初仕事
僕は叔母が作った朝食を警戒しながらも、食べ始めた。すると、叔母は笑顔で
「今日から、君には桜哉君として生きて貰わないとね」と言った。
僕は、叔母の言葉が何を意味しているのか、大体理解できた。
「それは、僕の名前を改名すると言う事ですか」と、聞くと叔母は笑顔で
「いいえ。違うわ。貴方の戸籍から変えるの」と、言った。
僕は血の気が引いていくのが感じられた。
叔母は更に、「やっぱり、私の見立ては正しかった。貴方には素質があるわ」と1人うわ言の様に言った。
僕は、「何の素質があるんですか」と恐る恐る聞くと、「殺し屋としての素質よ」と言った。その言葉を聞いた時、瞬時に理解する事が出来なかった。いや、理解する事を脳が拒否したと言った方が正しいと思う。
「そんな訳無いじゃありませんか」と、僕は少し冗談を言う時の様に言った。
すると叔母は真剣な表情になって、
「本当よ」と言った。
僕は、そんな叔母の言葉を聞き、更に血の気が引いていくのを感じた。
「あっ。そうそう、言い忘れてたんだけどもう既に戸籍は変えたから」と言った。
その後の記憶は殆ど無く、気付いたらベッドの上で寝ていた。
僕が起きると、既に外は夕方になっていた。空を見ようと、ベランダに出たが、東京の空は地元の空とは違って狭い様に感じた。
ふと携帯を見ると、しの子からメールが届いていた。
「東京の空はどんな感じ?やっぱり、狭いのかな?」と言った内容だった。
しの子らしい文章だと思うと少し安心した。僕は、「しの子の言う通り、東京の空はとても狭いです」と文章と言っていいのか分からないくらい短い文打ち、送った。
すると、しの子から「やっぱり、そうなんだ(笑)。そう言えば、君は夕日が好きだったよね?分からないけど、綺麗に撮れたから送るね」と言った返信が送られて来た後、夕日の写真が送られて来た。
その写真に写っていた、夕日はとても綺麗で、地元の空を想起させた。
僕は、しの子に「ありがとう。大事に保存するよ」と、返信した。
そんなやり取りをしている間に少し寒くなったので、部屋の中に戻ると、
「今日は桜哉君の初仕事をして貰おうかな」と、叔母が言ってきた。
叔母の言う仕事が何を意味しているのか、解ったので僕は何も言わ無かった。
「あら、桜哉君聞いてるの」と、叔母が聞いてきたので、「聞いてますよ」と返した。
「そう、なら今から説明するわね。
今日桜哉君に殺って貰うのは、連続通り魔事件の犯人の始末よ。今日は初仕事だから、私も一緒に行くけどこれからは1人で行ってもらうからね」と、叔母は仕事内容を説明した。
僕は叔母と共に、郊外の方に来ていた。郊外は中心地の様な騒がしさは無く、どちらかと言うと、懐かしさを覚えた。
そんな事を思っていると、
「はい。それじゃぁ、後は1人で行ってきて」と叔母は言った。
僕は、仕方なく次の犯行現場になると思われる場所に向かって歩き出した。
「ちょっと、君。こんな時間に1人で何しているんだ」と、警察らしき人が声を掛けて来たので、
「すいません。塾が長引いてしまい…」と、答えた。すると、警察らしき人は
「暗くなるから気を付けなさい」と、言い僕から離れた。
僕も、その人に背を向け、反対側に数歩歩いた後、背後から刃物を刺される予感がしたので、瞬時に振り返りながら避けた。
「感の鋭い奴だ。だけど、遊びはこれからだからな」と、先程の警察らしき人が刃物を持ちながら、僕に近ずいて来た。僕は、数歩後ずさったが、そこで足を止め、奴が距離を縮めで来るのを待った。
奴が近ずいてきたので、僕は奴の顎の下から思いっきり蹴り、奴から刃物を奪い取ると、一思いに右目を刺した。
奴は死んだ。
僕は、緊張していたのかその場に座り込んでしまった。
慌てて奴の脈拍を確認したが、脈拍は感じられなかったので、少し安心したがそれと同時に罪悪感が押し寄せてきた。
僕には叔母の言う通り、殺しの才能がある様だ。
叔母が今回の結果を知れば喜ぶだろう。しかし、僕は連続通り魔事件の犯人を殺した事実を受け入れたく無かった。