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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第七章 王家篇Ⅳ
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第78話 出来損ない少女と貴公子の絆④




「じゃあ、お母様に夫としては認められた……っていうこと?」

「ああ。ここに戻った時は、な」

「………」


キリュウはマナの寝ているベッドに腰掛けたまま、マナから視線を外しながら語っていた。

遠くを見ているキリュウは儚げに見えて、マナはキリュウの服の袖を握る。

それに気づいたキリュウは、マナに視線を戻した。


「大丈夫だ。何処にも行かない」

「………ん」


ポンッと逆の手で優しく叩かれ、マナは袖から手を外した。


「それから――」




義父とヘンリーが戻ってきて、俺の顔を見た。

ラインバークとエンコーフも一緒だった。

既にマナはこの場から夫婦の寝室へ運んでいる。

ロンとスズランに任せて。

あの二人なら、大丈夫だ、と。


「アシュトラル、リョウランちゃんは?」

「一命は取り留めた。もう命に別状はない。いつ目覚めるかは分からないが」

「そう。………で?」


ホッと息をつく四人。

そしてヘンリーが俺を睨むように見てきた。

おそらく俺の次の言動次第で、またヘンリーは俺と対立するだろう。

………ヘンリーは俺の友だ。

だが、ヘンリーの一番はマナだ。

それが今回のことでよく分かった。

ヘンリーもまた、マナの臣下。

臣下の心得をよく知っているヘンリーには、俺が不甲斐なく見えているだろうな。


セカンドⅡ臣下、キキョウ・ヘンリーに命ずる。殿下を傷つけた者達をフィフティ家の影と協力して牢へ。一人ずつ尋問室で尋問する際、立ち会いも命ずる」

「………」

サードⅢ臣下、オラクル・ラインバークに命ずる。フィフティ家の影から、今回の騒動を起こした者達の密談の情報を貰い、書面にして俺の元へ」

「………了解」

フォースⅣ臣下、イグニス・エンコーフに命ずる。フィフティ家の影から、不審な動きをしていた王宮魔導士の名前を書面にし、今回捕まえた者達以外がいれば連行し、牢へ」

「………今回の事件に関わってなくてもか?」

「今後も害して来るかもしれない奴らだ。殿下を傷つけた者と接触した以上、徹底的に行く。俺“達”の殿下を傷つけたんだ。容赦しない」

「………了解」


ラインバークとエンコーフはそのまま出て行ったが、ヘンリーは残っていた。


「………で? 偉そうに命令してるけど、漸く臣下としての立ち位置を理解したわけ?」

「………すまん」

ファーストⅠが今更自覚ってどういう事? 臣下の心得を漸く今覚えましたって?」

「………覚えてはいた。……が、行動に移せてなかった」

「へぇ?」

「………すまない…」


ヘンリーが腰に手を当てて睨んでくる。


「まったくだよ。………ホントにしっかりしてくれる? 僕からファーストⅠをアシュトラルに変更した殿下の立場がないじゃない。アシュトラルが自覚しないせいで、殿下がどれだけ肩身の狭い思いをしてたと思うのさ」

「………ああ…」

「何度僕をファーストⅠに戻してって殿下に言いそうになったか」

「………それも、そうなったら仕方ない、と思う……」

「いいや絶対アシュトラルは思わないね。何故だって掴みかかってくるでしょ」

「………」


尤もな事を言われ、俺は言葉を紡げなくなる。


「ま、アシュトラルの口から、『俺達の殿下』って言葉が出たから、これで今回の事で責めるのは止める。でも、なかったことには出来ないからね」

「ああ。当然だろう」

「………で? アシュトラルはリョウランちゃんの傍にいなくて良いの?」

「俺は殿下のファーストⅠだ。仕事を放棄して良いわけないだろう」


俺の言葉に、ヘンリーの顔にようやくいつもの笑みが浮かべられた。

………ああ…

俺はヘンリーのこの顔さえ、あの時から向けられてなかったのだな……

何故だろうか。

学園に居たときは、何とも思っていなかった。

けれど、今は心底ホッとしている。

………そうか。

俺はヘンリーを…いつの間にか、かけがえのない友として見るようになっていたのだな。

………そんな事にも気づいていなかったのか……


「じゃあ僕も行ってくるよ」


いつもの調子で出て行くヘンリー。


「………ぁぁ、頼んだ。………………キキョウ」


もうお前を家名で呼び続けることは、お前に対する俺の心に違和感が出る。

俺は呟くように言った。


「うん、行ってくるよキリュウ」


背を向けたままキキョウはそう言って出て行った。

俺はキキョウが俺の名を呼び返したことに、暫く固まった。

俺の名を呼んでくれるとは思わなかった。

グッと拳を握り、気持ちを落ち着かせる。


「………さて女王。キリュウを認めたのかな?」


聞こえてきた声に、ハッと俺は顔を向ける。


「マナの夫としては、ね」

「では、うちは跡継ぎは当分求められないということですか」


………なんの、話だ?


「残念だったわね」

「ん~…まぁ、うちとしては乳児でも幼児でもどちらでも良いですし、問題ないですよ」

「………あの…」


つい口を出すと、穏やかな二人の顔が向けられる。


「ああ、今の話?」

「………はい」

「キリュウがあのままだったのなら、フィフティ家に今のマナの中の子がオラクルとマグダリアの子として入れられる、っていう話だったのは理解しているよね?」

「………はい」

「で、キリュウとの子はもう作れないけど、フィフティ家以外に王家とラインバーク家の跡継ぎが必要だから、マグダリアとオラクルの実子を両家に入れる。つまりマナは三人身ごもらなければいけない。これも理解しているよね?」

「………はい」


ズキズキと胸が痛む。

ギュウッと心臓を鷲掴みにされたように、息苦しい。

………これが苦しみということだろう。

思わず顔を俯かせてしまう。


「でも、キリュウがマナの夫として女王に認められた。と言うことは、今のマナの中に居る子は、リョウラン家のマナとキリュウの子として産まれてくるわけ」

「………!」


バッと顔を上げると、二人の口角が上がっているのが見えた。


「でも、三家に跡継ぎが必要なのは変わらない。これも理解できるね?」

「はい」

「ということで、マナが三人身ごもるのは変わらないわけで」

「………っ」


まだ、俺以外と関係を持つことは変わらない、ということなのか……?

ギリッと歯を食い縛った。


「キリュウと最低三人は子をもうけてもらい、各家に学園入学前に跡継ぎとして行ってもらうって感じだね。成人まではお披露目は控えられるし、民に王女の子っていうのは伝わらないし」

「………は?」


今、何と言われた……?


「い、や……ラインバーク家の跡継ぎはラインバークとの子でなくてはいけない…と…」

「マナとマグダリアは同一人物だから、マグダリアの子として行ってもらえれば問題ないでしょ?」

「でも、貴族家に王家の子を行かせるのは均衡として……」

「魔力が一番少ない子に行って貰えば良いじゃない。その子が貴族と結婚して子を産めば魔力は少なくなっていくだろうし。女の子だったら現当主とそうなれば一番手っ取り早いけど。当主の妻は早くに亡くなってるから跡継ぎがオラクルしかいないしね。当主と関係持ったらラインバークの血は引き継がれるし」

「………」

「オラクルに適当に女と関係持ってって言っても無理だしね? フィフティ家に入ってるから」


義父の言葉に、俺はどう反応して良いか分からなかった。

マナがラインバークに取られなくて良かったのだが、自分の子が現ラインバーク当主と関係を持たされるのは、良い気分にはなれなかった。


「ラインバーク当主は真面目だからね。遊びは性格的に出来ない。でも王家の娘を行かせて関係を持てと命令すれば出来るよ」

「………」


眉を潜ませると、義父は嫌な笑みを浮かべた。


「それとも、マナとオラクルに命令した方が良いかい? ラインバークの跡継ぎを一人作れと」

「それは…っ!」

「嫌だろう? ならそうするしかないよね? 政略結婚なんて、王族貴族には当たり前なんだから」

「………はい…」


最終的に頷くしかなかった。


「………ま、その娘がオラクルに恋して関係迫っても、一緒だけどねぇ? オラクルも命令に従順だし」

「それは拒否します」


身近な人間と……毎日顔を合わせる人間と娘がそういう事になれば、手が出てしまいそうだ。


「とにかくキリュウ。認めてもらいたくて努力したんだろう? 私達はキリュウをマナの夫として居続ける事を許可した。マナはそのまま君だけと関係を持つ。その見返りとして、絶対に三人は跡継ぎとなる者をこの世に誕生させること。そのうちの一人は女児であることを条件とする」

「………はい」

「でも義務で作るんじゃないよ」

「分かっています」


子は愛すべき者。

マナと同じで大事にしないといけない者だ。


「………マグダリアとラインバークは離縁させないんですか?」

「貴族から王族の家に入ったからね。死ぬまでオラクルはフィフティだよ。でも、形だけで何も問題ないだろう?」

「あ、いえ……そのままラインバークが跡継ぎとは……」

「ならないね。だってオラクルもマナの臣下だ。跡は継げない」

「………ぁ」


そうか…

ラインバーク家と一緒の理由だった。


「キリュウもこういう事には頭が回らないのかな?」

「すみません。今はちょっと混乱しているようです」

「無理もないね。三人が帰ってくるまで時間がある。マナの顔を見てきたら?」

「いえ。今はファーストⅠなので、昼間は。夜になって一段落したら見に行きます」


俺の言葉に満足そうに女王と義父は頷いた。


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