日本國 6、
久保首相は、重々しい空気の中で城山風軍大将と稲川地軍大将を退出させた。残された遠藤大臣に向き直ると、低い声で言った。
「内閣を招集しようと思うのだが、どうだろうか?」
遠藤大臣は、わずかに眉をひそめながら答えた。「異次元の彼らを、本当に信用できるのでしょうか?」
久保首相は、遠い目をして答えた。
「しばらく様子を見たいのは山々だが、悠長なことを言っていられる状況ではないのだろう?」
「国家情報院の報告によれば、英吉利と仏蘭西は既に侵攻の準備をほぼ完了しており、出発は間近に迫っているとのことです。独逸と露西亜は準備に遅れが見られるものの、その侵攻意欲は強く、準備を急がせていると。亜米利加は静観の構えですが、いざという時には、短期間で軍を派遣できる態勢を整えているようです」
久保首相は、大臣の報告に深く頷き、
「内閣でこの状況を詳細に説明し、徹底的に討議しよう。これは、国家存亡の危機だよ、君」
と、語気を強めて言った。
直ちに内閣が招集された。各閣僚の顔には、緊張の色が濃く浮かんでいた。
「国家存亡の危機である」という認識は、瞬く間に全員の共通理解となった。しかし、異次元からの者を安易に受け入れることには、強い反対意見が相次いだ。「出自も目的も不明な者たちを、軽々と信用することはできない」という声が、会議室に重く響いた。
そのような状況の中、久保首相は静かに口を開いた。
「彼らを無人島に移住させ、半ば人質のような形にしておけば、それほど心配はないのではないか?」
首相の提案に対し、賛成と反対の意見は拮抗した。また、議論の中で、ある閣僚が「彼らが話した『四石』は、七神石のうちの四つではないか?」と発言すると、他の閣僚からも同様の声が上がり、会議室は一瞬静まり返った。
長い時間にわたり激しい議論のあと、久保首相は重い口を開き、討議の結果をまとめた。
「今後の情勢は予断を許さず、いつ非常事態宣言を発令するかわからない。各省庁は、いかなる事態にも迅速に対応できるよう、直ちに準備を開始するように。異次元から来た二名については、しばらくの間、厳重に観察し、その動向を注視する。移住に関する再検討は、その後に行うこととする。そして、『四石』については、彼らに改めて詳細な情報を求めることとする」
内閣の討議を終えた首相は、間髪入れずに国家安全保障会議を招集した。
会議の議題は、主に英吉利、仏蘭西、独逸、露西亜、亜米利加の軍事的動向と、それに対する今後の具体的な対応策についてであった。
久保首相は、まず外交努力を最大限に行い、武力衝突は可能な限り回避する方針を明確にした。その上で、「しかし、それだけに頼るわけにはいかない」と続け、複数の策を同時に講じる必要性を強調した。その策とは、英吉利と仏蘭西の間の歴史的な対立感情を巧妙に利用し、両国の関係を悪化させること。独逸に対しては、その矛先を仏蘭西に向けるよう、裏工作を行うこと。そして、亜米利加に対しては、露西亜が将来的に太平洋への進出を目論んでおり、それは亜米利加の国益を損なうと示唆する情報を提供することであった。
会議終了後、首相は遠藤大臣を再び執務室に呼び、林田と中村、二人の異次元からの来訪者に対する今後の対応について、具体的な指示を与えた。
「国家安全保障省は、現在多忙を極めていると思うが、あの二人の監視と保護を、くれぐれも頼む」
遠藤大臣は、背筋を伸ばし、力強く答えた。
「承知いたしました」