5 怪物の巣の中、強くならねばならない理由 1
踏み込んだ暗い球の中。
そこもまた異様な場所だった。
木の根というか蔦というか。
植物のように見える何かが絡み合って織り込まれたような通路があった。
それらをプラスチックのような硬質の物質が覆っている。
植物を骨組みにした建築物のようだ。
その通路を、男はためらう事無く進んでいく。
カズヤもそんな男の後ろについていく。
出来ればこんなところから逃げ出したい。
だが、男から離れるのも危険に思えた。
何をしようとしてるのかは分からないが、今は近くにいた方が安全だと考えたのだ。
それに、聞きたい事もある。
「あの、これって何なんですか?」
家のあった場所に存在するこの場所。
これの正体が分からない。
そもそも、人面花に人面虫。
全てが謎だった。
男もそれほど詳しくはないと言っている。
聞いても分からない事はあるかもしれない。
それでも、本当に初めてのカズヤよりは何かを知ってるはず。
それを尋ねていく。
「聞きたいことの答えじゃないかもしれないけど
そう前置きをして男は答えていく。
「怪物の巣だ」
「巣?」
「ああ、怪物が住んでる場所だ。
ついでに、怪物が生まれて育ってる場所でもある。
だから、怪物の巣って呼んでる。
巣穴とか、巣窟って言う奴もいるけど」
そこまで聞いてカズヤは背筋が凍った。
「それじゃ、ここにはさっきみたいのが」
「いっぱいいるぞ」
あっさりと答える男。
「だから離れるなよ。
でないと、やつらにやられるかもしれん」
「そんな所に俺を引きずり込んだんですか……」
「ああ、そうだ。
そうしなくちゃならないからな」
なんで、と聞く前に男が声を止めた。
目の前から怪物が迫ってきていたからだ。
何匹もの人面虫が。
それらに向かって男は進んでいく。
距離を一気に詰めて、顔面に拳や蹴りを入れていく。
床どころか天井にも壁にもはりついていた人面虫は、それで撃破されていく。
そして、今まで同じように消えていく。
最後には光の粒子になって、カズヤと男に向かってくるのも。
「これだ」
その光の粒子を指して男が説明を再開する。
「こいつらを倒すと、こういうのが出て来る」
こういうの、というのが光の粒なのだろう。
「どういうわけか、倒すとこれが俺達の中に入ってくる」
「危なくないですか?」
「今のところは大丈夫。
むしろ、もの凄く健康的になった」
それはそれで、あぶないお薬のようで怖くなる。
だが、カズヤはそれを口にしない事にした。
怖いことになりそうに思えたからだ。
「これがいっぱいたまると、もの凄く強くなれる。
ゲームのレベルアップみたいにな」
「……さっき、家の屋根までのぼっていけたのもそのおかげですか?」
「そういう事」
超人的な動きの理由が分かった。
「ただ、レベルアップ出来る奴は限られてる。
あの怪物が見える奴だ」
怪物が見えない者には効果がない。
倒しても光の粒が吸収される事は無い。
あくまで、見える者だけが光の粒を吸収出来る。
「だから、見える奴を鍛えていくしかない。
どうせ襲われるんだ。
強くなっておくにこしたことはないからな」
そこまで聞いてカズヤも理解できてきた。
見える者に怪物は攻撃を仕掛けてくる。
倒せば強くなれる。
強くならないと怪物に襲われる。
そうなれば、
「殺されるんですか、あいつらに」
「そうだ」
頷かれてカズヤはとんでもない事に巻き込まれた実感を得た。
嬉しくも何ともなかった。