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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第七章 王家篇Ⅳ
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第75話 出来損ない少女と貴公子の絆①




「………ん……?」


あれから一月。

マナは目覚めることない眠りについていた。

ふと意識が浮上する感覚がし、マナは目を開いた。

暫くボーッとしていたが、ハッと周りを見渡す。

自分は、キリュウを助けてそのまま気を失ったのだ。

まだ戦いの場かもしれない。

警戒するも、自分がいるのはキリュウとの、夫婦の部屋だと分かり、力を抜く。

ここにいるということは、無事に解決したのだろう、と。


「………キリュウの匂い……」


………いつ以来だろうか。

自分がここに帰ってくるのは、とマナは寂しそうに笑った。

キリュウと今日は話せるのだろうか、と思った時、キリュウの姿がないのに気づく。

いつもマナと共にいると言っていたキリュウがいない。

ゆっくりと体を起こして周りを見るも、マナ一人しかいない。

………呆れられたのだろうか……

………嫌われてしまったのだろか……

自分勝手な自分は……見捨てられたのだろうか……


あの時――




キリュウの弱々しい声が頭に響いた。

そんな声、聞いたことがなくて…

すぐに飛んだ。

すると、グッタリとして意識がないキリュウがいた。

両腕に魔導具。

キリュウの魔力が放出され続けている。

それに気づくのに時間はかからなかった。

目の前が真っ暗になった。

何故、あの時追いかけなかったのだろか。

何故、通信しなかったのだろうか。

自分の罪だと思って、痛む胸を無視した結果がこれ。

どうして演じているからと、キリュウを後回しにしたのだろうか。

一番大切な人が目の前で弱っている。

考える必要などなかった。

このままキリュウが弱っていなくなってしまうなど、考えたくもない。

キリュウの手にそっと触れる。


「………道具破壊ディストラクシャン


パキンとキリュウの魔力を吸っていた魔導具にヒビが入り壊れ、キリュウの魔力を吸うことが出来なくなる。


「………」


けれど、魔力を吸われすぎてキリュウの顔色が悪い。

魔力の多い人間は、魔力が尽きてしまうと高確率で死ぬ場合がある。

マナは自分の腹部に手を当てた。

………キリュウとの愛の証を、ここまで守ってきたけれど……


「………ごめんね。………お父様がいなくなったら、お母様は生きていけないの……だから……会えなくなるかもしれないけど……許してね…」


この子を失えば、もう子供は望めないだろう。

でも、キリュウは失えない。

かけがえのない人だから。

出来損ないの自分を見付け、魔法を使えるようにしてくれ、そして――


「………大好きだよ、キリュウ……」


だから、生きて……

マナはソッとキリュウの手を握り、更にキリュウの胸元からペンダントも取り出す。


「………こっちにも魔力込めてたら、………もし私が死んでも、キリュウと………魔力だけでも一緒にいられるかな……」


ペンダントトップを握りしめる。


禁術魔法プロイビション魔力譲与マジックトランスファー………魔力量指定……全魔力オール


勢いよく自分の体からキリュウに魔力が流れていくのを感じる。

数秒で、自分を支えられなくなる。

ゆっくりとキリュウの胸元に寄りかかった。

キリュウの魔力量はマナより少ない。

でも、譲与は自分50に対して相手1。

キリュウの意識を戻し、更に動けるようにする為には最低でも500は必要だろう。


「五千は最低いるね……でも、多分敵と戦うことになるだろうし…ヤギョウだけが……いるわけではないと思うし……やっぱり全部渡した方がいいよね……変身魔法に、時空間移動した…けど…………五万は最低でも……残っている……………は………ず………」


視界が歪み、霞んでいく。


「………キリュウ………い……きて…」


そこで意識が途絶えた。




「………生きてる……」


自分の両手を見つめる。

………まだ、自分は生きていていいのだろうか……

あの時、諦めたのに。

子が大事と言っておきながら、喧嘩しておきながら、子よりキリュウを選んだ。

なんなんだろう、この優柔不断っぷりは……


「………結局、私は中途半端………出来損ないだ……」


でも、キリュウだけは失えなかった。

キリュウが生きているから喧嘩も出来る。

抱きしめてくれる。

愛してくれる。

それをあの時、実感した。

キリュウがいなくなるなんて、考えたこともなかった。

だから、キリュウを選んだ。

キリュウがいなくなったら、子供がいてもキリュウの後を追っただろう。


「………勝手な女……」


マナは自分が嫌いになった。

自分勝手にキリュウと子を――周りを振り回す。


「………こんな女……見捨てれば良かったのに……」


今生きているということはキリュウに助けられたのだ。

キリュウだってこんな女嫌いになったはずなのに。

助けてくれた。

ポタポタとシーツが濡れていく。


「俺がマナを見捨てることなどない」


ハッとし、顔を上げるとキリュウがベッド脇に立っていた。


「………キ、リュウ……」

「それに、マナが勝手な女なら、俺も勝手な男だろう。無責任なことをしておいて、マナを妊娠させておいて、子が出来たことを喜べなかったのだからな」

「………」


キリュウの言葉に返せずにいると、ベッドに腰掛けるキリュウ。


「………マナ、歯を食いしばれ」

「………ぇ」


パチンッ。

マナが唖然としてキリュウを見る。

キリュウがマナの頬を軽く叩いたのだ。

食いしばる必要などない程、本当に軽く。


「………死ぬつもりだったのか」

「………可能性はあると思ってた」

「バカが」

「………」


その通りなので、マナは何も言えなかった。


「お前がいなくなったら俺はどうすればいいんだ」

「………それは……生きていてくれさえいれば……」

「俺は言ったぞ。お前の傍にいられないのなら迷わずこの命を絶つと。お前の傍にいることだけが俺の存在意義なのだぞ」


グッとマナはシーツを握りしめた。

キリュウの言い方はまるで――


「じゃあ、あの時のキリュウを見捨てたら良かったって事!?」

「そうだ」

「嫌よ! キリュウがいなくなるのは絶対に嫌!」

「………子を失ってもか?」

「ええ!」

「………」


マナの言葉にキリュウは眉を潜ませた。


「ふざけるな。お前も子も俺のモノだ。勝手に奪うことなど許さん」

「………ぇ……」


キリュウの言葉に唖然とキリュウを見上げるマナ。


「………女王に認めて貰えたぞ。お前の中に居るのはラインバークの子などではない。俺の子だ」


マナは目を見開く。

どうしてそんな事になっているのだ、と。


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