砂漠で特訓
容赦ない太陽が砂漠を焦がす。熱風が肌を刺し、視界は揺らめく陽炎に歪んでいた。神山明衣は、そんな過酷な環境の中、ひたすら己の能力を研ぎ澄ましていた。跳躍すれば瞬時に辿り着けるこの隔絶された場所は、誰にも邪魔されず特訓に没頭できる絶好の地だった。
脳裏には、あの屈辱的な光景が鮮明に蘇る。アークの三宅副支部長との戦い。無力感に打ちのめされた。最後の手段はリスクが高すぎる。もっとピンポイントで 確実に使えるようにならなければ――その強い思いが、明衣をこの砂漠へと駆り立てていた。
高密度のエネルギーを一点に集中させるには、並外れた集中力がいる。それを何度も繰り返すためには、枯渇したエネルギーを迅速に補給する必要があった。この砂漠ならば、邪魔者はいない。頭上には無限の太陽エネルギーが降り注いでいる。特訓を開始してから、一週間が過ぎた。
(ピンポイント攻撃の感触も掴めてきた。今日は少し早めに帰ろう)
明衣はそう思いながら跳躍し、次の瞬間には特殊捜査室の床に立っていた。
部屋の中では、中原が忙しそうにキーボードを叩いている。明衣は彼に声をかけた。
「やっぱり気になるんだけど、林田未結は向こうの世界に酸素を送る計画なんだよね?」
「はい」
中原は顔を上げ、 神山明衣の方を向いて頷いた。
「だったら、阻止するために動かないと」
明衣は室長の神山一輝に視線を向けた。
「それはもう、動いている」
と、一輝は答えた。
「え、副室長の私が知らないのに?」
明衣は不満げに頬を膨らませた。
「毎日、疲れていると連絡を無視して特訓に明け暮れ、まともに話を聞かなかったのは誰かな?」
「それはそうだけど……」
明衣は言葉に詰まった。
「簡単に説明しておくと、今のところ何もしなくていい」
「何も?」
「実は関森リコさんに協力してもらって、ほんの少し過去を変えた。したがって次元転送装置の座標セットが合わなくなるはずだ」
「過去を変えたら関森さんは戻って来れなくなるかもでは」
「大丈夫だ。彼女はタイムリープする前に何らかの印を残していき、それを目印に戻ってくる事ができるらしい。ただ、同じ印が他にもあると大変だと言っていた」
「で、彼女は?」
「無事、戻ってきたと先程連絡があった」
「良かった。でも、過去を変えたらヤバいんじゃない」
「変わることも、ストーリーだ。関森さんが言うには、タイムリーパーは自分だけではない。様々な次元で過去は変化していてカオス状態になっているそうだ」
一呼吸おいて、神山一輝はつづけた。
「関森リコさんだが、我々の仲間になる事になった。あと、青島君にも声をかけたがこっちはダメだった」
神山明衣と中原は顔を見合わせた。
「タイムリーパーの能力は重宝だからな」
と神山一輝は機嫌が良さそうにニヤリとしていた。