日本國 3、
林田と中村の体は、まるで柔らかな風の手に包まれるように、空中を運ばれていた。
眼下には、濃緑の森が絨毯のように広がり、青色や緑色に輝く蛇のような川や、 田畑、 青い 池が見えた。
かつてアークの一員として訪れた、四石を追いかけた世界の自然と比べると、この世界の緑は遥かに濃厚で、豊かに見える、と林田は感慨に浸った。(次元転送装置で、この世界の豊かな酸素を転送するよりも、むしろ、自分たちがこの世界に移住してしまう方がベストな選択かもしれない……)そんな考えが頭をよぎった時、視界の先に街が現れ始め、彼らの高度はゆっくりと下がっていった。
街並みを見下ろすと、ほとんどが、 平屋か二階建て。時折、 三階建ての建物が見える程度だった。
街の中心と思しき場所に、周囲の建物とは一線を画す、広大な敷地を持つ建物があった。その中庭には、整然と整列する百人ほどの兵士たちの姿が見え、風に運ばれた林田と中村は、その中庭へと着地した。
地上に着くと風軍第三大隊治安部隊の石田が、待機していた大隊のトップ、富山中将の元へと歩み寄った。
石田は敬礼とともに、林田たちを無事に連れてきたことを報告した。
富山中将は答礼で応じ、「ご苦労だった。後は、私が責任を持って対応する」と言った。
富山中将は、 ゆっくりとした足取りで林田と中村のもとへと歩み寄り、丁寧な自己紹介を行った。
「石田君からの報告は聞いている。貴殿らの話の内容に閣下が関心を示され、ぜひ直接お会いして話を聞きたいとのことだ。ご都合はいかがだろうか?」富山中将の 声音は威厳を帯びていた。
林田は「了解した」と答えた。
「では、早速ご案内しよう」富山中将はそう言うと、二人を促した。
周囲を、精鋭と思われる兵士たちが囲みながら、林田と中村は富山中将に先導された。
彼らは長い廊下を歩いた。その廊下の壁には絵画や書が飾られていた。
彼らは廊下を歩いた。そして、一つのドアの前で、富山中将は立ち止まった。「貴殿は、こちらでお待ちください」彼はそう言い、ドアを開けて中村だけを中に促した。
(やはり、自分たち二人を分けるつもりか)と林田は思った。
林田は、富山中将に導かれ、廊下を更に奥の方に案内され、角を曲がり、更に奥まで進んだ。そして、突き当りに大きなドアがあり、富山中将がドアを開け、林田を中に招き入れた。
広々とした室内には、4人の人物が張りつめた空気の中で待っていた。日本國の首相、国家安全保障省大臣、そして、風軍大将と地軍大将の4人だった。
林田は、一人ずつ紹介を受けた。(いきなり、この国の最重要人物たちと対面するとは……一体、彼らは何に興味を持っているのだろうか?そして、この4人全員から、何らかのオーラを感じる。特に、国家安全保障大臣のそれは強く感じる)林田は、 大きく息を吸い込み、 神経を集中させた。
首相は、穏やかながらも威厳のある声で口を開いた。「 富山中将から概要は聞いているが、貴殿から直接話を聞きたいと思いはるばるお越しいただいた。どうぞ腰掛けていただきたい」首相は向かいに置かれた重厚な木製の椅子を指さした。