闘い 1、
林田と中村は、広々とした競技場兼闘技場の中心へと案内された。足を踏み入れた瞬間、林田は周囲をゆっくりと見回した。
そこは、見渡すと長方形の空間で、周囲は高い塀に囲まれている。出入り口は二箇所あり、塀の高さは優に十メートルはあるだろうか。材質は木製だが、表面は滑らかで、何重にも板が重ねられているようだった。(この程度の壁なら、我々が本気で体当たりすれば、破壊することも不可能ではないかもしれない)と、林田は冷静に分析した。
競技場兼闘技場の中心から、一方の出入り口へと誘導された林田と中村。
「貴方たちの能力について、簡単に教えていただけますでしょうか?」
と、渡辺少佐が改めて尋ねた。
「我々は、人間の身体能力を極限まで強化したものだとお考えください。視覚、聴覚、嗅覚、そして筋力など、あらゆる面で常人の域を遥かに凌駕します」
と、林田は簡潔に答えた。
「なるほど、接近戦を得意とする、ということですね」
「まぁ、そうなると言えるでしょう」
「それでは、対戦相手を選ばせます。少々お待ちください」
渡辺少佐は、控えていた七人の兵士の元へ歩み寄り、指示を与えていた。
その間、中村は林田の方を向き、低い声で言った。
「個人戦なら俺を先に行かせてください」
林田は、中村の目を見つめ返して言った。
「わかっていると思うが、相手の力量をしっかりと確認しながら戦え。決して油断せず、冷静に対処しろ」
「はい」
と、中村は答えた。
渡辺少佐が戻ってくると、出入り口の扉を開き、奥へと続く通路を案内した。七人の兵士も、彼らの後についてくる。
全員が控え室と思われる一室に入ると、渡辺少佐は説明を始めた。
「闘いは、個人戦で行います。戦闘不能になるか、負けを認めた時点で終了とします。対戦相手は、外国の間諜として捕縛した者で、すでに死刑宣告を受けています。捕縛時にはかなりの手練れで、苦労したと聞いています。この闘いで勝利すれば、減刑を行うと伝えてありますので、死に物狂いで向かってくるでしょう。武器はそちらに用意してあります。もし、他の武器が必要でしたら遠慮なく申し出てください。準備可能であれば、用意します」
部屋の隅には、太刀と小太刀、そして槍が整然と並べられていた。
「相手の武器については、教えていただけないということでしょうか?」
念のため、林田は尋ねた。
「実際の戦闘においては、あらかじめ相手の武器がわかるとは限りませんから」
渡辺少佐は、表情を変えることなく淡々と答えた。
「承知しました」
「どちらから戦われますか?」
中村は、迷うことなく一歩前に進み出て、「自分から行きます」と答えた。
「わかりました。武器はどうされますか?」
中村は、武器が並べられている場所まで歩いていき、その中から一振りの太刀を選び取った。手にすると、試しに軽く一振りし「これで」と、中村は一言発した。
その瞬間、渡辺少佐を始め、控室にいた兵士一同は息を呑んだ。中村が何気なく放った太刀の一振りの、あまりにも速い動きに。