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君と最後に選ぶ言葉  作者: 廣田
恋愛ごっこ
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僕の使命

朝僕は桜哉が起きるであろう時間に起き、桜哉がリビングに来る時間にリビングに向かい、桜哉の食べ方で朝食を食べ、桜哉と同じ時間に家を出て、桜哉と同じ歩き方で駅に向かう。ふと、今日の母の顔色がいつもと違ったなと思った。それもそうだろう。今の僕は、僕ではなく「桜哉」なんだから。


電車が来る2分前、つまり桜哉が駅に着く時間に駅に着いた。

僕の目の前には、しの子がいた。

「おはよう」と僕は桜哉がしの子に向かって挨拶をする時と同じ言い方でしの子に挨拶をした。

すると、しの子は弾かれた様にこちらを見た。

その時のしの子の表情は、驚きと喜びが混ざった様な表情だった。

「おっ…おはよう…」としの子は口を少し動かしながら、言った。そして、「桜哉君…なの」と少し疑う様な目で僕に聞いてきた。

僕は一瞬何て言えばいいのか少し考えてしまったが、すぐに「そうだよ」と桜哉がしの子と話している時と同じ表情で言った。

「そうなんだ…」と言い、しの子は笑った。

「もぉ、ビックリさせないでよ」と言い、しの子は桜哉といる時と同じ表情に戻った。

そんなしの子を見て、僕は少し安心した。

僕は、メールでしの子に「もう二度と、君を傷付けない。だから、もう一度僕と付き合って下さい」と言う文章を送った。しの子は携帯の着信音を聞き、携帯を開き、少ししてから、何かをうち初めた。

すると、僕の携帯にしの子からのメールが届いた。そこには、「いいよ」とだけ書かれていた。

電車が来た。僕はしの子と一緒に電車に乗る。電車の中で桜哉が何を話していたのかは、詳しくは分からないが何となく記憶に残っているものから話そうと思ったが、「桜哉君って呼んでもいいかな」としの子が少し恥ずかしそに小声で言った。僕は、一瞬驚いたが、すぐに「いいよ」と桜哉と同じ言い方で返した。


その後はいつも通り、桜哉として僕はしの子と喋った。僕と喋っているしの子を見て、しの子はコロコロと表情を変えるんだなと、改めて思った。

電車から降りた後もしの子と喋りながら、学校に向かった。

こんな光景を見たら、桜哉は何て言うのだろうか。と、思ったが、死人に口なしと言うことわざがある位だ。今更、死んだ人間がどう思おうと、知った事では無い。

そんな事を考えながら、しの子と喋っている間に学校に着いた。僕はいつも通りの場所で靴から、上履きに履き替えた。そんな僕をしの子は少し怪訝そうな目で見てきたが、すぐに理解したのか、いつも通りの表情に戻った。

そうだ、本当に桜哉になるならば、戸籍も変えなければならないと思ったが、今の僕にとってはそんな事よりも、しの子の側でしの子の傷を治す事の方が大事だから。

だから、今はしの子の側から離れる訳には行かない。

「今日は一緒に帰れる」としの子が僕の方を見て聞いてきた。僕は、「いいよ」と言った。

僕の返事を聞いた後のしの子の表情は、僕本人には見せた事たも無い様な優しい表情だった。

この表情を見た時、僕は改めて自分の使命を思い出した。僕の使命は、「しの子の中から桜哉と言う存在を消さない」と言う事だと。

それと同時に、しの子の嬉しそうな背中を見ていると、少し落ち込む。しの子が求めているのは、僕では無く桜哉なのだから。

だけど、それでいいんだ。

だってこれは、僕が望んだ未来なんだから。

僕が存在する意味が今になって分かった気がした。

教室の窓から見た空は、あの日と同じで青く澄んでいた。雲1つ無い空の日光はいつもの2倍以上眩しい様に感じた。


今後、僕としの子がどんな選択をし、どんな道を選んで行くのかは、まだこれから先の話。

この時の僕は期待に胸膨らませていた。

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