闘い 2、
渡辺少佐を先頭に、七人の兵士と林田、中村は静かに競技場兼闘技場の中へと足を踏み入れた。彼らは中央を通り過ぎ、反対側の出入り口の前に立ち止まった。
中村は、左手にしっかりと握られた、鞘に収まったままの太刀に一度視線を落とし、ゆっくりと腰に差した。
そして、改めて競技場兼闘技場を見渡し、高く広がる空を見上げた。吸い込まれるような青さ。無風の穏やかな空気。(この世界は、思ったよりもずっと良い環境なのかもしれない。皆をここに呼べたら…)そんな思いが、彼の胸をかすめた。視線を戻すと、反対側の出入り口の扉に注いだ。
重い音を立てて、反対側の扉が開いた。中から現れたのは、見慣れない顔の男だった。白人だ。その右手に握られているのは、太陽の光を反射しているサーベル。既に鞘から抜かれている。故郷から密かに持ち込んだものだろうか。細身の中村と比べると、筋肉質で、10センチメートルほど身長が高い。男は、中村をひと睨みすると、肩や腕を回し短い準備運動を始めた後、ゆっくりと中村に向かって歩き出した。
中村はすでに、競技場の中央地点に移動し、静かにその男を待っていた。
中村と白人男性の間には、10メートルほどの距離があった。白人男性は、じりじりと間合いを詰め、5メートルほどの距離で足を止めた。
彼は、中村をゆっくりと上から下まで見たあと見下したようにニヤリと笑った。
中村は細身で、身長も自分より10センチほど低い。威圧感など微塵も感じさせない。持っているのは日本刀か。まだ鞘から抜いてすらいない。プレッシャーで動けないのだろうか。一突きで終わらせてやる。そう思いながら男はさらにじりじりと間合いを詰めていく。
その間合いが、 更に詰められ始めた瞬間、中村は静かに太刀の柄に手をかけ、滑らかな 動きで鞘から抜き放った。
二人の距離が、2メートルほどになった時、白人男性は雄叫びを上げ、サーベルを中村の胸へと一直線に突き刺した。
サーベルは、確かに中村の胸に深く突き刺さったはずだった。しかし、まるで幻のように、男の目の前から中村の姿が消えていた。そして、その直後、白人男性はバランスを失い地面に転がっていた。
中村は、白人男性の突きをかわしほとんど 同時に、男の足元に足を引っかけていたのだ。
怒りに顔を歪めた白人男性は、 起き上がり、先ほど以上の猛烈な勢いで突進してきた。だが、中村はそれをかわし、既に裏返していた太刀を男の手に叩き込んだ。いわゆる峰打ちだ。
衝撃でサーベルは地面に叩き落とされ、刃の切っ先が、信じられないといった表情の白人男性の眼前に突きつけられた。
しかし、まだチャンスはある。男は咄嗟に後ろへと跳び退き、間合いを広げようとした。だが、中村の動きはそれを許さなかった。再び 太刀の切っ先が男の喉元に迫り、彼は 敗北を認めた。




