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第11話 5~6/2001・旅の味、出会い

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【神暦1498年6月5日

 王都まであと徒歩で2日という所にあったジルエという宿場町で今日の宿を取る。3日ぶりにちゃんとした場所で取った食事は美味かった。師匠もそう言えば旅の醍醐味、とか言ってたな。なんとなく分かる気がした。

 野営は慣れているつもりだったけど、自分の知らない場所に出たことで気疲れが溜まっていたらしい。考え事は明日にして今日は早目に休むことにする】


メリエーラ王国・パルハ北街道途中の宿場町ジルエ


 その日の夕刻前、ケヴィンはジルエという町に辿り着く。

 古くはこの街道を通る人々らが、この辺りでまとまって野営する事が多かったらしく、自然と宿場町へ発展していったらしい。

 そういう経緯をケヴィンは訪れた宿の女将から聞いていた。


「若いのに一人旅って珍しいね。

 どこ行くんだい?」

「王都だ」

「そうかい。

 パルハは今の季節賑やかだよ。

 収穫物を卸しに地方から訪れる人たちが多いからね」

「へえ……」


 ケヴィンは女将の話を興味深く聞いていた。

 そんな様子をを見て一つ気付いた女将はケヴィンにまた尋ねる。


「お客さん、たぶんパルハ行くの初めてなんだろ?

 ならきっと驚くだろうね。

 あたしら田舎者にとっちゃ、あんな都会は眩しすぎるってもんさ」

「そういうものか」

「そうそう。見たところあまり荷物持ってないし商人って感じじゃないね。

 あそこに何しに行くんだい?」


 随分と話好きな女将であるらしい。

 いつもこういう距離感で客と接しているのだろう。

 こういうのも悪くない、と宿泊初経験のケヴィンは結構楽しんでいた。

 ダナ、と名乗ったその女将にケヴィンは隠さず答える。


「人を探しに。

 後は折を見て護導士として活動できれば、と思ってる」

「護導士ぃ⁉ お客さんそんな細身でやっていけるのかい?

 ああいう職業は体が資本、何だか心配だねえ……。

 今からでもいいから腹一杯食べていきな、夕飯と朝飯大盛にしといてやるから!」


 護導士とは戦う術を持たない一般民衆を守る人々の総称である。

 昏き扉から出てくる魔族と戦いで最も体を張っていることから、ダナの指摘は間違ってないだろう。

 もっとも、ケヴィンは細身に見えるだけで中身は結構な筋肉質なのだが。

 ただ、ケヴィンとしてはダナの厚意をありがたく感じたので、素直に受け取ることにした。


「ありがとう。世話になる」

「いいんだよ。

 この街道の平和も言ってみれば護導士さんたちのお陰さ。

 お客さんがそれになりたいっていうなら応援するだけだよ」


 そう言いながらダナは食堂へとケヴィンを案内していった。


 その日の夕食は豚肉と野菜を一緒に煮込んだ汁物だった。

 見た目はよくある料理、だが良いにおいのするそれをケヴィンは一口吸ってみた。


「……⁉ 美味しい!」

「気にいって貰えたかい。

 ウチの料理は旦那が海の幸で出汁取ってるんだ。

 評判も良いんだよ」

(コクコク)


 頷きながらケヴィンは一心に食べ続ける。

 ダナは「気持ちのいい食べっぷりだったねえ」とけらけら笑っていた。


 食事が終わり、部屋で休むケヴィン。

 いつもの量の5割増しくらい食べたので腹の中が重たく感じている。

 だがその顔は満足感に溢れていた。


「そう言えば師匠も言っていたな。

 旅先で出会う人と食事は旅する上での大きな魅力の一つ、だって。

 今ならその気持ちが分かるな……」


 腹が膨れた事で満たされたのか、いつもより早い時間でケヴィンは眠りについたのであった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【神暦1498年6月6日

 王都が見えてきた。徒歩であと1日もないといったところだ。

 今日の野営場所を考えて街道の周りを見渡していると王都に近いからか少し人がいた。オレと同じように野営するのだろうな。

 そんな風に思っていたら一番近くにいた二人組に混ぜてあげると声を掛けられた。

 了承したので互いに自己紹介。二人組は両者とも女性。片方の眼鏡をかけたヒト族女性はミュリエル、もう片方はエルフ族でエムと名乗った。

 二人は護導士でこの近くにある村へ仕事で訪れたらしい。

 オレと似たような年齢の女性二人だけで討伐なんてさせるのか?と疑ったが、そうではなく治癒魔法を必要とする仕事だったらしい。

 師匠から聞いた護導士の仕事具合から討伐中心だと思い込んでいたようだ。自分のいた世界が狭かったのだと実感する。

 その後いくらか話をして、夜番を交代ですることに決めて今日は休むことになった】


メリエーラ王国・パルハ北街道


 街道の上り路が終わり下り路へと差し掛かる。

 ケヴィンが空を見上げてみれば、陽の位置は沈みかけようとしていた。

(昨日泊まったジルエが王都から2日の距離って話だったから、そろそろ見えてもおかしくないはず……)

 ちょうどそのような事を考えていたケヴィンの目に、多くの建物が奥に向かって広がっている光景が入ってきた。

 ようやく見えた目的地にケヴィンの心は軽くなる。


「おっ、あれだな。どれどれ……。

 『遠きを視る』――視覚昇」


 ケヴィンは“視覚昇”の魔法を唱えた。

 視覚昇の魔法は行使者の視力を引き上げ、遠くのものを近くにあるかのように見せる。

 行使者の適性・力量によって数倍から100倍程度までばらつきがあり個人差というものが顕著な魔法だ。

 ちなみにケヴィンが行使しているのは100倍である。

 ケヴィンの目には多くの建物が200~300m先程度にあるかのように見えており、逆算して20~30kmに目的の王都があるのだと知れた。


「うん。あと1日くらいの距離で合ってるな」


 そう言いながら、ケヴィンは周りを見渡してみる。

 今ケヴィンが立っている場所は低めの丘の上。

 王都周辺は広い平野であり、周囲は山地で囲まれているという、いわゆる盆地だった。

 湖などの大きい水源は見当たらないが、中小の河川が幾つもあるのが確認できる。

 昔ワイスタに尋ねたところ、気候も穏やかで災害らしい災害というものも起きた事が無いとの事。

 人が集まるには最適な土地であると言えた。


 もう夕刻になっているので野営する場所を決めたいところだが、

 ケヴィンとしては出来れば平地まで行って休みたいと考えていた。

 もう少し、夕焼けに染まる遠くの王都を眺めて歩きたいと思っていたのもある。


 そのうちに下り路を終え、先は平地だけという場所になった。

 周りには幾つかの焚火の灯りや、馬車の集まりがある。

 それぞれに野営している人たちがいるのだろう。

 自分はどうするかと、ケヴィンは周りをきょろきょろと見回していたその時である。

 ケヴィンの近い場所から女性の声が飛んできた。


「おーい、そこのお兄さん!

 ……聞こえてないのかな?

 おーーい、そこの、細身で、右目隠して、一人寂しく、物欲しそうに、周りを羨ましそうに見つめているお兄さーーん!」

「ちょ、ちょっとエム!

 ダメだよ、失礼な事を言ったら」


 ケヴィンは声が上がった当初、自分に掛けられているものだとは思っていなかった。

 何しろ見知らぬ土地である。女性に声を掛けられるという心当たりがあるはずも無い。

 しかしその女性が右目の事まで言い始めたので、自分の事か?と思い至り、声のする方を向く。

 すると続く声は勝手な事を言っているではないか。

 ケヴィンは眉をひそめて、このまま声の主に応えてもいいものかと悩み始めた。

 そんなケヴィンの心境など知る由も無く、声の主はまた話し掛けてくる。


「あっ、気付いた気付いた。

 そこのお兄さん、野営場所探してるんでしょ?

 混ぜてあげるからこっちおいでよ」

「もう……エムったら」


 そこには二人の女性が焚火を前にして並んで座っていた。

 声を掛けてきた方の女性は、こっちこっち、と手招きしている。

 もう一人の女性は申し訳なさそうにケヴィンに向かって頭を下げている。

 仕方なく、ケヴィンは女性たちの方へと向かって行き話をする事に。


「……混ぜて貰えるって聞こえたけど、いいのか?」

「いいもなにも、そのつもりで呼んだんだってば。

 ちゃんと聞いてなかったの?」

「エム! 本当にすいません。

 突然お呼び止めした上に、この子が失礼な事を」


 頭を下げている方の女性はちゃんと礼儀を知っているようだった。

 長い髪がさらりと流れる。焚火の灯りがあるとは言え既に夜であったので、色まではよく分からなかったが、薄い暖色のようだ。

 髪が流れるのを、ほぅ、とケヴィンが感慨深げに見つめていると、下げた頭を戻した女性と目が合った。

 その女性で最も特徴的な大きな丸眼鏡。その奥の澄んだ瞳と。

 見つめられていた事に気付くと、頬が赤く染まり始めた。


「あっ、あの、えっと、何……か?」

「?…………あっ、そうか。

 すまない、人をジロジロ見るのは失礼になるんだったな。

 いや、髪が流れてるのを見て綺麗だなって思って。

 オレの周りに髪の長い人いなかったからさ」

「~~~~っ」


 言われた女性はさらに顔を赤くして身を小さくしてしまった。

 その様子を見てもう一人の女性の目が輝く。

(おやおや? これはこれは。面白くなりそうな予感……!)

 爛々と光る目に浮かぶ悪戯心。

 だが、彼女は慌てない。こういうのは機が大事だと知っているのだ。

 内心とは別にケヴィンに向かって話を向ける。


「お兄さん……ってよく見たら歳近い感じだね。

 あたしの名前はエム、って言うの。

 見ての通り、エルフだよ」


 エム、と名乗ったその女性は特徴的な長い耳が示すようにエルフだった。

 暗がりでも分かる金髪を全て後ろに流していて、磨けば光りそうな額をさらけ出している。

 それは人懐っこい笑顔を浮かべる彼女に良く似合っていた。

 ケヴィンはそんなエムに名乗り返す。


「見た感じはそのようだ。

 オレはケヴィン。

 こっちも見ての通りヒト族、16歳だ」

「あ、本当に近いです。

 私はミュリエルと言います。

 同じくヒト族16歳で、エムは17歳ですね」


 同い年と分かり緊張が解れたのか、優しく笑いかけながらミュリエルも名乗る。

 ケヴィンの事を話しやすい人だと考えたようだ。

 ここで、ケヴィンとはミュリエルの丁寧な言葉遣いが気になったので、口を出す。


「ほぼ同い年ならオレの事は呼び捨てでいい。

 敬語もいらない。オレ自身、敬語苦手だしな」

「それじゃ、あたしは呼び捨てにするね。

 あたしの事も呼び捨てにしていいよ。

 よろしく、ケヴィン」

「えっと、私は同年代の男の人を呼び捨てにするのはちょっと……。

 ケヴィン君、って呼んでいいかな?」

「自由に呼んでいいよ」

「良かった。

 じゃあケヴィン君、私からもよろしく。

 あ、私の名前も呼び捨てでいいからね」


 笑顔でよろしく、と言ってくる二人にケヴィンも口元に笑みの形にしてよろしく、と返礼した。


お読み頂きありがとうございました。

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