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墓守は、墓守れない  作者: 名前募集中
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「小さな墓守さん、」

初投稿です。

  今日は、土葬の日。

 眠ったのは、エイギルさんちの長女、アリエルさん。

 赤毛とそばかすがチャームポイント、大きな胸で沢山の男子を魅了した。

 お尻も素晴らしい。でも、八百屋のおばさんみたいにお腹は大きくない。

 と、羊のお世話をサボりながら、アリエルさんが語ってくれてた。

 自信満々な可愛い人。僕にとってはそんな人だった。 

 村一番の良い男、グレイさんのお嫁さんで、弟のアレイみたいな元気な子供を産んで……なんて想像を、村の皆がしていた。


 僕も、アリエルさんとグレイさんの子供なら、友達になれたのかな、なんて。


 ベットから立つ。収納箱(チェスト)を開けて、

おじいちゃんのくれた黒いローブを着て、銀で出来た長いシャベルを持った。

 最後に、錆びた剣を腰に差したなら、木像に声を掛ける。

 僕をしわしわにした中背の老人、そんな死神の木の像へ。


「わたしの行いが、別れの後に生きる者の、癒し足りえる事を願います。

わたしは、貴方の代わりに、異なる魂が犯す屍の首を撥ねます。

わたしは、貴方の代わりに、屍を腐らせ、灰にして、大地に届けます。

わたしの行いで、貴方の手が空いたならば、別れの後に生きる者を、その思いの限り慰めてください。私はただそう願い、この地で別れを見つめます」


 おじいちゃんと一緒の時から変わることの無い誓いの言葉。

 この言葉の意味をおじいちゃんが教えてくれた時は、難しくて分からなかった。

 今も分からない。多分、神様の代わりに働くから、神様は遺族を慰めてって意味だと思う。


 音を立てるようにドアを押して、風通しの良いベットと像と大きい収納箱だけの家を出た。


  歩いてると、頭が煩くなる。


 眼の前の夜空には、月が三つに星がいっぱい。

 神様が喧嘩ばかりするから、幾つも家を作ったんだって。

 それが月と、大きな星達。

 月は僕の仕事に深く関わっている。

 朱い、戦と恋が好きな神様達の国。月だ。僕が寝れない理由。

 青い、人間が大好きな神様達の国。月、僕が大好きな女神様が住んでるんだ。

 白い、異して悪辣なる神様達の国。これも、僕が寝れない理由。


  まだ、うるさい。そんなに忘れたいのか、僕は。


 見えた。剥き出しの土……ここに彼女を埋めた。

 アリエルさんが死んだのは、呪殺。

 昨日まで生きてたのに、急に心臓が止められた。

 村一番の剣士のグレイさんと、村一番の射手のエイギルさんが、近くの森で魔術の跡を見つけてくれた。

 聞く限り、白い月の魔術、凄く難しい【シンゾウテイシ】。

 被害者は美女。剛健。病知らず。

 頭の秀れ過ぎた父を持ち、僕の教えた【発火】の魔術を一日で何度でも使えた。

 そんな優れた彼女に呪殺が起こったなら、強い死霊術師が奪いに来る。


 そんな事を考えながらぐるぐる土の周りを歩いていると、来た。

 ぐちゅぐちゅと何かが這う音が。ぼこぼこと土をひっくり返す音が。

 十字がたくさん並んだ広い墓地。

 その真ん中、僕より20メルト先。

 大きな蛆がそこへ沢山集まって、人間になった。


 人間になった蛆は、黒い襤褸切れに身を包み、骨の様な手で僕を指す。

 左手には、緑の炎が焚けた杖……虫を使う不死の魔女だ。


「《《カイン》》……随分と若くなったねぇ?」


 黒い襤褸布から、声が聞こえる。しゃがれた老婆の声だ。


「おはようおばあさん。……今日は、川に洗濯かな? それとも、花を摘みにきたのかな? 今日は全部が満月だから、色んな花が咲いてるよ」


 震えるこの足を騙す為に、冗談を言ってみた。


 ――ローブで顔は見えないが、緑の焔を眼の代わりにして、僕の心を覗いてる筈。


「名無しの坊や、着替えに来たよ」


 《《ナニヲイッテルンダ》》?


「蛆達が、この服は嫌だって言うんだ。これで良いではないか、人の為に魔術を極めるのだから、この服でも良いじゃないかと、言っても言っても聞かなくて、脳を何度も噛んで来るんだ。だから、だから、服を探しに来たんだよ。蛆達が好む、綺麗な服を」

  

 老婆が喋っている。わかりたくない言葉を。

 《《頭がおかしくなる》》。


 《《太陽》》が居る時に、美女を埋めた。

 僕が埋めた。美女は今、僕の足元に居る。

 綺麗な顔に土を被せた。もったいないと思いながら。

 自慢の胸に土を被せた。皆が泣くのを無視しながら。

 土葬にしたのは、彼女の夫がそう望んだからだ。

 大地の神、その胸の中で、安らかに腐って欲しいと誰かが言ってたからだ。

 その願いは叶えてあげたい。

 だけど、土葬をした夜には必ず、残業が滑り込んでくる。

 この残業に失敗したら、泣いた皆がもっと泣く。


 それは、絶対に嫌なんだ。


 ――銀のシャベルを右手で短く握り、左の手のひらを鋭い所に強く当てる。


 流れる血を見送って、大口を叩く。おじいちゃんの様に。


「忌々しい白い月の、【緑炎の信徒】。冷たい炎と蛆の、不死の魔女。」


《魔女の口が、三日月よりも深く裂けた。》


「お前を、【鉛腕の原罪(カイン)】の弟子、【墓守】が狩る。」


 老婆は僕の口上を聞いて、ゲラゲラと十分に嗤い、語り始めた。

 都合が良い事に魔術師や騎士は、どんな外道でも決闘に誇りを持っている。


 シャベルの先に血を塗り付けたら、シャベルをちゃんと持ち直して、


《魔女にシャベルを向けた。魔女は、同じ様に杖を向けて来る》


 僕が殺すと言い、魔女は殺すと言われ、お互いに武器を向けた。


「......カイン、毒鉄を撒くしか能が無い男、それの弟子か!! 神に捨てられた男、その弟子に何が出来る?! 楽しみだねぇ!!」


 燃える杖が大地に向けられた。老婆の後ろから、蜂と蠅を混ぜ、西瓜程に大きくした虫が地面から這い出て来た。

 それらは、夜空を覆い隠さんばかりに多く湧き出し、五月蠅く羽を鳴らして、僕を視降ろしてる。


 この光景は……例えようが無い。悪夢みたいだぁ。

 無理だ、勝てない、おじいちゃんはどうしてこうも


「蠅よ、邪魔者ぐらい掃っておくれ!!」


 僕はシャベルを降ろした――魔女は杖を大きく薙いだ。


 羽音が……強くなる。寄って来る。


 ――傷付けた左腕を、迫り来る甲殻の軍勢に向けた。


 パチパチと火の音を立てて、僕の血が、横に降る雨の様に逃げ出す。

 肺が焼ける程に濃厚な火の匂いに釣られて、何かが僕の周りでうずうずとしている。


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