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僕が家に帰った時、叔母は家に居なかった。
僕はいつも通り自室に入ると鞄を置いた。
鞄の中からテキストを数冊取り出し、机の棚からノートを数冊取り出すといつも通り勉強を始めた。
始めて数分が経過した。と、ここで僕はペンを動かしていた手を止めた。
今日はやけに気が散って仕方ない。
こんな時にやるのもどうかと思い、僕は本を手に取るとベッドの上に腰掛け本を読み始めた。
しかし、どうも落ち着かない。
何故、こうも落ち着かないのか少し理解出来ないが、強いて言うなら『嫌な予感がする』それだけだ。
そんな事を思っていると、玄関の扉が開く音がした。
きっと叔母が帰ってきたのだろう。
叔母はいつもならすぐにリビングに向かうはずだが、僕の部屋の扉を数回ノックして入ってきた。
「何か用ですか」と、僕が聞くと叔母はニッコリと笑って
「桜哉君にもお友達がいたのね。しかも、随分と仲が良かったみたいで」と、言ってきた。
「それがどうしたんですか」と、僕が言うと叔母は笑顔を歪ませ
「でも残念。今日がそのお友達の命日になっちゃうなんて」と、言った。
この言葉を聞いた瞬間、僕の嫌な予感の正体が分かった。
そして、それと同時に僕の背筋に悪寒が走った。
叔母は少し笑い、
「君は人を不幸にする事しか出来ないの」と、まるで僕の心に塗り込むかの様に言うと、僕が部屋から出ていった。
僕は何時だってそうだった。
大切な者を不幸にする。
あの時だって、今だって…。
僕は、ベッドの上に仰向けになり頭の中で必死に言い訳した。
仕方なかったんだ。何も出来なかったんだから。と、何を言っても許される筈が無い。そんな事分かってるんだ!!
あの日、小柳津と僕が出会って無ければ。
あの日、小柳津が僕に声を掛けなければ。
こんな事起こらなかったんだ。
分かってる。分かってる。僕が全部悪いんだって。分かってる!分かってるんだ…。
君と過ごした時間を少しでも楽しいと思ってしまった事がいけなかっんだ…。
だけど…。
そこから先は何も考えられなかった。
いや、考え様としなかった。
考えたら、僕が辛くなるから…。
その後、僕は声を上げて泣いた。ひたすら泣いた。
気がついた時には、朝になっていた。
僕はベッドの上で掛け布団も掛けずに寝ていた。
携帯のカレンダーで確認する。
今日は土曜日、学校が休みの日だ。
確認し終えると、僕は洗面所に行き鏡を見た。案の定、目が充血していた。相当泣いたのだろう。そんな事を思いながら、顔を洗い、歯を磨いた。
そしてもう一度部屋に戻り着替えをし、リビングに行った。
リビングには叔母の姿は無かった。しかし、ダイニングテーブルには朝食が置いてあった。
僕は珈琲を淹れコップに注ぐと、朝食を食べ始めた。
今日の朝食は味がしないと思ってしまう程の薄味だった。