暗殺 3、
中村は左肩甲骨を撃たれていたため、右手で首相を抱え、燃え盛る炎から逃れて建物の反対側から外に出た。
十メートルほど先に、二人の男が立っていた。彼らは、こちらに右の掌を見せた。次の瞬間、風刃を連続で放つ。それは風の小刀のようだった。中村は、負傷しているにもかかわらず、巧みに身をかわして首相を守る。だが、素早い反撃に出ることはできずにいた。
その時、林田が駆けつけた。
林田は、風の一族の男の左横から入り込み、一人を掌で弾き飛ばした。もう一人にはローキックを放つ。鈍い音がして、男の足が膝からありえない方向に曲がり、悲鳴をあげて倒れた。林田は、倒れた男を抱え上げ、頭から地面に落として気絶させた後、弾き飛ばした方に向かって駆け出した。
弾き飛ばされた男は、よろよろと立ち上がり、首相めがけて再び攻撃態勢をとろうとしていた。そこに林田が猛スピードで移動し、男の左腕をねじ上げ、反対向きにさせると、そのまま後ろから引き倒す。男は脳震盪を起こし、気絶した。
渡辺少佐は四人の兵士を引き連れて、火災現場を迂回し、火災の反対側へと駆けつけた。そこには、無事な首相と、林田、中村がいた。
「首相、お怪我はありませんか?」
渡辺少佐が尋ねた。
「大丈夫だ、怪我はない。それより彼が私を守って負傷した」
首相は、中村の肩甲骨を指差しながら言った。
「心配しないでください。そのうち銃弾は出てきますし、傷もすぐに良くなりますから」
中村が微笑みながら言う。
「このままにはしておけない。傷を見せてください」
渡辺少佐は心配そうな顔だ。
「私たち強化人間は、自然治癒力も優れています。この程度は問題ありません」
中村は再び微笑んだ。
「ここで治療させます」
渡辺少佐はそう言うと、陽光軍中尉の林を呼び、治療するように命じた。さらに風軍大尉の庄山を呼んだ。
「私は広場を確認してくる。ここは頼む」
そう言い残し、渡辺少佐は広場へ走って行った。
林中尉は、掌を中村の傷口の数センチ上にかざした。すると、掌から淡い光が漏れ出し始めた。しばらくすると、銃弾が傷口から押し出されるように現れ、その後に傷口が塞がり、皮膚も元通りになった。
「他にも暗殺に関わっていた者がいたようですが、首相を守ることが最優先でしたので、追跡はしていません」
林田が庄山大尉に報告した。
「良い判断でした。首相が無事なのが何よりです」
首相の演説は、四回目が中止された。
狙撃した二名と、風の一族の二名、地の一族一名は、拘束され、拘置所に収容された。これから、反政府側についている者を徹底的に洗い出すことになるだろう。
首相暗殺は、別の世界から来た強化人間の協力によって未遂に終わり、犯人も捕らえることができたため、これから共犯者の捜査が始まる、と新聞は報じた。また、強化人間がいた世界では生存不可能な環境になりつつあり、早急な移住を希望していることも追加で報じられた。