第三話 変な王様
アタシは今、兵士たちに連行されている。
あの後アタシは、兵士の首を切ることは愚か、逆に押さえつけられてしまった。
その素早さと言ったらもう。そういうわけで、『黄金の秘宝』を目にすることすらなく捕まったのである。
「クソ。クソクソクソクソッ! おい兵士ども、放しやがれ。腕をそんなきつく掴むな。爪の跡ができるだろうが!」
「罪人のくせに偉そうな口を叩くな」
冷たくそう言われると同時に、口に何やら布を挟み込まれた。これが噂の猿轡か。まさか本当に嵌められる日が来るとは、夢にも思わなかった。
連れて行かれた先は、先ほどの宝物庫よりさらに豪華な装飾がなされた部屋。アタシは一眼ですぐわかった、王様の部屋だ。
「国王陛下。入ってよろしいですか?」
三人の兵士のうち、一番リーダー格と思える年長の男が、扉に向かって呼びかける。
中から「ああ」と若い男の声がして、扉が開けられた。
――玉座の上にいたのは、年若い青年だった。
黒髪を綺麗に整えて、お高そうな服を着ている。いつも金髪をボサボサにしたポトとは、まるで違う種族のように見えた。
けれど一応、人間みたい。というより、多分この国の王が彼なんだろう。
「――。兵士よ、そこの女性は何をしたのですか?」
青年が口を開いた。獣のような低い声だったが、口調はとても柔らかい。
「宝物庫の前へ現れ、突然ボロ刀で斬りかかって参りました。格好から見て、盗人で間違いないかと」
「モゴモゴモゴ」
アタシは王様に何か言ってやろうとしたが、猿轡が嵌められているため喋ることができない。
王は言った。
「わかりました。では猿轡を外してやりなさい。体の拘束は、まだ解かないように」
王の命令で猿轡が外される。
ああ、やっと喋れるぜ。
「ぷはぁ! 王さん、ありがとよ。アタシは女盗賊のエステルだ。王さんのお宝を盗みに来てやった。だから放しな、今すぐに」
「それはできない相談ですね」何がおかしいのかくすりと笑って、王が近づいてくる。
「なら無理矢理にでも逃げ出してやらぁ! どうせお前はアタシを処刑するつもりなんだろ!? アタシはまだ死にたくねえし、『黄金の秘宝』を手に入れてポトのところに戻るって決めたんだ!」
アタシは暴れながら、周りを見回した。残念ながら逃げ道は入ってきた扉しかないが、そこには門番らしき男が立っている。
その上、あいつを倒せる倒せないの前に、アタシを拘束している男から逃れなくてはならない。アタシにそんなことができるのか?
でも処刑されるのだけは嫌だ。どうしたら逃げられるだろう。ポトがいればよかったのに……。
しかし、次の瞬間王が放った言葉は、耳を疑うようなもので。
「――よろしい。私はあなたが気に入った、故に処刑しないであげましょう」
――。
――――――――へ?
聞き間違いか? それとも気が狂った?
いやでもアタシはあくまで正気だし、耳にも自信がある。ちょっと待て、今、なんて言われた?
「き、気に入ったって……」
「そうです。兵士たちよ、彼女を空室へ案内しなさい。くれぐれも逃げられないように、鍵をかけるのですよ」
どうやら兵士三人も呆気に取られているようで、口をポカンと開けている。
「何考えてんだ、この王さん」
アタシも全くの同感だった。
アタシの美貌に惚れられた?
チリチリの茶髪を伸ばし放題で、乳も嫌になるくらいにペタンコで、尻も子供と間違うくらいに小さい、このアタシが?
そんなの、まさか中のまさかだ。
ポトでも最初は「ペタンコ姐さん」と言って馬鹿にしていたくらいだ。今でこそ好かれているが、あれは長年暮らすうち、ということなので。
「何考えてんだ?」
もう一回同じことを言って、アタシは首をかしげる。
そのまま部屋を出て、なんだか立派な部屋に連れて来られた。
「……客人用の寝室だ」
「なんでアタシが客人? 罪人ってさっき言ってたじゃねえか」
「そうなのだが、よくわからん!」
年長の兵士ですらお手上げ状態。
アタシはあの王様の名前も知らないし、性格なんてもっと知らない。だが変人なのは、一眼でわかった。
――ああ。アタシ、この先どうなっちまうんだろう。
すぐに首を落とされなかっただけでもマシなのかも知れないが、アタシは頭を抱えたくなったのだった。