密談 4、
近々、国会議員の補欠選挙があり、首相が街頭で与党所属の立候補者の応援演説を行う予定になっています」
一宮大佐は、話を切り出して一呼吸置くと、続けた。
「我々の情報網から、その際に首相暗殺の計画があるとの情報が入りました。軍としては警備にあたりたいのですが、警備は警察庁の管轄ですので、私たちには手出しができません」
彼は、林田たちの目を見て、真剣な表情で言葉を継いだ。
「そこで、ご相談なのですが、貴方たちに警備をお願いしたいのです。ただし、警察の警備を邪魔することなく、聴衆の一人として隠密に行動していただきたい。もし、首相が貴方たちに守られたなら、移住を後押しすることになるでしょう。それに、警備体制の不備を突いて、警察庁内部の不純分子を一掃する良い機会にもなります」
村上リーダーは、その提案にすかさず食いついた。まさに渡りに舟だと感じたのだ。
「実は、中村が首相暗殺について情報を掴みました。ちょうど、どうやって首相に伝えるべきか考えていたところです。移住が実現しやすくなるのであれば、首相警備は喜んで引き受けさせていただきます」
「警備体制は、できれば九人で臨みたいところですが」
と、林田が言った。
一宮大佐は、難しい顔で答えた。
「現段階では、二人から増やすことは困難です。もし、警備が明るみに出れば、議会が黙ってはいないでしょう。移住反対派の議員も少なくありませんし、与党内部にも反対する者がいます。彼らは猛烈な反対を世論にも訴えかけるでしょう」
「それでは、首相の傍で直接警護することはできませんか?」
林田が食い下がった。
「警察からそれは拒まれます。一般聴衆に紛れ込んで行っていただきたい」
「それは……」
林田は絶句した。(たった二人で、しかも離れた位置からでは、いざという時に他の聴衆が邪魔になって、首相の傍に駆けつけることすらできないではないか)
「お気持ちは理解できますが、主導権は警察が握っていますので。しかし、軍からも一般聴衆に紛れ込ませて、警護支援を行います」
会談は終了し、一宮大佐と渡辺少佐を元の世界へ送り届けるため、林田が転送に同行し、再びこのレジスタンスの本拠地へと戻ってきた。
「厳しいな」
村上リーダーは、戻ってきた林田を迎えてポツリと漏らした。
「どんな奴が、いつ、どこで、どんな手段で襲ってくるのか分からない以上、人海戦術で迎え撃つしかないのに……」
林田の声が、徐々に大きくなる。
「最大限の努力をしますので、警護の基本から教えてください」
中村もまた、林田に負けじと大声で言った。
林田は、中村の言葉に少し目を見開いた。
「そうだな、最大限の努力しかない」
そう言うと、林田は中村と共に転送装置の元へ行き、日本國へと転送された。