8 襲われ、倒し、レベルが上がり
巣の中は迷路になっていた。
様々な方向に枝分かれする道。
それらによって様々な方向へと進んでいく。
一見するとすぐに迷ってしまいそうだ。
だが、奥に行くのはそう難しいわけではないと男は言う。
「下り坂を進めばいい」
巣の基本的な構造として、一番奥は一番低いところにある。
そこに向かうには、下り坂になってる道を進めば良い。
「それが分かってりゃ簡単だ」
悩む必要はない。
分かれ道も、下り坂になってるものを選べば良い。
そう言われてみると、確かにその通りだった。
分かれ道も、下り坂か上り坂の二つに一つ。
そのうち、下り坂になってるのは一つしかない。
やり方が分かれば簡単だった。
「でも、上り坂の先はどうなってんですか?」
「別の出入り口に続いてる。
お前の家の他にも出入りする所があるって事だ」
「じゃあ、これだけ分かれ道があるって事は……」
「あちこちから出入りしてるってことだ、こいつらがな」
そう言って男は、新たに迫ってきた人面虫を倒していった。
人面虫はそれこそあちこちから出て来る。
巣の奥からもそうだし、分かれ道から飛び出してくる事もある。
中にいたものが侵入者に気付いて迫ってくるのだろう。
おかげで、分かれ道に出るたびに戦闘になる。
それどころか、後ろから襲ってくる事もある。
通り過ぎた分かれ道からやってくるのだ。
場合によっては挟みうちになる事もある。
それらを片付けながら奥へと向かっていく。
その途中、天井や壁、床から生える人面花に遭遇する事もあった。
巣が巨大な怪物植物になってるのだ。
そこから人面花が咲いてるのもおかしな事ではない。
それらは動くことはないが、毒の効果のある花粉を飛ばしてくる。
眠りを誘ったり、麻痺したり。
有害な毒として身体を蝕み傷つける成分を放つ事もある。
そんな人面花を潰しもした。
そうして数多くの怪物をたおしている途中で、カズヤは変化を感じた。
倒して出て来る光の粒。
それを吸収してる時に、身体の中でなにかが変わった。
高揚感と安心感。
身体が軽くなったような感覚。
力が充実していき、五感が鋭く、大きく拡大していくような。
そういった事が一度に起こった。
「レベルが上がったみたいだな」
男に言われて、なるほどと思った。
「これが、レベルが上がるって事ですか」
「そうだ。
身体が軽くなって、目や耳が今までよりよくなったように思えるだろ。
能力が上がったからだ」
確かにその通りだった。
どのくらい違いがあるのかは分からない。
だが、今までよりも自分の状態が良くなったように思えた。
「それだけじゃまだ怪物と戦うのは難しいけどな。
あと幾つかレベルを上げれば、ザコ相手なら楽勝になる」
「ザコ……ですか」
「ああ。
このあたりをうろついてる虫とか花とかな。
それくらいなら簡単に倒せるようになる」
「でも、それって今だとまだ無理ってことですよね」
「まあな。
一匹くらいなら今でも大丈夫だけど。
何匹も襲ってきたらさすがにな」
言われて少し落胆した。
まだザコを相手にするのも難しいのかと。
「安心しろ。
今日中にザコをまとめて相手に出来るくらいに強くなる。
この先の奴を倒せればな」
そう言って男はゆるやかな下り坂の先を見た。
見つめる先は、少しずつ道幅が広くなっている。
巣の主の部屋に続く道はそうなってるという。
「ここで一番強い奴がいる。
気を抜くなよ」
「はい……」
頷いてカズヤは先を歩く男についていった。