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日本國 5、

 林田は、再び久保首相、遠藤大臣、城山風軍大将、稲川地軍大将の四人が待つ部屋へと案内された。重厚な扉が開かれ、昨日と同じように、部屋の中央に据えられた木製の椅子へと促される。林田は、無言で腰を下ろした。


  林田が会話の糸口を探るよりも早く、遠藤大臣が重い空気を切り裂くように口を開いた。

「 昨日の協議の結果をお伝えします。我々四人で検討を重ねた結果、貴殿らの世界への酸素供給は現在の状況下では困難であるという結論に至りました。 各省庁の大臣たちへの説明 、そして何よりも主上への上奏は容易ではありません。国民の理解を得るにも多くの時間を要するでしょう。しかし、代替の提案がございます」


「提案、ですか?」

 林田は、眉をわずかに 動かし尋ねた。


「貴殿らのこの国への移住は可能でしょうか?もし可能であるならば、移住する人数はどのくらいでしょうか。貴殿らは強化人間であると伺っておりますが、戦闘能力を有する者の数は何名ほどでしょうか。移住先としては、無人島となっている場所を考えておりますが、それでよろしいでしょうか?」


 林田は、予想だにしていなかった展開に、内心で小さく息を呑んだ。酸素の供給が難しいのは理解できるが、移住の話が出たのが驚きだった。ましてや、戦闘という言葉が、この国の重鎮たちの口から発せられるとは。

「戦闘、ですか?一体、誰と、何のために戦うというのですか?あなた方には強固な軍隊があり、それなりの戦闘能力を有しているのではないのですか」

 林田は訝しげな声音だ。


「何のために戦うのか。それは、この国を侵略者から守るためです」

 遠藤大臣は重い表情で言った。

「そして、想定される侵略者の戦力は極めて高く、現在の我々の軍の力だけでは、完全に守りきれるかどうか、深刻な懸念を抱いているのです」


「それで、その侵略者とは?」

 林田は、相手の言葉の重さに、注意深く耳を傾けた。


 遠藤大臣は、 重い目線を久保首相、城山風軍大将、稲川地軍大将へとゆっくりと走らせた。三人とも、 無言でしかし確固たる意志を示すように頷いた。


「想定される侵略者は、欧羅巴諸国です。中でも、英吉利(イギリス)仏蘭西(フランス)の動きが活発であり、続いて独逸(ドイツ)露西亜(ロシア)の動向も気がかりです。亜米利加(アメリカ)は、それぞれの動きを注意深く注視しており、漁夫の利を得ようとしているとの報告もあります」

 遠藤大臣は、低い声で重々しく告げた。


「イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカ……中には、私たちの世界ではかつての友好国もある」

 林田は小さく呟いた。


「それは、貴殿らの世界の事でしょう」

 遠藤大臣の冷たい声が、林田の言葉を遮った。


「確かにそうですが、次元が異なるとはいえ、関係性を考えると容易に戦闘に踏み切るのは躊躇われます。そもそも、戦闘となるならば、味方の戦闘能力や、敵の戦力についても詳しく知りたいのですが」

 林田は、慎重に言葉を選びながら、核心に迫った。


「林田さんがこの件について前向きにお考えであるならば、詳細をお話しいたします。その代わり、貴殿らの、強化人間の戦闘能力についても教えていただきたい」

 遠藤大臣の声は探りを入れる感じだった。


 しばらくの間、部屋には重い沈黙が天井から降り注ぐように漂った。それぞれの思惑が交錯し、空気は目に見えない圧力で満ちているようだった。


 林田自身は、次元が違う以上、かつての友好国が相手であっても、 この世界を守るためならば戦えるだろうと考えていた。しかし、他の仲間たちがどう考えるかはわからない。 元の世界に戻って、皆と協議する必要があるだろう、と考えながら重い口を開いた。

「私たちの世界では、既に国家という概念は無くなりつつあります。しかし、歴史的に遡れば国家は存在しましたし、欧米に端を発する者も、 今は共に生活する仲間たちです。ですから、欧米を敵として戦えるかどうか、この場では断言できません。したがって、元の世界に戻って、皆と協議する必要があります」


「どのくらいの期間が必要でしょうか」

 久保首相の声には焦燥感がにじみ出ていた。


「私たちの将来に関わる非常に重要な事柄ですので、二、三日では難しいと思います。一週間、一週間後に、改めて状況をご報告に参ります」

 林田は、相手の目をしっかりと見据えながら告げた。


 久保首相は重い表情を僅かに和らげ、 頷き、

「良い報告を期待して、お待ちしております」

と、答えた。


「戻る前に、この国のことについて、いくつか教えていただきたい。元の世界に戻って皆と話をする際に、説明を求められるでしょうから」

 林田は、畳み掛けるように言った。


「どのような内容にご関心がおありですか?」

 遠藤大臣が事務的な口調で尋ねた。


「地理、歴史、政治、経済、国防、そして国民の生活状況など、できる限り広い範囲にわたって知りたいと考えています」


「後ほど、この件に最も適した者をあなたの元へ派遣し、詳細な説明をさせましょう」

と、久保首相が穏やかに答えた。




 

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