日本國 7.
部屋に戻った林田は、天井を見上げていた。天井裏を探索したい衝動に駆られたが、彼女は小さく息をつき、自制するように呟いた。
「ここは、じっと堪えるべきか。もし探索中に見つかってしまえば、せっかく築きかけた関係も水泡に帰す恐れがある」
西の空が茜色に染まり始め、部屋がゆっくりと薄暗くなってきた頃、控えめなノックがドアを叩いた。音に応じると、見慣れない制服を着た二人の男性が入ってきた。
彼らの制服は、今まで見たものとは明らかに異なり、鮮やかな赤色、温かみのあるオレンジ色、そして深みのある青色が効果的に配色されていた。
先に部屋に入ってきた男性が、にこやかに言った。
「日が暮れてきましたので、灯りをつけに来ました」
そう言いながら、彼は部屋の隅に置かれた燭台へと歩み寄り、信じられない光景が林田の目の前で繰り広げられた。男性は、まるで魔法のように、人差し指の先から小さな、しかし確かな炎を出現させ、燭台の蝋燭に火を灯したのだ。
林田は、その驚愕の光景に一瞬息を呑んだが、すぐに冷静さを取り戻し、問いかけた。
「あなたは、私がどこから来たのかを知っていますか?」
燭台に火を灯した男性は、穏やかな表情で答えた。
「信じがたいことすが、別の世界から来たと聞いています」
林田は、深く頷きながら、さらに質問を重ねた。「この世界のことは、まだ何もわかりません。ですから尋ねますが、先ほど、あなたは指から炎を出していましたね。火を、自在に操ることができるのですか?」
燭台に火を灯した男性は、林田の真剣な眼差しを受け止め、振り返って、もう一人の男性の方を一瞥した。
ドアの近くに静かに立っていた、もう一人の男性が、代わりに答えた。
「我々、火軍に所属する兵士は、火を操る能力を持っております。明日、我が国の軍事組織についても説明があると思いますので、詳細についてはその際に確認してください」
そう言い残すと、二人の男性は静かに部屋を後にした。
「この国には、電気というものは存在しないのか?いや、もしかすると、この世界全体がそうなのかもしれない」
林田は、燃え盛る蝋燭の炎を見つめながらそう呟くと、部屋に一つだけ置かれた木製の椅子に腰掛け、今後の対応について、深く思案に耽った。
同じ頃、中村の部屋にも、同様に灯りが点けられ、今後の行動について様々な可能性を検討していた。
空中を自由に移動する能力を持つ者、そして、今目の前で示されたように、火を意のままに操ることができる者。まだ知らない能力を持つ者が他にも存在するかもしれない。そう考えると、これまで以上に慎重に行動する必要があると感じた。(林田さんは、今頃どうしているだろうか…)そんな思いが頭をよぎった時、彼の部屋のドアに静かなノックの音が響いた。
運ばれてきたのは、夕食だった。野菜と、見たことのない種類の魚が並んでいる。中村のいた世界では、人工太陽によって栽培された野菜は存在したが、自然の魚は絶滅していた。
毒が盛られているのではないかという疑念が頭をよぎった瞬間、それを察したかのように、食事を運んできた人物は、食事の一部を自ら口にし、毒がないことを示した。
初めて口にするこの魚は、細かい骨が多くて食べにくいと感じたが、その味は驚くほど良かった。
部屋から一歩も出ることが許されない一日(正確には昼からの半日だったが)、しかし、彼に対する待遇は決して悪くはなかった。むしろ、丁寧な対応だったと言える。
今後、この世界でどのように行動し、目的を達成するべきか。様々な思考が頭の中で渦巻く中、夜は静かに更けていった。