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君と最後に選ぶ言葉  作者: 廣田
恋愛ごっこ
7/26

初めてのデエト

日曜日、僕は平日と同じ時間に起き、顔を洗い、歯を磨き、桜哉の私服と同じ服を着て、同じズボンを履き、リビングに向かう。

両親は仕事で出掛けているので、リビングには僕1人だけだ。

朝食は、冷蔵庫の中にある物で適当に作る。いつも通りの休日の朝だ。

違う事があるとするならば、桜哉が居ない事と、僕が桜哉の格好をしている事位だ。

そんな事を考えながら、作り終えた朝食を食べる。

桜哉は料理が出来ないので、普段は大体2人分作ることが多かったのだが…。

僕が作った料理を桜哉は何も言わずに食べていたが、僕の料理はお世辞にも美味しいとは言い難いものだ。

味付けから盛り付けまで、何から何まで適当だから。

そんな事を考えながら食べていると、想像以上に、食べ終わりが遅くなった。

僕は時計を見るとまだ8時半頃だったので、使った食器を洗う事にした。

シンクの中には、他にも両親が使ったであろう食器が置いてあったので、それらもまとめて洗い、片付けた。

そんなこんなで、時間は過ぎていき、気付けば、9時頃になっていた。

僕は、桜哉が生前使っていた物と同じ鞄に同じ財布と携帯、読みかけの本を入れ、家を出た。

家に鍵を掛け、駅に向かい閑静な住宅街を歩く。休日とは言え、この住宅街はいつも通り、静かだ。

ふと、腕時計を見ると駅に早く着いてしまうと思ったので、少しゆっくり歩く事にした。

僕が駅に着くと、そこにはしの子が既にいた。

「遅くなってごめん」と、僕が言うと、しの子は「ううん。大丈夫」と、いつも通りの優しい笑で許してくれた。

「所で、今日は何処へ行くの」と、僕が聞くとしの子は少し笑い、「それは着いてからのお楽しみ〜」と、言った。

しの子からそんな言葉を聞いたのは初めてだ。きっと、桜哉には普通に言っていたのだろう。

そう思っていると、上り電車が来て、扉が開いた。しの子が、電車に乗ろうとしたので、僕は慌ててしの子の後に続き、電車に乗った。

「なんか、休日に2人で電車乗ってると、デートしてるみたいで、ちょっと恥ずかしいなぁ」と、しの子が少し頬を赤くして言った。僕は、そんなしの子を見て、今桜哉の格好をしてなければ、僕は嬉しさと恥ずかしさで、何も言えなくなっていただろう。

だけど今は、桜哉の格好をしているので「そうだね」と、少し恥ずかしそうに笑い言った。


そのまま電車に揺られ、終電に着くと、しの子はいつもより、少し早く降りた。

僕は、しの子の後に続き電車から降りた。

しの子は駅のホームから出ると、僕が来るまで待ってくれていた。

「ごめん」と僕が言うと、「いいよ」と、優しく笑ってくれた。

「桜哉君、人混み苦手だもんね」と、少し悪戯に笑った。

そう、僕はあえてしの子より遅くに電車から降りたのだ。桜哉が人混みが苦手だと言う事を知っていたから。


しの子は「それじゃぁ、行くか」と言い、僕の半歩先を歩きながら、目的地へ向う。

「もう一度聞くけど、今日は何処へ行くの」と僕が聞くと、しの子は、「あっ。そう言えば、言ってなかったね。今日は、映画を見る予定です」と、しの子のキャラとは違う言い方で今日の予定を僕に伝えた。

実を言うと、僕は何となく分かっていたがあえて知らない振りをして、しの子の反応を見ていた。

僕は「映画なら早く言ってよ」と、少し不服そうに言った。「えへへ、ごめんね。でも、今日見るのは、前に桜哉君が見たいって言ってたのだから」と、しの子は少し悪戯に笑った。

何気無い会話をして、そのまま映画館に向かった。

何も喋らず歩いている時のしの子はいつも通りのしの子なのだが、今日は随分とコロコロと態度を変えるなと、思いながらしの子の横を並んで歩いた。


その後は映画を見た。正直に言うと、僕にとっては、興味の無い内容だったので、内心暇ではあったが、桜哉を演じ切るんだ、と自分に言い聞かせ我慢した。


映画を見終わった後は、映画館と同じ建物の中にある、ファミレスで昼食を食べた。

「なんか、2人だけで外で食べるなんて、ちょっと緊張するな」と、しの子は少し肩を竦めて恥ずかしそうに言った。

僕も「そうだね」と少し恥ずかしそうに笑って見せた。


まだこの時は2人の間に大きな壁があり、互いにその壁を超えない様にしながら接していた。

この壁を超えない方が良かったのか、悪かったのか、それはまだまだ先の話。

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