ネコさんとカメコおばあちゃん
クマさんがざぶざぶと、水の中を進みます。
どんどんと湖の真ん中の方に進んで、クマさんは顔の下まで水につかってしまいました。
水の上に出ている鼻をふんふんと動かします。そして、ちょっとだけ左の方を向いて、前足を伸ばしました。
その先には、真っ白いもの。
「にゃああ〜」
ネコかきをいっしょうけんめいにして、にゃごにゃごと泳いでいるネコさんがいました。
クマさんは、ネコさんをつかまえると、肩車しました。
びしょぬれのネコさんがクマさんの頭にもたれかかります。
「ネコさん、いつもならもっと泳げるのにどうしたの?」
「び、びっくりしたにゃあ〜」
「あ、ごめんごめん、早く湖に入りたくて」
「にゃあ〜」
ネコさんは肩車をされたまま、クマさんの頭を肉球でぽすぽす叩きました。
「せめて先に言ってほしかったにゃあ〜」
「だって、湖にくるたびにやってたから…」
「にゃあ〜」
「ごめんごめん、ちゃんと言うから」
「やくそくだにゃあ〜」
「うんうん」
クマさんはネコさんを肩車したまま、歩き出しました。
「カメコおばあちゃんの舟が見えたとおもったんだけど…ネコさん、見えない?」
「にゃあ…うーん、うーん」
「ちょっと早くついちゃったのかな」
「あ!カメコおばあちゃんにゃ!」
ネコさんは、びしゃびしゃの前足をぶんぶんと元気よくふりました。
「カメコおばあちゃ〜ん、こっちにゃあ〜」
湖の反対側から、ゆっくりと木の舟が近づいてきました。ぎいこぎいこと、音がします。
舟がだんだんと、近づいてきました。
ネコさんはもう一度大きな声で叫びました。
「カメコおばあちゃ〜ん、ここにゃあ〜」
「ありゃあ〜、ネコちゃん来たのかい。よく来たねぇ〜。おいしいスイカをもらって来たから、食べようかねぇ」
真っ黒な顔で笑うカメコおばあちゃんです。
カメコおばあちゃんは、ぎいこぎいこと櫂を揺らしています。おばあちゃんの舟は小さく、大きなスイカがひとつ乗っただけで、いっぱいです。
「カメコおばあちゃん、岸の方までおしていこうか?」
クマさんがネコさんを肩車したまま、聞きました。
「いんやぁ、いらないよお。それより、スイカ食べるからね〜。体をかわかしてきなさいよ」
「うん、わかった」
「わかったにゃあ〜」
ぎいこぎいこと舟をあやつるカメコおばあちゃんは、とっても長生きで、ネコさんやクマさんよりもたくさんのことを知っています。
カメコおばあちゃんのお話を聞くのは、ネコさんにとって、とても楽しみでした。
クマさんがカメコおばあちゃんの舟を揺らさないように、ゆっくりと戻り、岸にあがります。
ようやくネコさんもクマさんの肩から降りれました。
「にゃあ〜、たかくておもしろかったにゃあ」
「ネコさんは、高いところが好きだよね」
「にゃあ〜」
ネコさんとクマさんは、水から出てぼんやりと岸辺の石に座っていました。
お日さまはまだまぶしいけれど、湖に入ったばかりなので、それほど暑くありません。
「やっぱり、こっちの方が涼しいにゃあ」
ネコさんはゴロゴロと喉を鳴らしました。
その後は、カメコおばあちゃんが出してくれたスイカを食べました。スイカを食べた後は、また湖の中に入って遊びました。そして、お日さまが山の中に消えてしまう前に、晩ごはんを食べました。
もちろん、甘い味噌で炒めた小さなジャガイモも、フライドポテトも食べました。そのほかに、カメコおばあちゃんが漬けたナスの漬け物に、枝豆の入った豆ご飯、味噌をからめたキュウリを食べました。
「ふにゃあ〜。おなかいっぱいだにゃあ」
ネコさんは眠くなって、前足で目をこすりました。
「じゃあ、納屋から藁をもっておいでよ」
「にゃあ〜」
「はぁい」
ネコさんとクマさんは、納屋から藁の束を運ぶと、空になった荷車の上に乗せました。
荷車の荷物は、ぜんぶカメコおばあちゃんの石蔵の中にしまってあります。明日の市場に持っていくものとカメコおばあちゃんへのお土産なので、ひんやりとした石蔵の中に大切に置いておくのです。
「あしたのいちばがたのしみだにゃあ…」
「その前に、畑に行くからねぇ。あしたは、早起きさんになってもらおうかねぇ〜」
「はやく…おきるにゃあ…」
ネコさんは、藁束の上に寝転がると、眠くて眠くて仕方がありませんでした。
お星さまがクスクスと笑っているようです。星がゆっくりと瞬いています。
「…おやすみにゃあ」
「おやすみ、ネコさん」
クマさんもネコさんと一緒に藁のベッドに寝転ぶと、あっという間に眠ってしまいました。
それを見ていたお星さまがクスクスと笑います。
今夜はとても星がよく見えます。星の川が流れる音が聞こえてきそうなほどです。
ネコさんは、夢を見ています。
流れ星がひゅんひゅんと飛んで、山に落ちるとそこから虹がどんどんできていきます。
「すごいにゃあ〜」
ネコさんは大喜びです。前足をぽすぽすと打ち合わせて拍手をします。
拍手をするたびに、ぐるんぐるんと白い体がまわります。
あんまりにも回りすぎて、目が覚めてしまいました。
ネコさんは、目が覚めるとカゴの中に入っていることに気がつきました。
あれれ?ネコさん、どうしたの?
「にゃあ?」