13話 イーリスと倒れた木の跡
大きな音を立てて木をへし折ったシンと、驚きのあまり立ち上がることもできないリーンがお互いに落ち着きを取り戻したのはイーリスとアイシャがバスケットを持って広場の木陰に着いてからだった。
それまではお互いにおっかなびっくりと、ある種の興奮を覚えてポツリポツリと話をしていたのが、イーリスが離れた場所にある若木の倒木の理由を尋ねてからはとめどなく言葉が溢れた。
シンがいう異世界チートだとかいう言葉はイーリスにはわかりづらいものだったが、リーンが興奮気味に話す異常な身体能力とその前に行った魔力の付与でこういった事態になったと知る。
「元居た世界では、そんなに力が強いわけじゃなかったんだね。」
「こんなのオリンピック選手にだってできないって! あ、トップの競技者っていうか、とにかく俺みたいな学生には絶対無理! っていうか、人間業じゃないって!」
「すごい速さだったの! もう、ぴゅんって! ねえ、イーリス、私の召還でこんなにすごいヒューマン呼んじゃったの!」
どうどう、と二人を宥めながらイーリスが思案する。
リーンは特別魔力が多いわけではなかったはずだ。
午前に行った召喚でほとんどの魔力を使ったと話していたし、その様子だった。
そんなリーンに残った魔力を分け与えただけで、一線を越えるような強化を行えるのだろうか。
イーリスの脳裏に闇の魔力という言葉がよぎる。
もはや疑う余地もないほど、それは今朝のリーンの話を裏付けていた。
「まずはご飯でも食べながら落ち着こう。充足を知って魔力も満ちる、だよ。」
言いながらアイシャが用意した簡易の椅子を二人に勧め、自分は離れた個所の若木を調べてみる。
木は根元が浮き上がり、根が一部表出してぶつかった個所であろう中腹でへし折られていた。
ものすごい力が加えられたことは見てわかる。
走る動作からか、とっさに庇った腕がぶつかったのだろうそこは、騎士の一撃にも負けないような威力を感じさせる。
「これは凄いな。単純に暴力だけなら、僕もリーンも簡単に組み伏せられてしまうんだろうね。」
危機感を感じさせないような平坦な声でつぶやく。
ちっともそう思っていないようで、もしくはどこか投げやりな感じで。
「イーリス様。お二人ともお待ちですよ。」
いつの間にか傍まで来ていたアイシャがイーリスに声をかけるまでイーリスは倒れた木の幹を眺めていた。
「ああ、今行くよ。」
しばらくすると満足したのか、二人の待つ木陰まで行くとアイシャが用意した簡易椅子に座り、テーブルに並べられた食事を摂りながら会話に混ざるのだった。




