多様な魔法カリキュラムが存在し、世界中の名だたる魔法使いが講師として活躍し、生徒もエリートだらけ。ウィステリアもおとなしくなる。……と思いきや、1年目の春。事件は起こる。


 1年生最初に行われる実技テスト。

 モンスターを模した的に魔法を当てるというもので、生徒の基礎能力と才能、現在の知識を計る。

 いくらエリートとは言え、ほとんどが10歳にも満たない子供であり、周囲にも熟練した魔法使いが多数配置。的も頑強なので、事件どころか予想外のことなんて起きたことがなかったのだ。

 ……ウィステリアが来るまでは。


『光よ、ここに集いて破壊せよ……"プリズムバスター"!!』


 無数の光が大爆発を起こす、災害級の大魔法だった。そう、ウィステリアは天才だった。


 モンスターを模した的は消滅。生徒は逃げ出し、講師陣は被害を出さないようにするのに手一杯で、爆発の衝撃でテスト会場である模擬戦場は全壊してしまう。


『あら、わたくし……また何かやってしまいました?』


 ウィステリアはそんな壮絶なデビューを果たし、同級生はもちろん講師たちにも注目される存在になる。

 しかし、一部の上級生はそれが面白くないと、ウィステリアを標的に容赦のない模擬決闘を連日申し込む。


 もちろん、天才とはいえ8歳児。勝つこともあったが、最初の方は負けの方が多く、悔し涙を流す日々が続いた。

 ただ、ここでめげるウィステリアではない。と言うより、負けるのは悔しいが、そもそもウィステリアは()()()。そして、飽くなき魔法の探究者。すべての戦いにおいて楽しみ、学び、成長を続けた。

 そんなウィステリアの当時の口癖で、上級生を震え上がらせたものがある。それは──


『その魔法、貰って良いかしら?』


 もちろん、相手の魔法を奪い取るような特殊スキルを持っているわけではない。

 ただ、単純に、シンプルに、ウィステリアは見て学び、戦闘中に習得してしまうのだ。天才ゆえに。そして、何より恐ろしいのが、上級生が使っていたオリジナルより高出力なのだ。

 下級魔法ですら、上級魔法のようになってしまう。


『……これはエクスプロージョンノヴァではなく、ファイヤーボールですわ⭐︎』


 身も心もプライドもズタボロだ。


 上級生の模擬決闘いじめは1年後にはウィステリアの魔法習得会場に成り果ててある意味平和になる。



 本来なら卒業(基本的な学習において)は18歳なのだが、ウィステリアは国で1番の魔法使いの称号を提げて、13歳で卒業してしまう。そして、4年の歳月を費やして魔法をより研究し、ファルドーネ家に帰還した。



 ● ● ●


「すごい経歴ですね、これが大暴れですか?」


 話を聞いていたアメリアが尋ねる。



「ここから追放の話ですわ」


 ウィステリアはここから、追放に至る直接的な物語を語った。



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