ネコさんと水ようかん
あるところに、大きな森がありました。
その森では、たくさんのいきものが、のんびり気ままにすごしています。
冬は、ぽかぽかのお日さまがあたって、とてもほかほかです。
夏は、森のたくさんの葉っぱが日よけになって、涼しい風が吹いてきます。
けれど、この夏はちょっとお日さまが元気みたい。お日さまがお休みの時間につかうまっ白い雲が、あんまり使われていないみたいです。
今日も青い空の真ん中で、お日さまが元気です。
その元気なお日さまの下にある大きな森にも、夏の陽射しがぎらぎらと照りつけています。
その森の中では。
「あついにゃあ〜」
まっ白な毛並みのネコさんが、森の木陰でにょーんとのびて、ひっくり返って寝ています。
「ここもあついにゃあ…」
ごろごろと転がって、涼しいところを探しています。
「にゃあ…」
大きな木の根もとにぶつかって止まりました。
木の上に登っても、木の下で寝そべっても、暑いままです。
ネコさんは、考えました。
涼しいところは、どこだろう。
水があるところは、涼しいはずだ。
「カメコおばあちゃんのおうちに行きたいにゃあ」
カメコおばあちゃんは、湖の近くに住んでいるまっ黒なカメのおばあちゃんです。
はたらき者で、毎日田んぼや畑でせっせと畑しごとをしています。
夏になったばかりのころ、ネコさんはクマさんに誘われて、カメコおばあちゃんのジャガイモ畑に行きました。
そこで、ふうふうと息をきらせながら、ジャガイモをたくさん掘りました。
とても大変だったけれど、その後に食べた小さなジャガイモを甘いみそで炒めたおやつは、今思い出してもヨダレが出ます。
「……ジャガイモ、たべたいにゃあ〜」
ネコさんはゴロゴロとのどを鳴らします。
「そうにゃ!クマさんのおうちに行けば、ジャガイモを食べられるにゃ!」
カメコおばあちゃんが、「おてつだいした分だよ」と言って、クマさんの荷車いっぱいにジャガイモを分けてくれていました。
ネコさんのおうちは、小さくて置くところがないからと、ジャガイモはすべてクマさんの家にあります。
ネコさんは、湖のことはすっかり忘れて、ジャガイモと甘いみその味で、頭がいっぱいになりました。
さっそく、クマさんのおうちに向かいます。
その途中、ハスの葉っぱをガマガエルのおじいちゃんからもらいました。
「ひよけになって、涼しいにゃあ」
ネコさんは、にこにことガマガエルのおじいちゃんに手をふりました。
ぎらぎらのお日さまに照らされながら、ネコさんは、ぽてぽてと歩いてクマさんのおうちに着きました。
「クマさ〜ん、ジャガイモ食べたいにゃあ」
木でできた大きなクマさんのおうちは、ドアが開けっぱなしになっています。
ネコさんはハスの葉っぱを持ったまま、中に入ります。
「クマさーん、いないのかにゃあ?」
ネコさんがうろうろと家の中を歩いていると、外から声が聞こえました。
「ネコさーん、お皿をもってきてー」
「にゃあ、クマさん、お外にいたんだにゃあ。お皿、おさら」
ネコさんは、ハスの葉っぱをテーブルに置いてから、戸だなからお皿を出して外にむかいました。
井戸のところにクマさんがいます。
「ネコさん、お皿を持ってて」
クマさんはそういうと、なわを引っぱって、井戸の中からザルをあげました。
そして、ザルの中から竹の筒を出しました。
「クマさん、それはなんだにゃあ?」
「水ようかんだよ」
クマさんはそういうと、ネコさんのお皿の上で竹の筒をさかさにしました。
ぽんっ
つるん
「にゃにゃにゃ?!」
お皿の上で、つるんっとすべります。
黒っぽいツヤツヤしたものです。
「水ようかんだよ」
「水ようかん…」
クマさんはネコさんに、竹で作ったフォークを渡します。
「小豆をあま〜く煮て、カンテンで固めたお菓子だよ」
「いただきますにゃあ…」
おそるおそるネコさんは、お皿の上にのった水ようかんにフォークをさします。
つるんっとした水ようかんをひと口、食べます。
口の中が冷たくて、あまいです!
噛むと、やさしい甘さで、小豆の味が口いっぱいに広がります!
「おいしいにゃあ!」
ネコさんは、ぱくぱくと水ようかんを食べはじめました。クマさんは、井戸の中からザルをいくつもひっぱり出すと、中に入っていた竹の筒を木箱にうつしました。
「味見もしてもらったから、合格だね」
「ごうかくにゃあ!……にゃ?」
「明日の市場にもって行くんだ」
「いちば?」
「うん、カメコおばあちゃんのところに行くけど、いっしょに行く?」
「カメコおばあちゃんのところに、いっしょに行くにゃあ!」
ネコさんはうれしそうに、まっ白いしっぽをふぁっさふぁっさと揺らします。
あれれ?ネコさん、ジャガイモの甘みそ炒めはどうしたのかな?