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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第七章 王家篇Ⅳ
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第76話 出来損ない少女と貴公子の絆②




「………女王に認めてもらったって……オラクルの子ではなく、私とキリュウの子…って事で……ちゃんと産んであげられる、の……?」

「そうだ」

「なっ……ど、どうやって……」


キリュウの言葉が信じられない。

マナは唖然と聞く。


「女王はそんなに簡単に意見を変えるような甘い人じゃない!」

「ああ、甘くない。だから俺に対して怒り、俺の子とは認めないとした。俺も甘い考えだと自覚した」

「………甘い、考え……?」

「………すまない。俺は、お前に対しても、子に対しても、何も思いやれていなかった。………自分の気持ちを優先させていた」

「そ、それは私も同じで……」

「いや、お前は俺の子を必死で守っていた。だから俺と対立した。本来なら俺が守らなければならなかった。お前も、子も」

「………キリュウ……」


キリュウの口からそんな言葉が聞けるとは、思ってもいなかった。

キリュウがそんな性格なのは出会ったときから知っていた。

でも、分かっていてもマナはキリュウの意見を優先できなかった。

話さずに、分かってもらいたいと思っていたところで、キリュウに伝わるわけもないのに。

分かってくれないからと最初から諦め、キリュウと話すことをしてなかったマナも同罪なのに…


「………私も、ごめんなさい……キリュウと話し合うことが、最優先だったのに……」

「………その時間を削っていたのも俺だろう。お前の仕事を邪魔して、お前の……マナとしての時間を取らせてやれなくしていた」

「そんなこと……」

「過去の王女の仕事を全て確認し直した」


キリュウが視線をずらし、つられてマナも部屋の隅に視線を向ける。


「………あれは…」

「今までお前が主体となってしていた仕事だ。………俺がやれば済む仕事が沢山あった」

「………」

「お前の采配に異議を唱え、ヘンリー達に振っていた仕事は………本当に時間がかかっていた……臣下としても、俺は失格だ」

「………そんなに責めないで……」

「怒れ」

「………ぇ」

「お前は俺を怒る立場だろうが。何故許す」


ハッとする。

義父にも義母にもキリュウを甘やかすなと言われた。

王女として、臣下を怒るのもマナの仕事。

それをせずにいたから、今の状態なのだと。

マナは自分に対して失笑した。

キリュウが歩み寄ってくれたのに、自分がそれを否定しては、今までと変わらない。

でも……


「………私にも責任がある事よ。だから、今までのことに関しては、キリュウを怒れない」

「マナ……」

「………でも、これからはちゃんと怒る」

「ああ。それでいい」


キリュウの口元に少し笑みが作られる。

それを見てマナの瞳が潤んでくる。


「………ありがとうキリュウ……この子を……愛してくれて……」


マナの腹部が倒れる前と――倒れる前より大きいのは、キリュウが守ってくれたからだ。

そうじゃないと、あの時死んでしまっていただろう。

マナは腹部が通常の大きさに戻っていないことに、心底安心する。

トクントクンと腹部に触れれば鼓動の振動が力強いことを感じた。

――キリュウの子が、いる。


「当然だ」


キリュウが当たり前のように“当然”という言葉を発した。

それに泣きそうになる。

子を愛してくれると分かる言葉。

きっと皆だ。

皆がキリュウを変えてくれた。

マナが出来なかったことを、周りがサポートしてくれたのだ。

なんて情けない妻なのだろうか。

落ち込みそうになる。


『………けど……』


ここで落ち込んで、自分には無理なのだと諦めたら前の自分と一緒だ。

………変わろう。

周りに頼ることなく、胸を張ってキリュウの妻なのだと言えるように。

努力し続けることが、マナの今後の課題だ。

マナは自分に言い聞かせた。


「………ぁ、それでどうして…」

「? ………ぁあ。何故女王に認めてもらえたか、か?」

「そう。………お母様は私…というか、子供を守る為って……」

「だろうな。俺はまず、瀕死のお前達を女王の元に運んだ。義母が回復魔法をかけ続けてくれているうちに」

「………お義母様が…」


マナは心の中で義母に感謝した。

キリュウの変わった姿を見れたことは、話せたことは、義母のおかげだと。

そしてなにより……

キリュウはお前“達”と言った。

子も大事な一人の人間として認識している。

当たり前のように言ったキリュウの何気ない一言が、マナの胸をいっぱいにした。

幸せな気分にしてくれた。


「足でドアを開けたら怒られたが」

「………そりゃそうでしょう……」

「お前達を抱いていたからな。で、そんな事どうでも良いからマナと子を助けてくれと怒鳴った」

「………え……」


キリュウが、怒鳴った?

とマナは唖然とキリュウを見る。


「女王はすぐにお前達を回復させてくれたが……また、マナは目覚めぬ眠りについた」

「………ぁ……」

「その間、前までの俺ならお前の傍を離れなかっただろう」

「………そう、ね…」


でも、キリュウはいなかった。

マナが目覚めて最初の違和感はこれだった。


「だが俺はファーストⅠだ。お前の代わりに臣下の指揮を執る者。お前の傍にいてずっとお前を見ていると、甘えたことは言えなかった」


王女としては喜ばしいことだった。

けれど、妻として目覚めたときにキリュウがいないのは寂しかった。

我が儘な自分に、マナはまた失笑した。

ここからは話が長くなるからと、キリュウに横になるように言われ、大人しく従った。

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