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密談 1、

 産業見学の初日、朝日が満ちた部屋に、渡辺少佐といつもの七人の兵士が、約束通り林田と中村を迎えに現れた。


 今まで気にしていなかったことだが、部屋の扉前で警戒にあたっている者たち(実質的には林田と中村の見張りの役目だろう)と、渡辺少佐を筆頭とする七人の兵士たちの間に、微妙な確執が漂っているように感じられた。確たる証拠があるわけではない。だが、思い返してみれば、この世界に来た初日からもっと注意深く観察していれば、何かを感じ取っていたかもしれない、と林田は思った。


 今日の見学は、農業と林業が中心とのことで、一行は街を出て、馬車で山の方へと向かった。山へ続く道の途中には、広大な田畑が広がっているらしい。馬車の定員は六人だったため、二台に分かれて移動することになった。林田と中村は、意図的に別々の馬車に乗せられた。


 山に向かう道を進む途中、一行は一軒の立派な農家に立ち寄った。


 広大な敷地には、堂々とした家屋が建っており、多くの農民を従業員として雇い、広大な田畑を大人数で耕作しているという。


 家の裏手には土蔵があり、その二階に農家の主人は渡辺少佐と林田を案内した。木の階段を上がり、奥へと続く廊下を抜けると 一室に通された。


 主人が部屋から退出すると、渡辺少佐は口を開いた。

「昼食をご一緒にと考えておりまして」


 テーブルの上には、すでに食事が用意されていた。


「二人きりでの食事ということは、何か特別な理由があるのですね?」

と、林田は訝しげに尋ねた。


 渡辺少佐は、穏やかな微笑を浮かべた後、表情を一変させ、真剣な眼差しで言った。

「実は内密にご相談したいことがあります」


「少しお待ちください」


 林田は席を立ち上がり、部屋を見回した。四方の壁を指で軽く叩いてみた。天井を見上げ、五感を研ぎ澄ます。床にも注意深く意識を集中させた。


「大丈夫です。この部屋は、気密性を高め、できる限り音が外部に漏れないように処置を施してあります。また、周囲を警戒させている七人の兵士は、信頼できる者たちを選抜しています。中村さんは、母屋で食事をしていただいております」


 林田は、再び席に戻り、渡辺少佐の方に向き直ると渡辺少佐が「では、食事にしましょう。あなたが心配されているような、毒物は入っておりませんよ」と言うと箸を手にとった。


「わかりました。では、いただきましょう」

と、林田も箸を手にとった。


 テーブルの上には、漬物、味噌汁、彩り豊かな野菜と香ばしい鶏肉の煮物、そして炊きたての白い米が並んでいた。


 静かな時間が流れ、部屋には咀嚼する音だけが響いていた。


 食事が終わり、お茶をゆっくりと飲みながら、渡辺少佐は静かに話を始めた。

「私は陽光軍に所属する少佐ですが、陽光軍の通常の任務とは別に、もう一つの重要な任務を主上から賜っております。それは、極秘の密勅です」


「なるほど。それで、この会談はこれほどまでに秘密裏に行われている、ということなのですね」


 渡辺少佐は頷き言葉を選びながら、核心へと迫る話を始めた。







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