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20話 イーリスと状況の整理

「整理しましょうか。」


 そういって昼食に使った椅子に座って、イーリスは改めて一同に向き直った。

 ブランズの謝罪は、状況がまだわかっていないので受け取れませんというリーンの一言で一旦保留になり、相変わらずブランズは簀巻きにされたままだったが、構わず続けられた。


「ふたりは奇妙な夢をみて、目が覚めた時に自分の中にある別の魔法の存在を知覚した。それはいつからでしょうか。」


「わたしは、今朝から。」

「俺もだ。」


 なるほど、と一言。


「それは白い光と黒い光が中空でぶつかり弾け、その欠片の一部が自分に入っていくような夢だった。」


 確かめるようにイーリスとリーンが目を合わせる。

 ブランズも頷き、肯定する。


「リーンはその中でさらに恐ろしい存在を見たようですが、ブランズ先輩は?」


 言われて思い出すように、ブランズは目を瞑った。


「ああ、確かに。光がぶつかったその中点で、なにか恐ろしいものを見た。そういう夢だった。」


 相違ない様子で、確かめるようにイーリスはひとつ頷く。


「ブランズ先輩は魔術師でしたが、夢のあとに光の魔装を知覚した。元の魔術は変わらず使えますか?」

「使える。授業でも違和感なくね。」

「リーンは召還術以外には?」

「ないわ。私は元々あった小妖精とのつながりが無くなって、シンの召還紋が浮かんでいた。」


 良いながら、リーンがその右手に浮かぶ紋を見えるように腕をイーリスに見せる。

 シンはそこで、自分も袖を捲って右腕を見た。

 同じように紋章が浮かんでいて、これが召還紋と呼ばれるものと知る。


「なんか、さっき見た時よりも濃くなってない?」


 シンが自分の召還紋を見て、思わず声を上げてイーリスに見えるようにする。

 たしかにそれは、うっすらとしたものからはっきりと形を成しているように見えた。


「たしかに。シン、その紋章が浮かんだのはいつ?」

「わかんねえ。こっちに来た時に初めて見たし、向こうではこの入れ墨みたいなものに覚えがない。」


 落ちるのか確かめているのか、シンは自分の右腕を左腕で擦るがそれははっきりと跡を残しており消える様子はない。


「ブランズ先輩。どうしてリーンが闇属性だと?」

「……俺は感覚で普通の魔法使いと、失伝属性の魔法使いがわかるみたいだ。」


 闇の魔法使い、と言葉にしなかったのは打ち倒されたブランズの配慮だ。

 この場にいる誰もがリーンを魔王になる存在だと思っていないので、ブランズはそれに一度従うことにした。


「なるほど。火の魔術師が、温度で密室にいる人数を把握するようなものですか。」

「そうだな、そういう感覚に似ている。言葉にしづらいが、近いとか遠いとか、なんとなく方向がわかる。」


 興味深そうに二度頷き、それでか。と零す。


「リーンは、その感覚はある?」

「……ううん、全然わかんない。」


 ふるふると首を振り、残念そうにリーンが言う。


「能力に個人差があること、魔術ではなく魔装や召喚に発現していること。属性魔術はあるのかな。」


 ぶつぶつと声に出して、イーリスはその場にいる人間にも整理ができるように零す。


「ねえ。預言は……関係、あるのかな。わたし、魔王なのかな……。」


 思いつめた表情で、勇気を振り絞ってリーンはイーリスに尋ねた。

 それは最初に考え、それでも夢の中で見た恐ろしい存在が魔王に違いないと消したものだった。

 リーンだって自分が闇の魔法を使えるようになる前は、魔王は闇の魔術属性を極めたヒューマンのことだと思っていた。


 その不安が頭をもたげて、リーンの心を苛んでいるのだ。


「それはないよ。」


 否定は力強いものだった。

 イーリスはリーンを見つめる。青色の瞳と紫の瞳が見つめ合う。


「あくまで属性のひとつだ。リーンも、夢の中で見た恐ろしい存在が魔王だって言ってたじゃないか。」


 相変わらず淡々と、それが事実だというように力強く言い聞かせている。

 リーンは泣きはらした目で、しかし嬉しそうにイーリスに礼を言う。


「さて。この場では結論が出ませんので、状況を追いましょう。ブランズ先輩は……。」

「衛兵に引き渡すのかな。」


 あきらめたような口調でブランズが零し、リーンはそれを聞いてイーリスの袖をつかんだ。


「まって、その……。ブランズ先輩は、正義感からこういうことをしたんだと思う。……国を守ろうとしたんだと、思うの。シンもたくさん蹴られて、すごく痛かったと思うんだけど……。」


 誰よりも怖がりながら、リーンはそれでも言った。


「許してあげられないかな……。その、シンの怪我は私が治すから……。」


 俯きがちに、許そうというのだ。

 イーリスは黙ってシンを見る。

 シンは長くため息をついて、頭をガシガシと乱暴に掻く。


「リーンが許すんだったら、俺から何かいう事はないよ。イーリスはどう?」

「そう、ふたりが良いならそれでいいと思うよ。」


 言って、イーリスが目配せするとアイシャがブランズの縄を解き始める。

 ブランズは呆然と、それを聞いて信じられないことを来たように目を見開く。


「待ってくれ。俺はふたりに危害を加えたんだぞ。」

「ああ、めちゃくちゃ痛かったよ!」


 シンがそれに答える。


「無抵抗なリーンに手を上げようとしたことは、正直許せない。けどあんたは、最初から殺すつもりだったらそれができた。そうしないで、あくまで無力化を狙っていた。……俺だってそれくらいわかる。」


 めちゃくちゃ痛かったけどな! と恨みがましく伝えて、フンっと息を吐く。

 イーリスはそれを聞きながら、若干口元を綻ばせて人が気付かない程度の微笑みを浮かべた。


「それに、もしまたリーンを襲うようなら、僕が相手になりますよ。」


 その時は覚悟してくださいね。

 ゆっくりと、相変わらず平坦に伝えられたそれに、ブランズは思わず身震いした。

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