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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第七章 王家篇Ⅳ
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第80話 出来損ない少女の新たな日常




キリュウと仲直りした後は、比較的に穏やかな日々を送っていた。

マナは部屋から出ないように言われているため、今まで手を付けられなかった刺繍や読書など、ゆっくり出来た。

ロンやスズランはついているが、キリュウが部屋に帰ってくるのは夜だけになった。

きっちりとファーストⅠの仕事を叩き込まれている最中だとか。

たまに寄ってくれる女王からの情報で知る。

キリュウはマナの時には仕事の話をしてこない。

王女仕様の時だけと決めたのだろう。


「………確かにマナの時に仕事の話聞くと、王女として飛び出していきたくなるしね…」

「ふふ。マナらしいけどね?」


今、目の前に女王がいる。

今日は仕事が少なく、早く終わったそうで。


「それで、キリュウはファーストⅠとして、認めて貰えそうなの?」

「まぁ、及第点とは言えないけど、良い感じになってきたわよ? ヘンリーも漸く納得してきたし」

「………ファーストⅠよりセカンドⅡの方が上ってどうかと思うけど……」


ヘンリーの許可が必要と言うことは、現在の立場では逆。

マナは苦笑した。


「仕方ないわよ。だって仕事できるのってキリュウよりヘンリーだし」

「そんなハッキリ言わないであげて下さい……」

「期待を裏切ったのはキリュウの方だから。難易度が上がるのは無理ないでしょ」

「………そうですね…」


キリュウの援護をしたいけれど、こればかりはキリュウの実力で勝ち取らなければならない信頼。


『………大丈夫。キリュウなら、どんなことでもやり遂げてくれるって信じてる』


マナがもうキリュウを疑うことなどない。

あの日、忠誠の言葉を聞いた時のキリュウの顔を思い出す。


「それよりマナ、もう体の違和感はない?」

「大丈夫です」


実はキリュウとの仲直りが出来て、二人が笑い合っていた直後ぐらいにマナは体の違和感に気づいて唇を押さえた。

それに瞬時に反応したキリュウが、マナを寝かせて女王を呼びに行った。

体の怪我は女王が回復させていた為、別の何かだと判断した女王が王家専属の医者を呼んだ。

結果は心労による吐き気だと分かった。

気が抜けて疲れが一気に来たのだろう、と。

キリュウが更に過保護になって、部屋から出ないようにと言ったのだ。


「良かったわ。ここまできて何かあったら、マナが守ってきたものが台無しになるものね」


微笑まれ、マナも微笑んだ。


「………でも、良かったんですか? フィフティ家とラインバーク家に最初から乳児を行かせた方が、子もその家の者だと認識して今後生活を送るでしょうに」

「そうね」

「幼児からだと物心ついていますし、王家なのに王族貴族と名乗らなければならない。その後の成長後、どうなるか分かりませんよ」

「それでも、少しでも本当の両親の傍にいることは大切よ」


女王の言葉と顔を見て、マナは失言に気づく。

女王は乳児のマナを近くで見られなかった。

成長を見られなかった。

なにより――


「………貴女をアルシェイラに見てもらいたかったわ」


本当の父親にマナを見せてあげられなかった。

マナに本当の父親を見せてあげられなかった。

更に、壊れて操られた実の父親に会わせてしまった。

女王の心がまだあの時にあることをマナは知る。

シュウがいても、アルシェイラの事を忘れることはない。

マナはソッと目を閉じた。


「それに」


続けられた言葉に、マナは視線を向ける。


「この国のトップは世襲制ではなく魔力量と実力で決まる。子供達が王家にこだわることはないように教育するし、王宮に入りたいのなら実力で入ってくれるようにすれば良い。キリュウのようにね」


その言葉にマナは頷いた。


「貴女は子を産んでも暫くは子育てがあるし、定例会議だけにするから気負わずゆっくりなさい」

「………国に問題は」

「出てないし、もしあったとして貴女が出られずとも、臣下達がいるでしょ。任せられる強さも学びなさいな」

「任せられる強さ…」

「貴女はキリュウに任せられなかったから全て自分で抱え込んだ。貴女の失敗はそこから。まずそこを直しなさい。任せるのよ。臣下にね。私がシュウやユーゴにしているように」

「………そう、ですね」


女王の言葉が胸に刺さる。


「貴女の今の仕事はゆっくりすること。王女仕事なんかしたら、今度こそキリュウを取り上げるわよ」

「わ、分かりました…」


マナは苦笑し、了承する。

それに女王が頷き出て行った。


「………容赦ない」

「それが女王ですからね」

「そう、ね。ごめん、お茶ちょうだい」

「ダメです」

「え……」


スズランに言えば却下され、マナは唖然としたがすぐに苦笑した。


「ごめん。お水ちょうだい」

「はい」


コップに水を入れてもらい、マナはゆっくりと飲んだ。


「………完成するかな?」

「大丈夫だと思いますよ。このまま何もなければ」


スズランに確認し、マナは微笑む。


「ありがとう。手伝ってくれて」

「むしろ手伝わせて下さってありがたいです。お嬢様が遠慮することなく」


何だか責められているような気になり、マナは困ったように笑った。


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