74 向こう側へ
「それじゃ、行ってくる」
怪物の巣への突入前。
仲間にそう声をかけていく。
これが最後になるかもしれないと、誰もが神妙な顔をしている。
「気をつけて」
「ご武運を」
「帰ってこいよ」
そんな声を受けて、巣に入っていく。
同行者はいない。
巣の崩壊に巻き込まない為だ。
一緒に行くと言う者もいたが、それらは全て断った。
危険に巻き込むわけにはいかない。
「どうしてもって言うならさ」
断るカズヤに食い下がる者達。
それらに向けてカズヤは提案をした。
「俺が生きて帰ってきたら、次は一緒に行こう」
そう言ってなだめた。
帰ってこれるかどうかも分からないのに。
どうにか仲間をおさえ、カズヤは単身すすんでいく。
相変わらず怪物が襲ってくるが、簡単に蹴散らしていく。
とにかくレベルを上げ続けてきたから、もう怪物が障害になる事はない。
そこらにいるザコも、中枢に控えるボスも。
どちらも瞬時に倒すことが出来る。
巣を作ってる巨大人面花を倒し、巣の崩壊が始まる。
いつも通りに花の部分から霞のように消えていく。
それが巣全体に及んでいく。
いつもならここできびすを返すところだ。
だが、カズヤはその崩壊した先へと向かっていく。
何もない、暗がりの中へ。
怖いと思った。
さすがにその先がどうなってるのか分からない。
このまま消えてしまうのではないかと思う。
例え生きていても、無事で済むかどうか。
戻ってきた滝口も、怪物に取り憑かれていた。
そうなる可能性は考えておかねばならなかった。
だが、それでもカズヤは踏み出していく。
崩壊していく巣の中へ。
広がっていく暗い部分へ。
「せーの」
威勢を付けて踏み出す。
直後に浮遊感をおぼえた。
落下してるのか、浮かび上がってるのか分からない。
上下の感覚すら消える。
無重力状態というのが近いのだろうか。
自分がどこにいるのか分からなくなる。
それがどれだけ続いたのか。
数秒なのか数分なのか。
あるいは何時間もなのか。
時間の感覚すら消失していた。
その終わりは唐突にやってくる。
先の見通せない暗さが唐突になくなった。
気付けば地面の上に立っている。
まるで、瞬時に別の場所にあらわれたようだ。
「……ここか」
初めてくる場所、見慣れない世界。
目にしてすぐに悟る。
滝口が行けと言っていたのがここなのだと。
一目見てすぐに分かった。
たどり着いた場所。
そこは、周囲が人面花の蔦や根で覆われた世界だった。
その上を人面虫が這い回っていた。
人の気配などどこにもない。
巣の中に出て来た、とい方が正解だろう。
「なるほどね」
すぐに理解する。
ここが危険であるという一点を。
他の全ては謎だらけだが、これだけは間違いがない。
しかも、目に入る範囲にいる全てが強力なものばかりだ。
人面花も人面虫も、いずれも巣の中枢にいるのと同じくらい巨大なものばかり。
それが当たり前にそこらにいる。
それらが女の顔をした頭をカズヤに向けていく。
殺気をのせた視線を一身にあびて、肩をすくめる。
即座にカズヤは結界をはる。
自分の周囲に、可能な限り強力なものを。
それで怪物共の動きを大きく制限する。
それから目に付くものを一匹ずつ始末していく。
やってきた異様な世界。
そこでも戦いを余儀なくされていった。




