44 偽善はきれい事で飾った悪事でしかない
先ほどの6人なら、繁殖用の家畜とされた姉達を見ても言うだろう。
「それでも消えるよりは良い」と。
消えてなくなるより、生きて存在してる方が良いと。
そうなる可能性が高いと、カズヤは予想し推理する。
カズヤはそうは思えなかった。
こんな状態が続く事が幸せだとは思えない。
消えたいと思ってはいないにしても、続けるべきだとは思えない。
いっそ、怪物の巣ごと消して、様々なものを変化させた方がマシだと思う。
そうなった場合に、姉は消えるかもしれない。
だが、麻薬漬けにされ、性奴隷にされてるよりは良い。
そんな状況がなくなった方がまだマシだろう。
カズヤはそう考える。
仮にそれが不幸だったとしてもだ。
巣の破壊を躊躇う事は無い。
このまま放置すれば、更に状況は悪化する。
怪物は姉や他の女を作って子供を作らせるだろう。
しかも、一人二人ではない。
可能な限り大量に孕ませていく。
その子供をどうやって育てるのか?
孕ませられる女が、今ここにいる者だけとも限らない。
今後更に増えるかもしれない。
むしろ、増やすだろう。
そうやって被害者や犠牲者を増大させていく事になる。
被害を止める為にも、巣を破壊して現状を変えねばならない。
今と同じ状態が続くというのは、結局被害者を拡大させる事にしかならないのだ。
その為の土台というか仕組み・機構が出来上がってしまっている。
これを破壊しなければ悲劇が量産される。
潰すしかないのだ、怪物共を。
でなければ問題がより大きく拡大していく。
止めるためには、誰かが消える事を覚悟で怪物を殲滅するしかない。
結局、悲劇を量産してるだけなのだ、カズヤを止めようとした6人は。
一見もっともらしい事を言っているように思える。
しかし、実際には悲劇を拡大させる手伝いをしてるだけ。
だからこそ、怪物の仲間であり、共犯者でしかない。
掲げていた理由は、ただの偽善だ。
偽善とは、良いことに見える悪事でしかない。
悪いことを良いことのように装ってるだけでしかない。
そんな偽善を認めるわけにはいかなかった。
たとえ犠牲が出ようとも、偽善という悪事を放置は出来ない。
悲劇は避けられないにしても、その悲劇がここで終わるようにしなければならない
その為にカズヤは、巣を破壊しにいく。
地下部分へと向かい、中枢部を破壊していく。
これで影響下にあった者達に変化があらわれる。
早速カズヤはそれを目の当たりにした。
先ほど、姉がとらわれていたマンション。
それが消えていた。
代わりに別の建物が出来ていた。
では、姉はどこに、と思って気配を探る。
それは駅の前にあるビルから感じ取れた。
そっちで何をしてるんだろうと思い足を向ける。
見てみると、そこにはファーストフード店があった。
姉はそこのカウンターに立っていた。
手際よく注文をさばき、営業用の笑顔をうかべている。
家計を助けるためにバイトをしてる、という情報がカズヤの頭に浮かんできた。
どうやら世の中が書き換わってそうなったらしい。
だが、これならこれで良いと思った。
不良とつるんでヤクザと縁を持ち、麻薬漬けになって繁殖に使われてるわけではない。
以前に比べれば充分に健全だ。
そんな姉のいる店に向かっていく。
手に入れた気を金銭に換えて。
姉のいるカウンターの列に並び、姉の前まで進んでいく。
姉は表情を消した顔を向け、平坦な声で「お待たせしました」と告げてきた。
「姉さん、客にそういう顔と声はないと思うよ」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
カズヤのたしなめる声を無視して、姉は先を促してくる。
苦笑したカズヤは、一番安いセットを注文。
淡々とした姉の対応を受ける事になる。
「────仕事中に来るな」
最後、顔を近づけてそう宣ってくる。
はいはい、と応じてカズヤは注文が出来あがるのを待つ者達の中に入っていった。
こんなやりとりが出来るのも悪くないと思いながら。




