空っぽの僕
昼食を食べ終えた後、僕としの子は同じ建物内にある、本屋に立ち寄った。
本を読んだり、選んだりする事は子供の頃から好きだったので、僕自身は嬉しいのだが、桜哉は本が好きではなかった。
その為、今は自室以外では本を読まない様にしているので、正直言って苦痛だ。
しかし、しの子が寄りたいと言ったのだから。
僕は桜哉を演じる為、本来見たいコーナーには行かず、しの子について行った。
「見たいとこ見てていいよ」と、しの子は言ってくれたが、僕は、「見たいとこなんて無いから」と笑って言った。
しの子が目的の本を買うと、僕としの子はそのまま駅へ向かう事にした。
駅に着くと、しの子が「今日はありがとう。お陰で楽しかった」と少し頬を赤くし、嬉しそうに笑い言った。
僕はしの子の笑った顔が見れて嬉しく、つい返答を忘れそうになったが、「こっちこそ、楽しませて貰ったよ」と、少し笑いながら言った。
僕の返答を聞いた後のしの子の表情は今までに見た事も無いほど、嬉しさに満ちていた。
夕方とは言い難い時間ではあったが、その時の太陽光がしの子の顔を更に明るくしていた。
電車の中では何気無い会話をしながら、電車に揺られていた。
駅に近ずいた時、しの子が突然「この後少し時間空いてる」と聞いてきた。
僕は「うん。大丈夫だよ」と、いつも通りの桜哉の言い方で返した。
すると、しの子は少し嬉しそうに笑い「ありがとう」と言った。
駅に着き、電車から降りるとしの子は駅近くの喫茶店へ向かって歩き出した。
しの子はその喫茶店へ着くと、そのまま入っていった。僕もしの子に続いてその喫茶店に入っていった。
しの子は店内の角の方の席に腰掛けたので、僕はしの子の向かいに座った。
間もなくして、店員が来て水とおしぼり、メニューを持ってきた。しの子は店員に少し、頭を下げるとメニューを開いた。
「桜哉君は何かたのむ?」と、聞いてきた。
「僕は珈琲だけでいいかな」と、言うとしの子は「そっか。なら私はカフェ・オレにしようかな」と言い、テーブルに備え付けられている呼び出しボタンを押し、店員を呼び注文を言った。
しの子は店員が見えなくなった後、僕の方をまっすぐ見据えて、
「もう、こんな事やめない」と、抑揚も無く言った。
しの子の声は静かな店内ではよく聞こえたはずだったが、僕はその言葉を自分の中で認めたくなかったのか、一瞬理解出来なかった。
数秒経った後、僕は口を開き「何で急に…」と少し戸惑いながら言った。
「君がどうして桜哉君の代わりをしているのかは、分かるよでも、正直言ってこのままじゃ、お互い前に進めないでしょ」と、少し、悲しそうに言った。
「そっ…そんな事無いよ」と、僕はあえて自信がある風に言った。しかし、
「そうだよ。君は、いつまでも桜哉君が死んだ時から何も進んでない。桜哉君が死んだ事実にすがって、私と接しているだけ。」
しの子は更に悲しそうに言った。
店員が近づいて来たので、僕としの子はお互い平静を装い、店員がカップを置き、去るのを待った。
店員が去った後、僕は口を開き「桜哉が死んだ事実にすがっていて何が悪いんだ。僕は、君を悲しませたく無くてやっているんだ」と、僕はしの子に向かって、少し強めな口調で言った。
「そんな事、君が勝手に決めつけないで」と、しの子も少し強めに言った。
その時、僕はしの子の本当の気持ちに少しだけ気付く事が出来た。
その後は、何も喋ら無かった。
その後は互いに、自宅に帰った。
しの子を自宅に送るか聞いたが、しの子はそれをキッパリ断った。
僕は自宅に帰るとすぐに、自室に向かった。両親は帰っていたが、特に声を掛けられもしなかった。
自室に戻った途端突然、自分は空っぽなんだと言う事に改めて気づいた。
そう言えば、僕の中に桜哉が入る前までは、僕の中には誰が入っていたのだろうかと、考えて見たが少しも思い出せなかった。こんな事なら、生きるのを辞めた方がいいのかなと思ってしまった。
この時初めて僕にはしの子が必要で、桜哉も必要だと言う事に気付いた。