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第五話 『黄金の秘宝』の正体

「結婚してほしい……です」


 赤い顔でそう言われて、アタシは一瞬迷った。

 いつか来るだろうとは思っていたが、いざ実際にその時が来たとなるとドギマギしてしまう。


 アタシは悩んだ。一体どう答えればいいのかと。

 でも答えが出ないので、いっそのこと正直に言ってしまうことにした。


「アタシはあんたに興味が湧いた。悔しいが、好きになっちまったよ。だから、受け入れてやる。……『黄金の秘宝』を条件に、な」


 アタシはこれぞ盗賊の意地とばかりにお宝の名前を言った。

 元々、それを目的に来たのだ。条件に出しても構わないだろう?


「……わかりました。では、『秘宝』を花嫁への贈り物として渡すことを、約束いたします。それで本当にいいんですね?」


「ああ。一度言ったことは曲げねえ」


「よかった」と本当に嬉しそうにザヌープがはしゃぐものだから、アタシは何度目になるか、呆れてため息を吐いた。


 これでもうポトと二度と会えなくなってしまう。この決断が正しいのかどうか、アタシにはわからなかった。


「ポトには悪いことしたな……。きっとアタシのこと、待ってるだろうに」



******************************



 すぐに結婚式の日程が決まり、あっという間にその日がやってきた。


 久々に監禁部屋から出て、自由になる。ざっと一ヶ月ぶりだ。


「まあ、自由になるって言っても見張りはたくさんいるんだけどな」


 アタシは今、従者たちに囲まれている。

 女もいれば力の強そうな男もいる。よほどアタシが逃げる心配をしているように見えた。


「逃げやしねえよ。大体、一人で逃げられるとも思えねえし」


 そして向かったのは衣装室。

 そこで花嫁ドレスに着替えるのだ。アタシはヒラヒラした服を着るのは初めてなものだから、内心ワクワクしていた。


「アタシがお姫様になるなんて、思ってもみなかったぜ。人生わかんねえもんだな」


 ポトにも見せてやりたい、そう思って、アタシは慌てて首を振る。

 いつまで彼のことを考えているのだろう。もうきっと会うことはないのに。


 純白のドレスはガリガリのアタシの体を、ふわりと包んでくれる。着るのは面倒だったがなかなかに可愛かった。


「飾れば輝く、か」


 ポトに昔、言われたことがある。

『姐さんはきっと飾ると輝くよ』と。


「チッ。だからあいつのことは忘れろって言うのに」


「――エステル様。お約束のものをお持ちしました」


 その時、従者が突然そう声をかけてきた。

 アタシは今までの煩わしい思考を全部吹き飛ばして振り返る。そこには、金色の小箱があった。


「おっ、それが『黄金の秘宝』!? 意外に小さいけどどんなものなのか見せてくれ!」


「はい。この王国に伝わる、大切なものでございます。くれぐれも壊さぬよう」


 渡された小箱の蓋に手をかける。

 一体この中には何があるのか。鼓動を高鳴らせ、箱を開けると――。


 中には、黄金に輝くティアラが入っていた。


「……これが」


「そうです。王家に代々伝わる、花嫁儀式のティアラ。それこそが『黄金の秘宝』」


 アタシは思わず見入ってしまった。

 ティアラは細やかな装飾が施されており、光を反射してキラキラと輝いている。


 さすが、『黄金の秘宝』だ。

 これは売ったらかなりの額になる。それこそ、遊んで一生暮らせるくらい。


「……頭にお飾りください。もうすぐ式が始まります」


 言われて見てみれば、確かにあまり時間がないようだ。アタシは「けっ」と言ってティアラを被った。


 花嫁用、ということはアタシのものになるわけではないのだろう。そこがかなり残念だ。


「まあいい。『黄金の秘宝』、今だけだとしてもアタシの手にあるんだ」


 そう思うと笑顔になった。



******************************



「――お美しいです、エステル」


「そうだろ? さあ、とっとと始めようぜ」


 ザヌープの方もいつもにも増してきちんとした服を着ていて、その姿はとても凛々しい。

 アタシは少し身が引き締まる思いだった。


「これから、こいつと結婚するんだな」


 変な気持ちだ。

 一生、結婚なんてしないだろうと思っていた。例えポトと相思相愛であったとしても、きっとぐずぐずダラダラいって、お互いに老いてしまうのがオチだろうから。

 人生、本当にどうなるかわからない。


「――」


 アタシは、一旦ザヌープ王と離れ、花嫁として壇上へ上がる。

 これからアタシは花嫁になるんだ。このたった一ヶ月だけを過ごした、この国の王妃様になるんだ。


 ザヌープも壇上へやってきた。それを見て、司祭が何やら話し始める。


「さあ、誓いの言葉を――」


 そこへ突如、乱入者が現れた。


 式が執り行われている広間の大扉を開けて、人影が覗く。


 アタシより頭ひとつ分以上低い背丈。少し弱々しい体つき、ボサボサの金髪、青年に成り切っていない幼さを残した顔。


 アタシはそれを見て、声が出なくなった。愛の誓いも何もかも、一瞬でそんなことはどうでも良くなる。


「何者ですか」


 いつもの優しいさのカケラもない、氷のように冷たい声音でザヌープが問いかける。

 侵入者はまっすぐこちらを見据え、答えた。


「僕はポト。姐さんを、エステル姐さんを連れ戻すために、来た」

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