第一話 エステル
「はぁぁ、今日の収穫はこれだけかよ。盗賊も楽じゃねえや」
アタシはそう言って、今日の分を机に広げる。
一台の金持ち馬車を襲ったが、あまり金品はなかった。毎回命の危険を冒してやってるというのに、割に合わないにもほどがあるというものだ。
「でも姐さん。これを売り飛ばしちまえば一週間は暮らせるよ」
ため息を吐くアタシに、弟分のポトが慰めるように言ってくる。でもアタシは別に慰めて欲しいんじゃない。
「だから何だって言うんだい。すぐに尽きるだろうが。アタシはね、もっとデカい仕事を狙いたいんだ。こんなちょろちょろやってたら、人生終わっちまうよ」
もっともっと大きな宝が欲しい。もっともっとスリルのある生活が欲しい。
それと今の生活とは、大きくかけ離れすぎているのだった。
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――アタシはエステル。
家名なんて上等なものはない、平民――いや、それ以下の女。
二十五にも差し掛かろうという年頃で、未婚。毎日食うのが精一杯、そんな暮らしをしている。
穴蔵に身を潜めて、アタシは女盗賊として毎日をやり過ごしていた。
仲間はポトだけ。元々アタシは一匹狼だったが、数年前にポトをたまたま道端で拾って、それ以来慕われている。
八歳年下だけど、あいつのことは正直気に入っている。男として、ね。
それはともかく、もうずっと山奥に引きこもって、時たま麓に出て馬車を襲う、そんな生活を続けていたアタシだけども。
ある日突然、ビッグニュースを耳にした。
「え? 隣の国に『黄金の秘宝』だって?」
「そうなんだよ姐さん。街に買い出しに行った時、聞いたんだけどね」
どうやらポトがいい話を持ち帰ってきたらしい。
「もっと詳しく聞かせろ!」
「姐さん食いつきがいいなあ。ほら、テーブルに身を乗り出さないでよ。スープの器が傾いてるじゃないか」
ポトの言葉なんてお構いなしに、アタシは話の続きを催促する。
すぐに諦めたらしく、ポトはその耳より話を教えてくれた。
簡単に言ってしまえば、ここより東にある隣国の城に、『黄金の秘宝』というデカいお宝があるという。
隣国とこの国は実は冷戦状態で、渡ることは難しいんだとか。でもアタシは、一も二もなくその話に飛びついた。
「そんなでっかいお宝、夢があるじゃないか。……盗りに行ってみてえもんだ」
アタシには望みが一つだけある。
それは、世界一の女盗賊になることだ。元々捨て子だったアタシは、色々な訳あって盗賊の道に進んだ。今はしがない山賊だが、絶対に大盗賊になってやるのだと決めたのだ。
「こんな絶好の機会、逃せるはずがねえ。よし決めた、『黄金の秘宝』、狙ってやるぜ」
アタシはニヤリと笑った。