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17話 イーリスと光の魔装士

 まばゆい光があたりを包み、怯んだ二人が目を開けると、そこにはすでに到着していたイーリスと、それを抱えながら走ったアイシャがいた。

 気遣わし気にリーンに声を掛け、無事を確認している。

 ただのメイドにしか見えないアイシャは、肩で息をついているがそれでも人一人を抱えて走ったことは驚愕に値する。


 一瞬呆けたが、さっきの光はイーリスが何かをしたのだと考えが至ったのは、その場にいた全員が同時だった。

 呆けた隙を突くように再びシンがブランズに迫るが、それも難なく止められて再びに蹴り払われ、地面を転がる。

 がくがくと震えながらシンは立ち上がろうとするが、再び思うように手足が動いていないようだ。

 ようやく立ち上がることが無くなり、しかし眼光だけは鋭くブランズを睨みつけている。


「なにがあったんでしょうか。」


 静かにイーリスはたずねた。

 リーンは震えながら言葉をなくしているし、シンは全身に怪我を負いながらブランズを睨みつけている。


「今朝の約束を失念していた、すまない。」


 ブランズはまず、自身の過失を詫びた。


「聞きたかったことと状況が丁度結びつくんだ。失われた属性の事なんだけど。」

「はい、光と闇の魔法ですよね。」

「そう、それについてだ。」


 言いながら、イーリスに見えやすいようにその具足を上げた。


「光の魔法は、魔術じゃなくて魔装だった。なんてことがあるのかなって。」

「なるほど。興味深い話ですね。」


 イーリスの様子はあまり興味を持っているようには感じず、ブランズは苦笑した。


「これを聞いているのにあまり動じているようには思えないんだけど、それはリーンさんが闇の魔法使いだからかな。」


 すでに聞いている内容だったかな、と笑みを浮かべながらブランズ。

 それには答えずに、イーリスはアイシャにリーンの近くにいるように伝える。


「カプリコーン。君も預言のことは知っているよね。」


 諭すようにブランズが続ける。


「この国に脅威が訪れようとしている。それは魔王の再臨なんてばかばかしい話だったんだけど、こうして闇の魔法と光の魔法は蘇った。」

「そうですか。」


 イーリスは興味がなさそうに相槌を打った。


「リーンさんは闇の魔法使いだ。」

「それが、どうかしましたか?」

「魔王の存在をカプリコーンも知っているだろう?」


 イーリスが短く肯定を返すと、頷きながらブランズは続ける。


「やがて来る脅威なら、早いうちにその芽を摘む必要がある。そう思わない?」

「そうですね、脅威は早めに摘むべきだと思います。」

「それならリーンさんを引き渡してくれないかな。」


 リーンとブランズの間に割って立つようにしているイーリスに、そう声を掛ける。

 この後輩は誤解しているんだ。

 傍目には弱い者いじめに見えたかもしれないこれは、大儀がある行いなのだ。

 そう信じているブランズは、いっそ憐れむようにイーリスに目を向けている。その厚い友情を目の当たりにし、尊いものを護りたい思いは一緒だと信じている。

 イーリスは相変わらず無感情な表情で、淡々としたものだ。


「なるほど。先輩、状況から自己陶酔が過ぎていますね。暴論ですし根拠が欠如しているように思えます。」


 そんなことを言いながら、イーリスはズボンの後ろポケットから薄緑色のハンカチーフを取り出した。


「光の魔法も闇の魔法も、ただの属性にすぎません。魔王だとか勇者だとか、そんな噂を信じているとは思いませんでした。」

「特別じゃないとでも?」


 驚いたようにブランズが言葉を返す。


「多少珍しいですが、それだけです。」


 取り出したハンカチーフを広げて、ひらりひらりと風に遊ばせている。

 右手に長い杖、左手にハンカチーフを持ち、言葉を続ける。


「冷静になりましょう。それと、リーンとシンに謝りましょう。大層なことを言いながらあなたがしていることは、到底看過できることではありませんよ。」


 ふむ、と顎に手を当ててブランズは息をひとつ零す。


「リーンから聞いたのですが、ブランズ先輩も夢を見たのですか?」

「ああ、リーンさんも同じなのかな。夢を見たよ。俺が見たものと一緒だとしたら内容は伝える必要がないかな。」

「リーンが言っていたのは、白い光と黒い光が砕けて、いくつかの破片になったもののひとつが自分に降ってきたというものでした。」

「うん。どうやら同じ夢のようだ。」

「それならその属性は複数あるでしょうし、あなただけの特別ということでもない気がします。」


 ひらひらとイーリスの手に持っているハンカチーフが風に揺れている。


「他属性の覚醒。珍しい事ではありますが、失伝した属性は通常の魔術5属性と異なる性質があったといいます。」

「この力はあくまで偶然で、闇の魔法は魔王を示唆しているものではないと言いたいんだろうか。」

「はい、そうです。」

「それに根拠はあるのかな。」

「いえ、仮説です。ただ先輩の主張もあくまで仮説の域を出ません。もし偶然、闇の属性が覚醒した場合はあなたは魔王になるのでしょうか。」

「それは考えられない。現に俺には光の魔装が宿った。」

「この偶然の現象に、意味を感じる必要はないと思います。」


 冷静な物言いだった。イーリスは対話を求め、ブランズも一考の価値を感じながら他の可能性が頭を過っている。


「もしかして、君も?」


 それが何を指しているのかはわからなかったが、イーリスはなにも返さずにただじっとブランズを見つめた。


「思い過ごしなら構わない。話は制圧してからにしよう。少し寝ていてもらうよ。」


 ブランズが言って、イーリスがハンカチをつまんだ左手を振るのは同時だった。


 直後、状況を見ていたリーンの目には、なにが起こったのか理解ができなかった。

 ハンカチを振るったイーリス。

 棒立ちのその横を、地面を抉るようにして通り過ぎたブランズは呆然と立ち上がってイーリスを見ている。


「な、なにが……。」


 土を被りながら驚いたような様子のブランズが発した声が、リーンの思いでもあった。

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