2 出会いと、始まり
後ろからかけられた声に振り向く。
見知らぬ男が立っていた。
誰なんだ、と思うもすぐに別のところに目が向く。
男が持っていた花にだ。
毒々しい。
あるいは禍々しい。
そんな表現がよく似合う花だった。
原色の派手な色合いをした、それが不気味さを醸し出す。
何より、茎の頂点で咲いてる花。
それは人の顔をしていた。
花びらの真ん中に埋もれるように、女の顔があった。
人面花とでも言うべきか。
それが苦しげに口をパクパクと開いてる。
酸欠にあえいでるように。
それに目が釘付けになる。
(なんだよこれ)
疑問だけが頭に浮かんでいった。
そんなカズヤの前で人面花は消えていった。
それを持った男の手が光ると同時に、花が消滅していく。
靄のように、霞のようになって。
粒子となって散っていくそれは、そこにあったという痕跡を何も残さずに消滅した。
「気分はどうだ?」
呆然とそれを見ていたカズヤに声がかかる。
言われてカズヤは自分の事をふりかえる。
頭は、大丈夫。
熱っぽさは消えて爽快になっていた。
身体のだるさもない。
「え?」
あまりの変化に驚く。
さっきまでは辛くてしょうがなかったのに、今は何ともない。
「大丈夫みたいだな」
男もそう言ってくる。
安心しているようだ。
「災難だったな、取り憑かれて」
いたわるような、ねぎらうような声。
それを聞いてカズヤは救われた気分になった。
だが、それも次の言葉で止まる。
「でも、これから大変だぞ」
「え?」
どういう事なのかと思った。
これからどうなるのかと。
「取り憑かれてたんだ。
もうこれから色々見る事になる。
もとには戻れん。
それは諦めろ」
「…………どういう事ですか?」
言ってる意味が分からず尋ねる。
そんなカズヤに、
「周りを見てみろ」
男は促す。
つられて周りをみたカズヤは絶句した。
そこかしこに、巨大な蔓や根がはっている。
根は地面を這うように。
蔓はそこから生えて、あちこちの家に絡まっている。
先ほどまでそんなものはなかったはずだ。
なのに、今はそれらがはっきり見える。
「なに、これ……」
「怪物だ」
男が疑問に答える。
「鬼でも悪魔でもいいけど。
俺達は怪物って呼んでる」
男は淡々と説明していく。
やるせなさがにじんだ声で。
「お前がつらい目にあってたのも、こいつらのせいだ」
その声をカズヤは、呆然としながら聞いていた。
理解が追いつかない。
怪物という存在にも、男の言うことにも。
ただ、今まで知らなかった何かがここにある事だけは分かった。