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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第一章 魔導科学園篇
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第08話 出来損ない少女と冷血の貴公子のデート




「い、いって、まいります……」

「「「「「行ってらっしゃいませ。お嬢様」」」」」


学園の休日、キリュウとの待ち合わせ場所に行く為、マグダリアはそわそわと屋敷を出た。

キリュウの御用達の店。

貴族が愛用している杖を扱っている所だと言うので、マグダリアは侍女にお願いし、着ないままクローゼットにしまわれていた洋服を部屋に広げてもらった。

どれがいいか悩んだ末、結局侍女に選んでもらった。

消極的なマグダリアに合わせて、あまり目立たないような服。

首から胸元までクリーム色の生地。

つなぎ目にレースが控えめに付けられている。

肩の所はふんわりと余裕を持っており、手首まではストレート。

手首の所にはレースがまたついている。

スカートの部分は全体的に薄桃色の生地で作られており、肩幅くらいであまり膨らみがない。

ワンピースに少しフリルがついているだけのシンプルな作りで、控えめなマグダリアにはこれぐらいが良かった。

テテテッとキリュウとの待ち合わせ場所まで小走りに走っていく。

学園にも徒歩で向かっているため、歩くのは苦ではない。

普通は馬車で移動するのだが、フィフティ家への遠慮がここにも出ている。

チラッとマグダリアは後ろを視線だけで見る。

フィフティ家の護衛だ。

マグダリアに気付かれないようにつかず離れずを繰り返しているのだろうが、魔力探知が行えるようになったマグダリアには意味がない。

護衛達はマグダリアに起こった事をありのままに両親に伝えているのだろう。

なら、学園の行き帰りで起こった事も全部筒抜けになっている可能性が高い。

知っていて両親は言わずに今まできているのだろう。

申し訳ないと思ってしまう。

良い杖が見つかったら、両親に魔法を見せよう。

自分は成長した、と。

心配かけて、ごめんなさい、と。

けれど、今日は遠慮して欲しい。

自分が他人、しかもアシュトラル家の人と会っていることが知れたら、どうなるか分からない。

まだ付き合い始めたばかりだし、なにより恥ずかしいのが本音。


「………撒くかな…」


ポツリとつぶやくマグダリア。

随分強気なマグダリアの言葉。

フィフティ家に入って申し訳なさが強く、控えめになっていたのは事実。

マグダリアは、両親の名に傷がつかないように、目立たず過ごしていた。

自分が負けず嫌いで諦めが悪いのは気付いている。

そして普通に話せば口が悪くなるのも。

平民――施設にいた時期は平民に囲まれ、蔑まれ、殴られ、罵られ続けていた。

幼かったマグダリアは自然とその言葉を吸収し、話していた。

だから口が悪いのは仕方ない。

心の中で毒づいている時の事を思い出し、苦笑する。

でも魔法が使えないのは事実だった。

問題があった自分が、強気な事を言えばフィフティ家の名に傷がつく。

それが嫌だった。

キリュウに対してどもってしまうのも本当だ。

恋愛などしたこともないのだから。

初めての事に戸惑うのは仕方がない。

それにあまり喋るのは得意じゃない。

両親とも喋る機会は少ないし、令嬢としての言葉を喋らないといけない時は自分の言葉を考え、丁寧に喋らなくてはならない為、疲れてしまう。

自分の言葉を素直にぶつけてしまっては相手に悪印象を与え、さらに嫌われてしまう。

誰にも迷惑はかけたくない。

でも、もう少しだけ自分を出せたら…

そんな事を考えながらマグダリアは十字路に差し掛かった時、横道に逸れた。

慌てて追ってくる護衛達。

塀の上に風を操り飛び上がって塀の内側に入る。

肉眼で見なくとも、魔力探知で護衛達が走り去っていくのを確認。

暫く時間を過ごして元の道に戻った。

そして待ち合わせの場所に急ぐ。

余裕をもって屋敷を出たが、大分時間を無駄にしてしまった。

少し息を切らしながら約束の場所を目指し、視界に入ってきたところで足を止め、深呼吸して息を整える。

髪が乱れたかも、と思いながら。


「マグダリア」

「ひゃぁ!?」


前かがみになって胸を押さえ、息を整えていて油断していたところに、突然後ろから声をかけられ飛び上がる。

慌てて振り返ると、そこには立派な馬車が止まっていて、キリュウが降りて来ていた。

走ってきた所を見られたかもしれない。

そんな不安は、キリュウを見た瞬間に吹き飛んでしまった。

彼の私服姿に目を奪われてしまったのだ。

全体的に黒で統一された服装で、皺のないシャツの襟元をくつろげ、ボタンは二つほど開けられているので彼の鎖骨が見え隠れしている。

パンツはストレートで彼の長い脚を引き立てるようだ。


「っ」


シンプルすぎるかと思ったが、彼の容姿では着飾らなくても魅力的になる。

かぁっと顔が赤くなるのは仕方がない事だ。

直視できずに視線を定められないマグダリアにゆっくりと近づいてくるキリュウ。


「自分だけで来たのか?」

「え……っと…は、い」


コクンと頷くと、キリュウは眉を潜めてマグダリアの顔を覗き込む。

それによってマグダリアの視界にキリュウの肌蹴ている胸元が映り込み、さらに視線を彷徨わせる。


「何かあったらどうする。何故ここまで家の者に送らせない。専用の馬車があるだろう。護衛もつけずに何故一人で来た」

「そ、れは……」


言えない。

護衛を撒いてきたなど絶対に言えない。

静かな声なのに、キリュウが怒っているのが分かった。

言ったら絶対に怒られる。


「二度とするな。何かあったら、俺はどうすればいい」


そっと両頬をキリュウの両手で包まれた。


「俺はお前を守ると言った。が、俺がいない時には守れない。そんな時に攫われたりしたらどうする。お前を失ったら、俺は……」

「………すみません」


マグダリアは目を伏せて謝る。

恥ずかしいという理由で、まだ彼と付き合っているという事を気づかれたくなくて、護衛から逃げた。

言わない方が良いかもと思ったが、素直にあった出来事をキリュウに話した。

いつも徒歩で学園に向かっていた事。

まだ馬車を使うのに抵抗があって、ここまで徒歩で来た事。

恥ずかしくてデートを見られたくなかったこと。

途中で護衛を撒いたこと。


「………はぁ」


聞き終えたキリュウはため息をついた。

ビクッとマグダリアは体を震わせる。


「あまり、可愛い事を言うな」

「………え?」


マグダリアがキリュウを見ると、キリュウの顔はほんのり赤くなっていた。


「閉じ込めたくなる」


そう言って唇を塞がれた。

慌てて周りを見渡すと、誰も見ておらずホッと息をつく。


「………心配するな」


そっと体を離して身を起こすキリュウ。


「俺がお前の可愛い顔を誰にも見せるわけがないだろう」


照れもせずにキリュウは言うが、逆にマグダリアの方が恥ずかしくなる。

ふと魔力感知にフィフティ家の護衛が引っかかった。


「………ぁ…」


その方向を思わず見てしまった。

どうしよう、と思っているとキリュウがマグダリアの手を引く。


「せ、先輩……?」

「今は俺がいる。護衛は邪魔だ。行くぞ」


キリュウはマグダリアを引っ張り、待ち合わせ場所だった杖の店へ移動し店に入った。

中に入ると、店の外の雑音が一切聞こえなくなった。

防音術でも施しているのかもしれない。

店の中には見やすいように、綺麗に杖が並べられていた。

平民向けの店ではこうはいかない。

格子状の網の中にバラバラに入れられ、気に入ったデザインの杖を探すのに時間がかかる。

安い杖故の置き方かもしれないが。

ここはいかにも高級店。

同じデザインの杖は一切ない。

ふと上の方を見上げると、ヘンリーが使っていた杖に似たものがあった。

ヘンリーもここで購入したのかもしれない。

そして値段を見て、マグダリアはフイッと思わず顔を逸らしてしまった。

思った言葉はただ一つ『高っ!』だった。

手持ちの金額で足りるのだろうか、と心配になる。

毎月お小遣いと称して両親からお金を貰っていたのを、全然使っていなかったので結構貯まっていたのだが、それでも足りないかもしれない。

どうしよう…と思いながら、カウンターに歩いていくキリュウの背を追った。


「これはいらっしゃいませ。キリュウ坊ちゃん」

「坊ちゃんは止めろ」


店主の言葉にキリュウが眉を潜める。

御用達であるため、よく知っているようだった。


「おや、珍しい。坊ちゃんが女性同伴とは」


ほっほっと笑う初老の店主。

坊ちゃんというのは止めないらしい。


「フィフティ家のご息女だ。今日は彼女の杖を見に来た」

「こ、これは失礼いたしました!」


王族の名を聞いて、店主が慌てて礼をしようとする。


「あ、あの……私…養女なので、そんな、礼とか、しないで、下さいっ!」


慌てて止めようとするが、キリュウがそれを止める。


「マグダリア。お前はもう、養女だろうがフィフティ家の者だ。貴族も平民もお前に頭を下げるのは当然だ。生まれがどうあれ、もうお前は王族なのだ。慣れろ」

「………」


キリュウに言われ、マグダリアは息を飲む。

甘い考えは許されないと言外に言われた。


「それと、敬語は下の者に使うな。俺にも、ヘンリーにもな」

「え………!?」


それは無理! と大声で言いたくなった。

ヘンリーはともかく、キリュウにため口など恐れ多く、敬語を使わざるを得ない。

憧れていた存在なのだ。


「いいな」

「………は、はい……」

「違う」

「え……っと…う、うん……」


おずおずと頷くと、キリュウはポンッとマグダリアの頭を撫でた。


「仲がよろしいですな」


店主がいたのだと思い出し、マグダリアの頬が染まった。


「恋人だ」

「ほぉ。これは今後が楽しみですなぁ」


今後って何!? とマグダリアは思ったが言わなかった。

キリュウの口から今後の事など聞きたくはない。

いくら好き同士でも、学園を卒業すればそれぞれの道を歩む。

おそらくキリュウは王宮へ、そして宰相の地位へ。

そしてマグダリアは街や地方に飛ばされるだろう。

そうなれば会う事も無くなる。

キリュウはそのうち、家の者が決めた婚約者と結婚し、後継者を得る。

その相手は決してマグダリアではない事は分かっている。

だから今のうちに沢山思い出を作っておこう。

キリュウと店主の視線がマグダリアに向いていない事を確認し、目を伏せた。


「では、杖を選びましょうか」


店主の言葉にマグダリアの思考が途切れる。


「お嬢様、恐れ入りますが両手を出していただけますかな?」

「え、あ、こう…です……こうでいい?」


敬語になっているのをキリュウの鋭い眼だけで止められ、慌てて言い直した。

ため口慣れない……と思いながら。


「はい。では、魔力を両手に集めるようなイメージを」

「………?」


何故そんな事を言うのだろうかと首を傾げる。


「ああ、お嬢様は初めてでしたな。平民の杖には何の細工もございませんが、私共貴族様や王族様の御用達の店の物は、それぞれに合った杖をご用意させてもらうようになります。つまり、分かりやすいようにご説明しますと、お嬢様の魔力に合った杖をオーダーメイドでお作りさせていただくようになります」

「え……じゃあここの杖は…」

「ここの杖は飾りのようなもの。今までお作りさせていただいた杖のレプリカです。このデザインに似せて、といった見本のようなものですな」

「………なるほど……」


納得していると、キリュウの顔が視界に入る。

少し笑っているように見えた。

マグダリアの様子を微笑ましく思っているのかもしれない。


「では、魔力をお願いいたします」


コクンと頷いて、マグダリアは魔力を込めた。

手の平に魔力が集まり、魔力の塊が目に見えて現れる。

その塊は球体になり、色はマグダリアの髪色と同じ紫になった。


「ほぉ。珍しい色だ」


店主はその球体に手を当て、何かを調べている。

キリュウもそれを見つめていた。


「よくわかりました。もういいですよ」


マグダリアは魔力の放出を止め、球体は消え去った。


「では、お嬢様。デザインの案はありますかな?」

「………まだ…」

「それなら少し店内を見てください。何かアイディアのヒントになるかもしれません」

「わかり……分かったわ」


キリュウに睨まれる前に、慌てて店内を見渡す。


「坊ちゃま、少しよろしいですかな?」

「どうした」


二人は奥の方へ入って行く。

首を傾げるが、マグダリアは特に気にせず店内を回った。




「坊ちゃま、あの方は何者ですかな?」

「マグダリアか? 平民の出で、施設に居た時にフィフティ家の養女に引き取られたと」

「………」

「何かあったか?」

「本当に平民の出で? あの魔力量。私が今まで見てきた王族より遥かに強く多い」

「………何が言いたい?」

「少しであれだけの魔力量を出せるのでしたら、彼女はこの国の王より強い魔導士になるでしょう」


その言葉にキリュウは目を見開く。


「坊ちゃまの魔力量も相当でしたが………坊ちゃま、彼女が大切なら目を離さない方がよろしいでしょう。彼女は……敵が多くなる…」


キリュウはその言葉に視線が鋭くなる。


「杖を持てば、魔力のコントロールが今までの比ではなく、上手く出来るようになるでしょう。彼女の魔力量では学園の授業など、息をするのと同じくらい自然で、疲れを知ることもない。そんな様子が教師から王に伝わったなら……」

「………戦の戦力になる、という事か」

「はい。戦に使われ、そして都合のいいように今後扱われることとなると思います」

「………なら、あの性格は付け込まれることとなるだろうな」


キリュウの言葉にくすりと店主が笑う。

怪訝そうな顔で見ると、店主は笑みを見せながら口を開く。


「坊ちゃま。女性は誰でも、表の顔と裏の顔があるのですよ。坊ちゃまはまだお嬢様の本当の姿を存じ上げてないと思われますよ」

「………それは偽っているという事か?」

「いえいえ。お嬢様の先程の顔も本当でございます。本当にお好きなら、裏の顔も愛しておあげなさい」


意味が分からないという顔をするキリュウ。


「もう少し、内面を見てあげてくださいと言っているのですよ。彼女は、弱くない」


弱くないという店主の言葉に、キリュウはこの店の前で待ち合わせていた時に起こった事を思い出した。

護衛を撒いたと言ったマグダリア。

気の弱い女なら、護衛はいた方が絶対にいいはずだ。

例え恥ずかしくとも。

キリュウといる所を見られたくないと言っても、近くまでついて来てもらい、そこで別れたらいいはずだ。

なのにマグダリアは比較的屋敷に近い所から撒いてきたと言った。

護衛を説得したのではなく、撒くという発想になるのも違和感がある。


「………なるほどな」


店主の言葉に納得する。

今後、こういう事があれば意識しようと思った。


「さて、お嬢様。杖のアイディアは出来ましたかな」


店主が言いながらマグダリアの方まで行くのをキリュウは眺めていた。

店主とデザインを決めているマグダリアの顔は楽しそうだった。

デザイン画を店主が描き、細かい部分を決め、後日出来上がった時に再度調整するという事になった。

終わった後キリュウと目が合い、ずっと見られていたことに気付いてマグダリアは頬を染めた。

それを可愛いと思いながら、キリュウは目を細めた。




店を出てから帰るのかと思っていたが、キリュウはマグダリアの手を引いて街中に歩いていく。


「ど、どこに……行くんで……行くの…?」

「まだ慣れぬか」

「慣…れませ………慣れないわ…」

「そのうち慣れる」


フッと笑みを見せマグダリアを見るキリュウに、マグダリアは頬を染める。

そんなマグダリアに裏の顔などあるのかとキリュウは思うが、こういう事には疎い事を自覚している。

だから店主やヘンリーの言葉を疑わない。

むしろ、マグダリアに裏の顔があるのなら、引き出したいと言うのが本音だ。

キリュウはありのままにマグダリアに接していた。

自分を偽る事はしていない。

そんな自分をマグダリアは好きだと言った。

好きになってくれたのだ。

だから、自分にも嘘偽りのない姿を見せて欲しい。

見て、まるごと全て好きになりたいとキリュウは思う。

どんなことを見ても、知っても、嫌いにならない自信がある。


「ああ、あそこだ」


目的の場所に到着し、キリュウはマグダリアを連れて店に入った。


「………ここは…」


店内はキラキラと光っていた。

ショーケースに並べられた商品。

それを見て、ハッとマグダリアはキリュウを見上げた。


「俺を庇ったせいで、ペンダントを失わせてしまった。禁止されていた魔導具であったとしても、大切なものを失わせてしまったのは俺だ。だから、代わりの物を用意した」


商品を選ぶのではなく、もう用意しているというキリュウに驚く。

真っ直ぐに奥に入って行き、店員に商品を持ってくるよう伝えた。

すぐに店員が十五cmくらいの深紅の箱を持ってきた。

四方に宝石が付いており、箱だけでも高価なのが分かる。

店員から受けとり、キリュウがマグダリアに手渡した。


「開けてみろ」

「………」


唖然としていたが、そっと箱を開けた。

中には銀の細い鎖。

ペンダントトップとして、三cmくらいの紫色のアパタイト。

その中に龍が掘られていた。

紫のアパタイトはマグダリアの髪の色と同じですぐに分かった。

だとしたら……


「………ドラゴン……」

「………」

「………先輩の名前が、リュウ、だから? それに……アシュトラル家、の家紋…も、ドラゴン……だったよね…?」

「………」


マグダリアが聞いても答えなかったが、頬が赤くなっているのを見て、マグダリアは嬉しくて笑った。

その笑顔を見て、キリュウも少し笑みを浮かべた。

マグダリアが笑うと、キリュウも笑う。

それに気づいてマグダリアは、今後も笑おうと思った。

彼が喜んでいる顔を見たいから。

そしてふと、キリュウの首元が気になった。

シャツのボタンを開けているキリュウの胸元がどこか寂しい気がしていた。

そしてキリュウにもペンダントがあればいいのではと思った。


「あ、の……同じの………」

「どうした?」


途中で言葉を止めたマグダリアを不思議に思い、キリュウは聞くが、マグダリアは言いだし難かった。

“キリュウの分も作ってほしい”と言うのは簡単。

けれど、言ったところでマグダリアに財はない。

小遣いは全て杖でなくなってしまった。

前払いという事で全財産を出したのだが、足りなくて不足分をキリュウに出してもらったのだ。

見ただけでも高いペンダントは、マグダリアに買えるものではない。


「………なんでも、ない……」


俯くマグダリアの顔をキリュウは上げさせる。


「言え。俺は、お前の言葉を全て聞きたい。思っている事全て」

「………」

「どんな事でも」


キリュウの迷いない言葉に、マグダリアは迷って、だが口にした。

同じものをもう一つ作れないか、と。

キリュウと同じものを身につけたいと。

そんな考えは持っていなかったキリュウは驚いた。

が、聞いて納得した。

それは良いアイディアだと。


「で、でも……私…買ってあげられ、ない……」

「いい。コレは俺の自己満足で作ったやつだからな。そうか、今度からマグダリアのを作る時に俺も同じものを作れば、揃いになってマグダリアが俺の物だと分からせられるのか」


嬉々として店員に注文した後、納得するように呟いたキリュウの言葉に頬が赤くなるのをマグダリアは感じた。

次もあるのだと、そう思ったから。

それまでに何とかお小遣いを貯めて、自分も贈り物をしようと決心した。

付けて行っても構わないかと聞いたところ、快く頷いた店員。

マグダリアは付けようとすると、キリュウが後ろに回ってペンダントをつけてくれた。

一生大事にしようと、マグダリアは思った。

前に付けていたペンダントより軽く、肩こりの心配はなさそう。

お礼を言って笑うと、キリュウもまた笑ってくれる。

この関係が長く続いてくれればいいと、マグダリアは願った。


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