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第二十話 フェドロ軍の悪行とチカラ

 ダンロッソから少し離れたリーズン教の教会。

 普段そこはリーズン教信者がお祈りをするためにやってきたり、貧しいものを助けたり、冒険者が一時の安らぎを得るために腰を下ろしたりする憩いの場であった。しかし──


「ヒヒヒ……! 奪え奪え! 貴様ら奪え! 信者どもが使うより、フェドロ騎士団の筆頭であるバリッド・フェイター様が使う方が有意義だろう?」


 フェドロ軍の兵士を束ねるフェドロ騎士団長のバリッドが、その平穏を脅かしていた。


「……や、やめてください! これは、週末に貧しい方達に配る大切な食糧なんです!」


 信者が食料を運んでいく兵士たちに縋り付くが、兵士たちは虚な目をしたまま足蹴にして奪っていってしまう。


「言っても無駄だ。……そいつらは俺の命令しか聞かないんだからな」


 ゲスい笑いを浮かべて信者を嘲笑うバリッド。

 バリッドの言う通り、兵士たちはマシーンの如く食料を奪うだけで、感情はないみたいに反応を示さない。意識があるのは一部の忠実な部下だけだ。


「──これ以上こんな非道なことをするなら、許せません!」


 そこに待ったの声をかけるものが居た。

 この教会を守る助祭ディーンだ。今までは仲間のことを思って黙っていたが、信者たちに酷い仕打ちをするバリッドを許せなくなり立ち上がったのだ。


「おうおう、威勢がいいじゃないか。だが、今まで黙っていた弱虫が、このバリッド様に勝てるとでも?」


 バリッドはニヤリと笑うと剣を抜く。その剣は邪悪な瘴気のようなものをまとう魔剣だった。


「勝てる勝てないではない!」


 助祭ディーンは若いながらもなかなかの神聖魔法の使い手であり、幾度となく野盗やモンスターを撃退してきた実力者。慈悲深く戦闘を好まないが、ひとたび戦いとなれば手加減をしないツワモノだ。


「じゃあ、かかってこいよ!」


「お前を倒す! ──ホーリージャベリン!!」


 ディーンは光の槍をいくつも作り出し、戦闘を開始した。



 ● ● ●



 数分後……。


「なかなかやるじゃねえか。だが、俺様の方が一枚上手だったなぁ? ケヒヒヒヒ……」


 立っていたのはバリッドだった。


「………………」


 ディーンは虚な目をして言葉も発しない。バリッドの手に落ちたのだ。


「フェドロ様の力を宿したこの"魔剣フェロード"は、生物を意のままに操ることができる。……それは、理性を司るというリーズンの信者でもおなじだったようだな。……ん?」


 ディーンと魔剣を見て、バリッドは何かに気がついてニヤリと笑う。


()()()()()()……!

 そうか、強いヤツを手中に収めると俺の力も強くなるんだが、リーズン教信者は特に効果が高いのか……!

 そうかそうか……ケヒっ」


 バリッドの心の底にあった野心が燃え始める。


「このまま力をつけていけば……そうだ、力をつけて実力を示せば、大臣に……。それどころか、ゆくゆくはフェドロ様……いや、フェドロの座も奪えるかもなあ?」


 バリッドの顔に邪悪さが増す。


「……どうせ、フェドロも元々は王族じゃなかったらしいじゃねえか。奪ったものだって噂だ。

 ……なら、あの王座を俺が奪っても文句は言えねえよなあ……!」


 魔剣から瘴気を出して、残りの信者も操り人形のようにしてしまう。


「さっさとこの地域を制圧して、フェドロをやっちまうか。そのあとは全国民を俺の操り人形だ。俺に楯突く奴は誰もいなくなる。

 ……ああ、そうだ……軍を作らねえとな。そう、人じゃなくてもモンスターでいい。どうせ使い捨てだからな。訓練が必要な人間より、元からある程度強いモンスターが良い」


 そうバリッドが邪悪な策謀を練っていると、忠実な部下の1人が慌てて駆けつけて報告する。


「バリッド様! 先ほどの兵士の追撃に向かったワイバーンが何者かに倒されたようです!!」


「なにぃ!?

 冗談は寝てから言え! あのワイバーンだぞ? あの辺りの冒険者もやってきたリーズン教の兵士もまとめて倒せる強さがあるんだ。それに魔剣フェロードの力で強化までされているんだ、倒されるわけないだろ!」


 バリッドが怒り狂い、周囲の木々を蹴り倒す。


「し、真実です!

 周囲にワイバーンの反応はありませんし、討伐隊も無事でした」


 兵士がバリッドに恐れながら情報を付け加える。


「……ちっ。あのワイバーンを手懐けるのに、どれだけの犠牲を払ったと思ってるんだ……」


 バリッドは事実を認め、しぶしぶ怒りを鎮める。


「どうしましょうか?」


「やる事は変わらん。だけどよ、そのワイバーンを倒した奴がいるなら……戦力を増強させる必要があるな。

 ……フェドロを倒す前の試練。絶対に乗り越えてやる……!」




 * * * * *



 場面変わってジョージサイド。


 ジョージたちはフェドロが拠点にしているという情報のある洞窟へ来ていた。


「──貴様誰だ!」


 意識のあるバリッドの部下がジョージたちに立ち塞がる。


「フェドロ軍討伐隊の援軍。……ジョージ・ハレムンティアだ!」


 ジョージが堂々と名乗りをあげ、エリン、イリーナ、アメリアも構える。


「ジョージ・ハレムンティアだと〜?

 へっ面白い名前をしてるじゃないか。……だが、関係ない。貴様はバリッド騎士団の忠臣であるこのエイドリアンによって倒されるからだ!

 ヤローども! たった4人だ、叩き潰しちまえ!!」


 奥の方から大量の兵士がやってくる。しかし皆一様に虚な目をしている。


「……くっせえ。ネッチョリとしたドブみたいな匂いだ。……ん? そうか……!」


 その臭気にジョージが顔をしかめるが、すぐに気を取り直して閃く。


「みんな、あの兵士どもは操られている! 正気さえ取り戻したら戦いは終わるはずだ」


「そうかっ。ジョージくん、フェロモンをエンチャントするんだにぇ?」


 仲間の攻撃に聖なるフェロモン属性を付与すれば、相手の邪悪なフェロモンを消滅させることができる。

 元々操られているだけの兵士なら、その邪悪なフェドロフェロモンさえ消えれば戦闘意思も消える。


「エリン、スパークルショットの準備。イリーナ、その機動性を生かして取り逃がしを隠密攻撃(スニークアタック)。アメリアは跳弾した矢が味方に当たらないように防護結界を!

 ……そして、俺はエイドリアンとやらをぶっ叩く!」


 スパークルショットは矢が壁を跳弾して敵を攻撃する技で、こういった洞窟で使えば攻撃回数が激増するこの戦いでうってつけのスキル。

 イリーナはマジックシーフなので、隠密スキルと魔法で姿を消して素早く敵を倒すことができる。

 アメリアの使う聖歌で発動する防護結界は、フェロモンに対して効果的。なので、スパークルショットが当たっても気にせず行動ができるようになる。

 それに加えてジョージのフェロモンと合わされば、フェドロフェロモンをまとった敵の攻撃をほぼ無効化までできてしまう。


「うん!」「はいにゃっ!」「分かりました!」


「──フェロモンエンチャント!」


 3人が返事をすると、ジョージはボタンを3つ開けてフェロモンを放出。

 前衛の兵士を引きつけつつエリンの弓矢、イリーナのショートソード、アメリアの杖にオーラとして纏わせた。


「──ラ〜♪  親愛なるリーズン様のお力を分け与えください……。大いなる守りのベールよ、今ここに」


 アメリアが聖歌を歌うと、仲間にベール状の防護結界が展開される。そして、ジョージのフェロモンエンチャントの効果で対フェドロ軍の攻撃を弾くことができる。


「次はうちじゃ! フェロモンスパークルショット!!」


 壁を跳弾する光の矢を連射する。



「「「うぉあああっ!!」」」


 フェロモンスパークルショットは洞窟内で縦横無尽に飛び回り、エイドリアンの部下をどんどん正気に戻していく。洞窟内という逃げ場のない状況、正気を失い判断が遅い兵士、そしてエリンの容赦ない連射に瞬く間に8割以上の敵が無力化してしまう。


「後はあたしだにゃ!」


 イリーナは爆発でもしたのかという勢いで地面を蹴ると、風をまとって一瞬で姿を消した。そして次の瞬間──


「「ぐぁああ!!」」


 矢が当たらなかった敵を背後から攻撃。一撃で仕留めた。


「ぐぬぬぬぬ……! よくも俺の部下を……!

 このエイドリアンに恥をかかせた事を後悔させてくれるわ!!」


 エイドリアンは勢いよく剣を抜き、バリッドから受け取った邪悪なフェロモンを増幅させる。


「……最後のシメといこうか。ボタンは……今の俺なら、ひとつでじゅうぶんだな」


 詰め襟の黒ロングコートの1番上のボタンをひとつだけ開けた状態にする。


「なめやがってぇえ!! ジョージ・ハレムンティア!

 貴様はフェドロ様とバリッド様、そしてこのエイドリアンの手によって作られる歴史の中に葬ってくれるわ!!」


 エイドリアンが目をカッ開き、フェドロフェロモンの邪悪な斬撃を飛ばす。


「フェドフェロブレード!!」


「そんな()()()なフェロモン、効かねえっ!!」


 ジョージは正面から受けるもノーダメージ。


「なにぃっ!!?」


 エイドリアンがうろたえて逃げようとするが、時すでに遅し。


「──フェロモン・夏!!」


「夏!?」


 ──ズドバァ──ンッ!!!!!


「……あっつ〜い♡」


 邪悪な顔をしていたエイドリアンも、ジョージの夏のアツいフェロモンでイチコロ♡

 夏の楽しげな雰囲気と火照ったほっぺを手に入れ、カブトムシをとっていた虫取り少年の時の記憶を呼び覚まして浄化されるのだった。


「ふんっ。これが俺のフェロモンだ!!」


「さすがジョージじゃ!」


「エリンもすごかったぜ。まさか、跳弾した矢が味方に一回も当たってなかったしな」


「練習したからのう〜」


 ジョージの言葉にエリンが照れる。

 エリンは味方に当てず敵に当たるように日夜練習してきた。

 元々威力も精度も凄まじかったが、敵を前にすると慌ててしまって手元が狂う。そんな弱点を克服しつつあるのだ。


「エリン先輩、頑張ってたもんねっ。ジョージくんに褒められて良かったにゃぁ」


 イリーナはエリンの頑張りを見ていたからか、自分のことのように喜ぶ。


「うん。本当に良かったのじゃ。イリーナも練習に付き合ってくれたおかげかもな!」


 夏を通して2人も仲良しさんになったようだ。

 そして、そんな束の間の平和を楽しんでいた一行だが、ジョージが異変に気付き、アメリアが真剣な声で報告する。


「おい、ちょっと待て。この地にはびこるネッチョリしたゴミみたいな匂いが無くなってねえ。……それに、エイドリアンが使っていた能力からして、人とかワイバーンを操れるようなもんじゃなかった。

 もしかして、今回の悪さをしているフェドロ軍のボスは拠点を移動したか……?」


「……今しがた魔法の水晶で連絡が来たんですが、ここの近くのリーズン教会がフェドロ軍の手に堕ちたようです! しかも、助祭のディーン様が敵側に……!!」


「助祭クラスでも対抗できねえのか!」


 ジョージの眉間にシワが寄る。

 しかし、報告はそれだけではなかった。


「それに加えて、周辺地域のモンスターが邪悪なフェドロフェロモンによって次々にフェドロ軍の傘下に入り、今や数千を超える軍勢になっているようです!」


「今でも劣勢にゃのに、モンスターもそんにゃに増えたら……」


「……討伐隊にはフェドロフェロモンに対抗する手段がないのじゃ。モンスターだけならまだしも、フェドロ軍本隊に当たったら……」


「ダンロッソだけでなく、周辺地域は壊滅する。……俺の親父もタダじゃ済まねえだろうな」


 ジョージの目が真剣になる。


「……ジョージ様、ダンロッソに行かれますか?」


 ジョージのそんなすがたを見てアメリアが優しく尋ねる。一生会えないかもしれない。せめて後悔はしてほしくないという思いだった。

 しかし──


「ダンロッソはシンが守ると言っていた。確かに数千の軍勢を相手にはできないかもしれないが、それは俺が引き受ける! 本隊とともにな!」


 ジョージは型破りだった。フェドロ軍騎士団長バリッド・フェイターとその部下、そしてモンスター数千を相手取ろうとしているのだ。


「そ、そんな!?

 ジョージ様、ひとりでは無謀です!」


「そうじゃぞ! いくらジョージがすごいからって、そんな事をしたら……」


「やられちゃうよっ!」


 3人はジョージを引き留める。当然の反応だろう。それが普通だ。そう、普通ならば止めるべきだが、目の前にいるこの漢は()()()()()()


「……勘違いするんじゃねえ。特攻なんて考えちゃいねえよ

 正しきフェロモン使いとして、ヤツらの邪悪は許せるわけねえだろ。

 …………数千のモンスターがどうした、フェドロ軍がどうした、邪悪なフェロモンがどうした……?

 ──俺は、ジョージ・ハレムンティアだ!!!

 不可能はフェロモンでブッ通すっ! 勝ちに行くぞ!! 勝って胸張って親父に会いに行くんだァア!!」


 ジョージが咆哮した。そこに大地が呼応するように揺れる。

 3人はその姿に不安を全て吹き飛ばされてしまう。そして、()()()()()()()


「……ジョージ、うちも行かせてくれ!

 うちも胸を張ってジョージのお父さんに会いたいんじゃ!」


「あたしだって!」


「ジョージ様……私も、そのジョージ様の英雄譚に加えてください!」


「……ふんっ。お前らまで来たら、楽勝じゃねえか!

 まあいい……さっさとやっちまうか!!」


 ジョージ、エリン、イリーナ、アメリアは、バリッド率いるフェドロ軍との決戦の地へと赴くのであった。


 


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