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入学テスト当日。
僕は、電車で××××高校に行った。
実際に自分の目で見た校舎はホームページに載っていた物とは比べ物にならない程存在感が強かった。
今回の入学テストを受けたのは僕を含め3人だった。
テスト自体は難しかったが、都内の有名進学校だと分かっていたので、正直言って想定内の難易度だった。
テストを無事終えると、僕と他の2人は何事も喋らず、××××高校を後にした。
帰宅後、叔母に入学テストはどうだったか、と聞かれた。僕は嘘をつく必要性が無いと思ったので正直に感想を述べた。
その後、僕は自室に戻たが特にやる事も無かったので本を読む事にした。
僕が今読んでいる本は以前しの子におすすめされ、その場しのぎで読むと約束した本で、今日帰りに近くのブック〇フに立ち寄った際に購入した物だ。本を読む事があまり好きでないしの子がおすすめして来た本だけあって、とても読みやすかった。
ある1人の男の視点で物語が展開していく。男女の関係を独特な表現で書かれていた。恋愛小説の類だろう。しかし、いわゆるトキメキと言った物は特に無く、ただ淡々と物語が展開していくだけだ。
僕が読んだ感想を言うなら、女性が好きそうな話で無いとしか言い様が無い。本当にただただ、不毛な話だった。
何か1つ言う事があるなら、表紙に印刷されたタイトル【君と最後に選ぶ言葉】は少しお洒落だなと思った。
僕が本を読み終えると、時刻は6時半頃になっていた。普段なら仕事に行く時間だけど、今日は仕事が無いので正直言って暇だ。
家に居なければならないとは言われて無いので、僕は叔母に一言出掛けてくると言い屋外に出た。
東京は夕方でも騒がしく、人々が活動している事を教えているみたいだ。
僕は、騒々しいのは苦手だから人気の少なそうな道を何も考えずに、歩いて行く。ふと、僕も東京と言う場所に慣れたんだなと思った。何も考えずに歩ける位になっているのだから。
何も考えて無いとは言っても、時刻だけは気にしていた。
あまり遅くまで出歩いて、叔母を心配させる訳には行かないし、何より補導される訳にはいかないから。
そんなこんなで、7時前には帰った。
僕が部屋に入ると、キッチンから夕飯の匂いがした。キッチンにいる叔母に
「ただいま」と、声を掛けると叔母は
「おかえり。今日の夕飯は桜哉君が好きだって言ってた麻婆豆腐よ」と機嫌良さそうに言った。
僕は、叔母の言葉を聞いた時違和感を覚えた。何故、叔母は桜哉が麻婆豆腐を好きだと言う事を知っているのだろうと。
「あら、もしかして、私が桜哉君の好物を知っているのがそんなに驚いたの」と、突然叔母が調理の手を止めずに笑いを含んだ声で聞いてきた。その時の声は、まるで悪魔の笑い声の様な声だった。
しかし、僕は平静を装い「ええ、少しだけ驚きました」と 笑顔で返した。
僕は、自室に戻るとベッドに寝そべって携帯を開いた。携帯の受信ボックスには、しの子から一通のメールが届いていた。
「もうそろそろそっちの生活にも慣れて来た頃かな?なんか、君がいない生活が当たり前になるのが、少し寂しいな…。あっ。
高校っていつから始まるの?」
と、言った内容のメールだった。
しの子らしい文章だと思いながら、僕は返信のメールを打ち始めた。
「今日、入学テストがあった。始まるのは多分、今月の下旬頃だと思う。」と、返信すると
「そうだったんだ!?教えてくれたら、応援のメールとか遅れたのに…。でも、なんか君らしいね(笑)。所で、何処の高校受けたの?」と、しの子からメールが送られて来た。僕は、
「××××高校を受けた。」と返した。
「えっ。凄じゃん。××××高校って言ったら、都内でも有名な進学校だよね。
前に1回だけ写真で校舎を見た事があるんだけど、日本の学校とは思えない様な建物だったって事覚えてる。」と、しの子からすぐに返信のメールが送られて来た。
「今日、実際に見たけど凄かった。本当に校舎がデカくて、正直驚いたよ(笑)。」と僕は、返した。
こうして、しの子とメールでやり取りをしていると、まるで今しの子と話しているんじゃないかと、思えてくる。許されるなら、この時間が一生続いてくれればいいのにとさえ思ってしまう。
しかし、現実と言うものは残酷でこの時間はあっという間に、1人の悪魔によって壊されて仕舞うのだから。
コンコンと、数回扉をノックする音がした後、叔母が入ってきて
「夕飯の準備が出来たから、早く食べに来てね」と笑って言った。言い終えると、すぐに出ていった。
僕は叔母が出ていった数十秒後にリビングに行った。
リビングのダイニングテーブルには、麻婆豆腐と白飯が置いてあった。
僕はいつも通り、白飯を1口食べてから麻婆豆腐を1口食べた。
味は所謂、家庭の麻婆豆腐と言った味だろう。しかし、叔母が作ったからか、この麻婆豆腐には隠し味に狂気が入っている様な気がしてしまった。
僕はそんな狂気が入った夕飯を食べ、自室に行き、机の上に置いてあった 1枚の写真を手に取った。
この写真は、僕が初めて撮った夕日の写真だ。確か、しの子に頼まれて撮った物だったと記憶している。
僕は決して空が好きな訳では無いが、この写真を見るといつも思う。
この同じ空の下の何処かで、しの子は今日も生きているんだろうと。