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第二十五話 ジョージファミリーと新たな幕開け

「──そうですわ。

 ジョージとの繋がりがどの程度あるかはまだ分かりません。親戚なのか、分家なのか、偶然家名が同じだけか、権力もないほどの遠縁か。

 ……ですが、ひとつの事実として。この近隣にかつて小国がございましたの。

 その小国の名こそ……()()()()()()()

 ジョージ・ハレムンティアと同じ名前の国が……!」


 ルーサーが目を見開いて、その後ゆっくり考え込んだ。

 しかし、パオロはまだ納得し切ってないらしく、不機嫌そうにウィステリアに言う。


「……しかしだな、そやつがハレムンティアだとしても、そう上手く再興できるものではないだろ。このワシでさえファルドーネを再興しようとしてここまで苦心しているのだからな。

 それに、滅亡した貴族など、もはや平民以下ではないか。そんなもの、言い訳にはならん」


「……はあ」


 ウィステリアは軽くため息をついたあと、パオロの目を見て力強い声色で抗議した。


「……もし、ジョージが王子でなくとも、わたくしが見込み、認め、信じ……()()()()()()! 知りもしないで、ジョージを侮辱しないでくださいませ。

 そのようなこと……たとえお父様であろうとも許しません!!」


「……え、あ……」


 パオロが気迫に押される。


「あの方は、どのような形であれ大成しますわ。

 それを裏付けるように、もうすでにそのカリスマ性を見せてくれておりますもの。ですから、後はわたくしが()()として全力で支えるだけ」


 愛の力強さを見せつけるウィステリアだが、最後にちょっとした反撃をお見舞いした。


「それに……そもそもファルドーネ家を傾けたのはお父様ではありませんか。

 目先の利益に目をくらませ、無理な税を徴収し、民が疲弊して税を納めることもままならなくなり、ファルドーネ家が衰退した。……でしょう?

 そのようなお父様の()()()()など、聞く必要ありませんわっ」


「……ぐぬぬ……!」


 とうとうパオロは万策尽きたと言ったふうに黙り込んでしまう。


「話は終わりましたわね。では、わたくし達を祝福でもする気になったら会いましょう?」


 ウィステリアが指先に魔力を込めると、パオロは我に返って慌てはじめた。


「……え? ちょっ、それは!?

 ま、待て、それは酔うからっ、ああ──」


「さようなら、ごきげんよ〜」


 ──パチンっ。


「あああぁぁぁぁぁれええぇえぇぇえぇえ〜〜────」


 パオロは絶叫をあげながら星になってしまった。


「……お父様は()()領地に戻りましたわねっ」


 飛んでいくパオロを見て清々しい顔で笑うと、次はその表情のままルーサーに向き直る。


「ルーサー、貴方もわたくしの魔法で帰りますか?」


「……いや、あれで戻ると、酷すぎる二日酔いみたいになるし遠慮しておくよ……」


「……? ああ。それは、わたくしが()()()付与した効果ですの。

 このわたくしが、そのような不完全な魔法を使うわけがありませんわ」


 ウィステリアは気に入らない人を飛ばす時に、酷い二日酔いみたいな効果を追加して魔法を発動するのだ。つまり、今さっき飛ばされたパオロはもちろん、今頃酷い酔いに悩まされることになるということだ。


「そ、そうか……」


 苦笑いを浮かべていたルーサーだが、ふと真剣な面持ちになってウィステリアに確認した。



「……ウィステリア、君はフェドロと戦うつもりだな」


 それを聞いたウィステリアも覚悟を決めた顔になる。


「ジョージはきっと、フェドロと戦うことになりますわ。ならば、夫の敵はわたくしの敵。覚悟はできていますわ」


「……そうか」


 ルーサーは静かに頷くと、ウィステリアに別れの言葉を伝える。


「……ジョージさんと末長くお幸せに。きっと、勝つと信じているよ。

 ……じゃあね」


 爽やかに笑って立ち去ろうとするルーサーだったが──


 ──パチンっ。


「え?」


「送って差し上げますわっ」


「ちょ、待っ!?

 ……あぁぁあああぁああれええぇぇぇぇぇええ〜〜──」


 魔法で飛ばされてしまったのだった。



「…………酔いの追加効果は、今回は特別に無しにしておきましたわ」


 ウィステリアはスッキリとした気持ちで振り返ると、そこにはウィステリアを待っていたオフィーリアが居た。


「ウィステリア様、では行きましょうか」


「ええ、ジョージの元へ……」





 * * * * *




 そして、しばらく後。

 ウィステリアはオフィーリアを連れてジョージ宅に来て、ジョージ達に事情を説明した。



「……つまり、俺は王族の末裔(まつえい)の可能性があるのか」


 ジョージが考え込むように頭を抱える。

 もしそうなら、バリッドがジョージのことを『ジョージ坊ちゃん』と呼んだことにも納得がいく。

 ハレムンティア家が滅亡させられたなら、両親が田舎の村に住んでいたのも合点がいく。



「ですわ」


「フェドロとジョージは因縁が深そうじゃな。どこかに姿を隠して静かに暮らしでもしない限り、いつかは戦うことになるのかの〜」


 先のことを思うと、少し気持ちが重くなってしまうエリン。


 ジョージの両親が無事だったことを考えると、ジョージの祖父世代が戦っていたのか、もしくはジョージは分家の出の可能性がある。とは言え、隠れずに表で何の危険も考えずに安心して暮らそうと思えば、フェドロの脅威を退ける必要があるだろう。


 あと、これはまだ可能性でしか無いが、もしジョージの父、ダンが家族を離れたのもフェドロと関係あるのなら、隠れて暮らすのも難しくなってくる。


「どう転んでも、フェドロのことを考えないといけないのか……」


 ジョージが呟く。

 


「ですわ……!」


「ここはリズンバークですので、幸い今すぐ襲われないでしょうけど」


「……ですわ」


 話しが一区切りして少し空気が軽くなると、ようやくイリーナが口を開いた。


「……それにしても、ウィステリア様は、さすが正妻のたたずまいですにゃ。我が道を征くといった感じで、尊敬しちゃうっ」


 イリーナは白い猫耳をピョコピョコさせながらはしゃぐ。


「ですわ〜」


「ぷるるっち」


 何かを真剣な雰囲気で語るスライムのぷるち。


「ですわ……」


「そして、この方はどなたですか?」


 ウィステリアの隣に座る淡い桃色の髪と瞳を持つ少女を見てアメリアが尋ねる。


「オフィーリアですよぉ。よろしくおねがいします」


 ふんわりとした声でオフィーリアが答える。


「ですわ!」


 それまで相槌しかしてなかったウィステリアが、人差し指を顎に当てて少し考えると、人間の言葉を話し始めた。


「……オフィーリアちゃんはわたくしのお友達ですの。

 わたくしが子供の頃から愛飲する紅茶の茶葉を生産している歴史ある茶葉農家。"カーマイン家"のひとり娘ですわ。たまたまご近所さんだったから、なかよくなりました」


「ウィステリア様のカブが美味しくて、お声がけしたら……まさかのお得意様であったファルドーネのお嬢様だったんです〜」


 オフィーリアは花びらが柔らかく舞うようにふわふわと笑う。

 その笑いと同じように、長く柔らかい髪も風になびく枝垂れ桜のように優雅に揺れた。


「それで、ふたりはこの家に住むってことで良いんだな?」


 ジョージが確認をとる。


「……はい。よろしくお願いします、ジョージ様」


 オフィーリアは立ち上がってゆったりと頭を下げた。


「こちらこそよろしく。部屋は空いてるところを好きに使えばいい」


「では、さっそくお部屋を選んできますね〜」


 オフィーリアはワクワクしながら2階へ向かった。


「……それで、わたくしはどうしましょう?」


 ウィステリアがジョージに真面目な顔で尋ねる。


「どうしましょう……って、どういうことだ?」


「わたくしはジョージの部屋に住めばいいのかしら?」


「いや、いくらウィジーが俺の正妻になると言ったって、プライベートは必要だろう。いつ来ても良いが、自分の部屋はあって損は無いはずだ」


「……そうですわね。荷物もありますし、2人分となると窮屈で心休まりませんわ」


「そういうことだ」


「では、わたくしも部屋を確保してきます」


「俺もふたりの荷物を上に運ぶのを手伝おう」


 そうして、ウィステリアとジョージも2階へ向かったのだが、残された3人と1体はその様子をしげしげと見ていた。


「……さすが、正妻というだけありますね」


「恥ずかしげもなく、当たり前のように仲の良さを披露しておったの。うちも、早くあの域に達したいのじゃ」


「にゃ〜んっ! ラブラブで、ドキドキしちゃったにゃ♡」


「るぷるっぷ〜」


 そんなこんなで、ウィステリアとオフィーリアを迎えて新しい生活が始まるジョージ宅であった。


「……あの2人も私もハーレムでは無いですし、この家に住むひとをまとめて呼ぶとしたら、ジョージ様を中心とした集まり。……()()()()()()()()()と言ったところでしょうかね」



 * * * * *



 その頃、邪悪でネッチョリ汚いドロドロの雲(フェロモン雲)が立ち込めるフェドロ王国。

 その城では、邪悪な王フェドロが部下から報告を聞いていた。



「──バリッドが堕ちたか」


「はい! ジョージ・ハレムンティア率いる数人が、フェイター卿と、その軍勢数千を全滅させたようです」


「……おのれ、ハレムンティア……! いつも我の野望の前に立ち塞がりおって……忌々しい一族だ。

 しかし、今回の戦いで我々にも収穫があった」


 フェドロはニヤリと笑う。


「……リーズン教のことでしょうか?」


 部下の兵士が恐る恐る尋ねる。


「そうだ。……まさか、神聖力をフェロモンに取り込めば、何倍ものエネルギーを生み出すとはな。

 バリッドも、最後に役に立ってくれた」


 フェドロはそこまで言うと少し考えこみ、やがてニヤリと笑って部下に告げる。


「本格的にハレムンティアを潰す前に、少し実験をしておこうか……。神聖力の強さも、フェロモン増強に影響を及ぼすのか調べねばならぬ。

 ()()を牢から出せ」


「し、しかし……あの方は! 危険です!」


 フェドロの命令に兵士が狼狽える。


「……逆らうのか?」


「い、いえ……」


 しかし、フェドロのひと睨みですくみ上がり、兵士はその命令に従わざるを得なくなった。


「では、早く行け」


「……仰せのままに」


 恐怖の板挟みになった兵士は、全身を震わせながら()()の待つ牢へ向かうのだった。




「……待っていろ、ジョージ・ハレムンティア。貴様の忌々しいフェロモン伝説もここまでだ!

 必ずや最高の神聖力を取り込み、我がフェロモン──()()()()()で貴様を、ハレムンティアを打ち砕く!

 そして、今度こそ我が野望を叶えてみせるぞ。……ふふふふふ……ふふふははは……。

 はぁあーはっはっはっははあぁっ!!!」



 フェドロの邪悪な笑いによって、新たな幕が開けるのだった。


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