第十八話 夏のフィナーレと夜の訪れ
意気消沈なみんなをよそに、ジョージは自信満々で沼地へ歩き出した。
「ま、待て! さすがのジョージといえど、その濃度の毒は無茶じゃ──!!」
今まで型破りだったジョージといえどこの濃度の毒は流石にタダでは済まないと、慌てて止めようとする。
しかし、ジョージにその言葉が届く前にジョージは沼に着き服も脱ぎはじめてしまう。
「……そんなっ」
幸い水着を中に着ていたのでそれは良かったが、それはともかく沼地に足を入れてしまうのを見たエリンが絶望したその時。
一同は、ジョージのフェロモンの底知れなさを目の当たりにするのだった──
──シュワ〜……!
ジョージが服を脱いでセクシーな肉体を晒したからか、あろうことか沼の微生物が照れて泥を抱えて底まで隠れてしまい、恋をした毒もジョージを害すまいと無毒化し、ときめいた蓮はその花を咲かせた。
ジョージの持つその芸術(肉体)は、生物など有機物だけでなく無機物すらも祝福するのだ。
ジョージというセクシービッグバンは、この星にとっての太陽なのかもしれない。
そんな太陽に照らされた毒の沼地は光堕ちし、瞬く間に聖なる泉に進化を遂げてしまうのだった。
「「「………………!」」」
エリンとアメリアとイリーナの3人は言葉を失い息を呑む。
理由はもちろん、その予想を超える型破りさにもだが、それ以上にジョージの姿に目を奪われていたからだ。
「……なんだ?」
ジョージが振り向く。
ただ、その1動作だけでも絵になる。
聖なる泉が淡い光を放ち、その光に照らされたジョージは、その完璧な肉体美も相まってまさに泉の女神……もとい、泉の男神という神々しさ。
神話の一幕を切り取った絵画の如くみんなの目を奪ったのだ。
鳥は祝福の歌を歌い、風は踊り、水はせせらぐ。光はジョージを包み込み、その他のことには一切目に入らない。そんな美しさだったのだ。
普段ジョージは厚着をしている理由がある。それは、薄着をしてしまうと老若男女問わずに魅了してしまう可能性があるからに他ならない。
3人はそんな事実を目の当たりにするのだった。
「みんなは入らないのか?」
セクシーな僧帽筋が曲線を描き、首を傾げる。
「え……? はっ。ああ、いえ……。元々毒の沼地でしたが、大丈夫ですか? ……ジョージ様はいつもこうやって?」
見惚れてしまった事実に驚きながらも。なんとかアメリアが口を開く。
エリンとイリーナはまだ見惚れている。
「ああ。フェロモンが助けてくれるんだ」
そう言いながらジョージが水浴びをする。
そんなジョージは、いつもはむさ苦しさすら感じるマッチョだが、水浴びをするとまるで水の精霊のごとく優雅で爽やか。水も滴る良いハンサムだった。
「初めて会った時は若干、半信半疑でしたが……どうやら、私の予想以上ですね」
そう言いながら、エリンとイリーナの方をゆすって正気を取り戻すアメリア。
「フッ……。俺のフェロモンは予想できるもんじゃねえ。俺の予想すら超えてくるんだ。だがそれが良い。俺は更なる高みを目指していく。日々成長し──」
天に指を差す。
「高くまで昇り詰める、太陽をみたいにな!」
「よく分かりませんが、自分の実力に驕らず鍛錬しているということですね」
そう話していると、ようやくエリンとアメリアが正気を取り戻した。
「きゃ〜! ジョージ、腰に入った筋肉のラインがセクシーじゃ〜♡」
「ジョージくん〜! 山みたいにゃ大胸筋も、ステキだよ〜!」
正気……ではなかったが、話せる程度には回復していた。
「この大きな手と腕が、うちをお姫様にしてくれたんじゃな……♡」
エリンがショージの腕を触れながら目をハートにする。どうやらお姫様抱っこをしてくれたことを思い出しているようだ。
「そうだ、この腕はいつでもエリンをプリンセスにする。……それより、水浴び最高だぞ。エリンは入らないのか?」
水は程よく冷たくて、暑い夏の熱を冷ましてくれる。
「で、でも……ここはお外じゃし……水着はあるけど、ジョージ以外にうちのセクシーなボディは見せたくない……というか」
「そうだよ、ジョージくん。あたしはエリン先輩ほどグラマラスじゃにゃいけど、この自慢の太ももを見せるならジョージくんかハーレムのみんなだけが良いよぉ」
エリンに続き、イリーナも難色を示す。
そして、それに乗じてアメリアもジョージに言った。
「私は……最近お腹がぷにっとしてるので、遠慮しておきます。水は気持ちよさそうなんですけどね……」
その言葉を聞いた瞬間、ジョージの顔が明るくなった。
「つまり、みんなは身体を見られるのがイヤなだけなんだな?」
ジョージの意図は分からないものの、3人は一様に肯定した。そして、泉の男神ことジョージが天啓を与える。
「ふんっ!!!」
ジョージが輝かしいフェロモンを放出。一帯を包み込む。
「こ、これは!?」
誰が言ったか、その事態に驚いた声を出す。
それもそのはず。
フェロモンを受けた動物も虫も微生物も植物も、この大自然すらも全て、その視線は魅力解放したジョージに注がれていた。
「この太陽の光を浴びて、その視線を独り占めにしている太陽を見て閃いたんだ」
魅力解放したジョージはもはや太陽神。
太陽への意識も奪うほどの注目度合いだ。オーディエンスは最高潮。もうジョージ以外見えない。(アメリアは理性を司るリーズン教の聖女のため正常だが)
「フェロモンパワーが上昇した瞬間、視線が……この地のエネルギーや意識がジョージ様に注がれはじめた……!?」
アメリアが状況を理解する。
「そうだ。このチカラはフェロモンの力を凄まじく上げるのと同時に、注目を全て受ける。つまり、誰が来ようと俺だけを見て、みんなを見ることはない」
「え……?」
アメリアが自分の異変に気がつく。
「──私の身体に……モザイクがかかってます!!?」
そう、意識を奪われたために、否応なしにジョージに集中してしまうがために、自分を含めて他のものが全てモザイクがかかったように見えなくなっているのだった。
「──つまり、ジョージだけにうちのセクシーを見せられるんじゃな?!」
ようやく本当に正気になったエリンが喜ぶ。
「さすがジョージくんっ。あたしも、お気に入りの水着着ちゃうにゃ!」
同じくイリーナが嬉しくてぴょんぴょん跳ねる。
「……役者は揃ったな。じゃあ、最高の水浴びをするぜっっ!!!」
こうして無事、ジョージ一行は水浴びをして涼を楽しんだのだった。
* * * * *
夏のアツい太陽のスポットライトに照らされて、この町リズンバークは沸いていた。
スポットライトの中心はもちろんジョージ。そしてハーレムのみんな。
「ヘイ! 踊り出せ!」
ジョージの掛け声でハーレムの皆さんが踊り出す。
この夏で3桁を優に超える数となったジョージハーレムは、既に町の人気者だ。泣く子も笑うその人気者たちは、この夏……リズンバークで特大イベントを開催した。
── SUN場サンバ! 太陽とジョージと夏のダンシングフェスティバル☀︎
町は出店とフェスティバルを楽しむ人、そして観光客で大賑わいだ。
「う〜! ふー!!」
太陽をモチーフにした羽のついたサンバ衣装に身を包み、ジョージは町の中心で魂を震わせる。
ジョージのダンスに魅了されてハーレムもうなぎのぼり、オーディエンスもダンサーに加わっていく。
「私たちも踊りましょう!」
「そうだな、俺も踊りたい!」
「まま、わたしもおどる!」
老若男女、生まれも育ちも種族も関係なく来るもの拒まず。
太陽もジョージもサンバもフェスティバルも、楽しみたい者の味方だ。
「最高だぜぃ!」
解き放たれしジョージは光陰矢の如し、ゴーイングマイウェイ、、とどまることを知らない真夏の太陽。
空の太陽と地上のジョージ。ふたつの太陽というバンズにはさまれたリズンバークの住民は、そのアツさにのぼせてハーレムという名のパティの仲間入り。
灼熱のハンバーガーの一丁上がりだ。
──轟く夏のオーディエンス 〜この季節は忘れられない宝物になる〜
「ジョージくん、あたしも踊るよ〜!」
「うちも忘れないでほしいぞ! ジョージ、隣でダンスじゃ」
「プルッル!」
イリーナは猫の獣人の脚力を活かした力強いステップ、エリンはそのセクシーダイナマイトボディーで蠱惑的に、ぷるちはスライムのゼリー状の身体を活かして清涼感を出し、ジョージに負けじと場を盛り上げる。
「アツい、アツいぜみんなーっ!!」
夏は楽しむ者の味方だ!
──プレシャスオブマイハート……スペシャルサンクス:太陽&YOU⭐︎
● ● ●
太陽が傾いてその色を濃くし、フェスティバルの終わりが近づいた頃。
ジョージはビーチパラソルのもとで涼むサングラスをかけた赤髪の女性に近付く。
「ウィジー、お前は踊らなくて良かったのか?」
トロピカルジュースを飲みながらウィステリアの隣に座る。
「ええ。わたくしは貴族として無闇に素肌を晒すわけにはいきませんもの。それに……」
ウィステリアはサングラスをズラしてジョージの顔を見る。
「それに?」
「それに……わたくしは正妻として、ジョージのお姿をこの目に焼き付けたかったんですの」
ウィステリアが頬を染める。
「……ったく、ウィジーは俺に夢中だな」
ジョージがフッと笑う。
「そうですわ。貴方と初めて出会った日、最初はなんて野蛮な人だと思いましたが……」
ウィステリアが懐かしむように目を細めながら言う。
「野蛮って酷い言い様だな。そう言えば、遺跡のトラップに引っかかり、2人きりで閉じ込められた時だったな」
ジョージはウィステリアの指にはまるダイヤの指輪を見る。
「ええ。お腹が空いた時におにぎりをくれたのですわ」
ダイヤを撫でるウィステリア。
「懐かしいぜ。ウィジーにおにぎりを渡すときに、ちょうどクシャミが出ちまったんだよな」
「そうそう。それで、握ったまま力を込めてしまったばかりに、おにぎりは潰れて凝縮しちゃいましたのよね」
「……それで、圧力がかけられた結果。このダイヤになった」
「はい。今は右手に付けていますが、いずれその時が来たら……改めて左手に付け直してくださいませ」
ウィステリアが上目遣いで少し恥ずかしそうにお願いする。
「ああ……もちろんだ。思い出のおにぎりダイヤで、俺からプロポーズするからな」
「はい……! お待ちしておりますわっ」
そんな甘い時間を過ごす2人のもとに、真剣な面持ちで近付く影があった。
「おい、ジョージ・ハレムンティア! こんな所で遊んでる場合じゃない」
それは、植林の時に会った情報を知ってそうな雰囲気を出していた、紫髪のハンサムボーイこと……シンだった。
今日はくたびれたオーバーオールではなく、サンバ衣装を着ている。ちゃっかりフェスティバルに参加していたようだ。
彼の普段の衣装はどんなものなんだろうか?
「……シンか。良い雰囲気の状況に首を突っ込むってことは、それなりの理由があるんだよな?」
ジョージが横目で見る。
「……今年の夏は今年しか来ない。手を抜けないし、ジョージ・ハレムンティアが夏にダイレクトでいたい気持ちはわかる。僕もだからな……しかし」
シンがさらに神妙な面持ちで語る。
「フェドロ軍がリーズン信者を捕まえている。そして、リーズン教会が手を出せないからと増長し、周辺地域から略奪や不当な搾取をしているとあれば、僕も黙っていられない。
しかも、フェドロ王国国内ではなく、国境ギリギリとは言えリズンバーク国内なんだ」
「この国に侵略してきてるのか」
まだアメリアから話は聞いていないが、本当だとしたらもうすぐ報告に来るだろう。
「……それで、その地域はどのあたりなのかしら?」
話を聞いていたウィステリアが聞く。
ウィステリアが住んでいる田舎は、フェドロ王国ではあるが国境付近。万が一があるかもしれないのだ。
「ダンロッソだ。とは言え、村そのものじゃなくて洞窟を拠点にしているようだけどね。今も勢力を伸ばしてる」
「ダンロッソ……」
ウィステリアの田舎とは少し距離がある村だ。しかし、勢力を伸ばしていると言うことは被害が出ないとも限らない。
「一度わたくしは帰ってご近所さんを守りますわ!」
ウィステリア不安そうな顔で立ち上がりジョージに言った。
「俺はダンロッソに行かなければならないな」
3人が話していると、慌てた様子でアメリアが走ってきた。
「ジョージ様〜!」
「アメリア、確認したいことが──」
ジョージの言葉を聞く前に、息を切らせながらアメリアがこう言った。
「ジョージ様のお父様だと思われる方の居場所を突き止めました!」
「な、なにぃ!?」
ジョージが目を見開く。
「リーズン教会総出で探しましたからね」
「それで、親父はどこに……?」
フェドロ軍も重要だが、ひとまずこれを聞かないと話が入ってこない。
ジョージは次のアメリアの言葉を待つ。アメリアが息を整えているその時間が無限のように長く感じた。
幼い頃、顔も忘れてしまうような小さい頃に別れてから、ようやく再会できるかもしれないのだ。
父と離れて元気をなくした母に、ふたたび屈託のない笑顔を届けられるかもしれない。
なぜ家族の元から離れたのか、母ですら知らないその理由を……ようやく知ることができるかもしれない。
ジョージは、アメリアの言葉に耳を傾けた。そして、アメリアが言葉を発する。
「お父様らしき方の居場所、それは……ダンロッソです!」




