報告
林田が元の世界に戻ってしばらくすると、中村も無事に帰還した。二人はすぐにレジスタンスのリーダーの元へ向かい、もう一つの世界での出来事を詳細に報告した。
質素なテーブルを挟んで、四人が腰を下ろしている。林田と中村が並んで座り、その向かいにはレジスタンスの村上リーダーと田中サブリーダーが並んでいた。
林田が、もう一つの世界での遭遇、日本國の人々との接触、そして彼らが示した特別な能力について、克明に語った。報告を聞き終えた村上リーダーは、腕を組みながら「なるほど、彼らの信用を得なければ、話はこれ以上先に進まない、ということか」隣に座る田中サブリーダーが、深く頷いた。
村上は続けて、焦燥感を滲ませた声で言った。
「もう、我々に残された時間は少ない。ヘビーマシンクラスは依然として機能停止状態だが、ライトマシンクラスは驚くべき速度で学習を続け、自分自身でメンテナンスができるようになり始めている。人間だった時の脳が、失われた記憶を取り戻し、驚異的な応用力を身につけてきているのだ。とにかく彼らを完全に隔離しなければならない。堅固なバリケードは築いたものの、いつまで持ちこたえるか。何しろ、彼らの正確な動きを監視することは不可能だ。最終的には、バイオクラス全員を異次元へ転送させたいのだが…」
「日本國の彼らは、先ほどお話したように、 特殊能力を持っています。詳しい能力のすべては不明ですが、不用意な敵対行動は避けるべきだと考えます」
と、林田は中村の反応を 確認しながら答えた。
「自分も同感です」
と、中村も同意した。
「では、何か具体的な打開策はあるのか?」
と、田中サブリーダーは、林田と中村の顔を交互に見ながら問うた。
少しの間沈黙のあと、中村が口を開いた。
「日本國で反政府的な動きがあるようです。私の隣の部屋での会話が聞こえてきました。彼らは、首相の暗殺を企てているようです。もし、我々がそれを阻止することができれば、日本國の人々からの信頼度は向上するのではないでしょうか?」
「もっと詳しく話せ」
と、林田は前のめりになって言った。
「昨晩遅く、隣の部屋に二人の人物が入っていく足音が聞こえました。遠くの廊下を一人で歩いてきた足音と、もう一人は私の部屋のドアの前で警備している者だと思われます」
「警備は何人いた?」
と、林田は鋭く確認した。
「三人です」
「ということは、残りの二人の警備も、その反政府組織の仲間ということか…」
と、林田は呟いた。
他の三人も、林田の推測に同意するように頷いた。
中村は話を続けた。
「彼らは、首相が近々街頭演説を行う予定があるようで、その際の警備体制について話し合っていました。警備を意図的に薄くし、さらに死角を作り出す計画を立てているようです。その理由として、人員不足を挙げており、それは、我々の来訪に警備が割かれていることも、理由の一つにするようです」
「なにぃ!我々のせいにするだと!」
林田は、利用されることに激しい怒りを覚え、思わず立ち上がった。
「まぁ、よそ者だから利用価値がある、ということだろう。落ち着け、林田」
と、村上リーダーは冷静に制止した。
「申し訳ありません。時間がなく焦っているのか、感情的になってしまいました」
林田はトーンを下げ冷静さを取り戻そうとした。
「反政府組織には警備体制を動かせる人物がいる、ということは、高官の中に、いや、もしかすると大臣クラスにも、その組織の人間がいるかもしれないな…」
と、田中サブリーダーは考え込むように言った。
「首相に、この情報を直接伝えなければならない、ということか…」
林田は考え込みながら低い声で呟いた。